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第23話 デジャビュ

遅くなりました。

ちょっと忙しかったもので、すみません。


「どうかしたのかクルリ?」

 ラフランを出発した二人は、現在馬車で山の合間を移動している最中だった。朝にも関わらず馬車を利用するものは彼らしかおらず、誰に気を使うこともなく快適な環境だったのだが、クルリはずっと難しい顔をしていた。朝からずっとこの調子で、何を話しても話し半分。食べているとき以外のクルリには珍しいことだったのでウェスはずっと気になっていた。

「ちょっと、変だなって」

「変?」

「うん、なんだか前にもこんなことがあった気がする」

「デジャビュじゃないか?」

「デジャビュって?」

 頭にクエスチョンを浮かべてクルリはウェスを見た。

「既視感ともいって、経験したことの無いことでも既に経験したように感じることだ。原理はよく分からないがな」

 ウェスが説明するがクルリはまた難しい顔をする。納得いかないようだ。

「ちょっと違うかな。なんだか決まったコースを歩いているようなそんな感じなんだけど」

「ますます分からんな」

 ウェスはお手上げといったふうに両手を上げる。

「分かりそうで分からない…、あーん、なんか気持ち悪いよー!」

 頭をワシャワシャとかくと、クルリは頬杖を突いてムスッとした表情になった。考えても分からないので諦めることにしたのだが、何かモヤモヤしたものがしっかり残っていて釈然としない気分だった。

 仕方ないのでクルリは気をまぎらわすようにウェスと雑談を交わす。

 馬車はゆったりとフォンヘイムへ進んでいた。

 山の中の風景は木々ばかりであまり面白味はない。

 雑談のネタも尽き、景色を見るのにも飽きてしまい、心地よい馬車の揺れでウトウトし始めた頃。突然の強い揺れで二人は目を覚ました。

「な、なにがあったんだ?」

 おどおどしていると、馬主が顔を覗かせた。

「すんません。道が岩で塞がってるんです。わりぃけんどここまでですわ。こいつがどけられたら先に進めるんですがね」

 二人は馬車を降り、進行方向を見た。

 道のど真ん中に巨大な岩がどーんと陣取っていた。

「まいったな…」

「私が魔術で壊そうか?」

「止めておけ。ここは谷になってるだろ? 下手に強力な魔術を撃ったら崖崩れが起こる」

「…そっか」

「今日は近くの村に行きますわ。こいつがなんとかなり次第出発という形になるんですが、かまわんでしょか?」

 急ぐ旅でもない。

 二人は二つ返事で了承した。




 馬車は先ほどの谷を引き返し、山の中腹にある村モドへとやって来た。牧畜を生業とする小さな村だ。村のあらゆる場所に動物達がいる。

「うわ、何このモコモコの生き物?」

 白いモコモコの毛から真っ黒な頭と手足が生えた生き物が柵の中で草を食んでいた。

「こいつはモクゥ。別名雲羊ともいって、山の高い場所に生息している羊の仲間だ。普通の羊よりも柔らかくて軽い毛は高級品として有名だな。ただ、軽すぎて風に流されやすいから飼育は難しいんだ」

 ウェスが説明する。

「へぇー、ウェス詳しいね」

「まあな」

「じゃああれは?」

 次にクルリは巨大な牙を持つ茶色い毛に覆われた大きな生き物を指差す。

「あれはドボ。動きは鈍いが、その力はとてつもなく強い。大量の荷物を引きながら急傾斜の坂も軽々と登る。温厚な性格で臆病だが、身の危険を感じたときの突進は恐ろしい。木造の建物なら数度ぶつかるだけで壊れる」

「へぇー。食べられる?」

「あいつは草食だ」

「そーじゃなくて…」

「…肉は食用にもなるがクセが強く、好みが別れるところだ。ちなみに俺は苦手だな」

「なるほど」

 そこへ馬主がやってくる。

「どうもこの村に宿はねぇみたいですわ。そんで、ここの村長さんが部屋を貸してくださるみてぇです。ほんにすんません」

 馬主は謝る。道が通れないのは彼のせいでは無い。

「気にしないでください」

「いんや。下調べをしなかったオラがわりぃんだ。ほんにすんません」

 どうも馬主に曲げる気はないようだ。このままでは延々同じやり取りが続きそうなので適度なところで話を切った。

「村長さんの家は?」

「この先です。この道の突き当たりの少し大きい家です。あんたらの荷物はオラが届けるんで、先いっとってください」

 荷物を他人に任せるのは不安だったが、一応貴重品は肩身離さず持っているのでウェスは馬主に任せることにした。

 道を辿り、突き当たりの家までやって来た。

 家の前で白い髭を生やした老人が小さな木製の椅子に腰かけていた。

「あなた方がそうですかな?」

 突然そうですかなんて聞かれてもどう答えていいか分からない。

「じいさん。主語がないって」

 家の中から一人の青年が現れる。

「おお、また忘れておったわ」

「ったく、あらぬ誤解を招きかねないから気を付けろよ」

 青年は老人に注意したあと二人に向き直った。

「あの道は一昨日の夜から通れなくなったんだ。今日くらいには復旧作業が始まるはずなんだが、まぁ、運がよければ明日には通れるようになるだろうさ」

「は、はぁ…」

「まぁ、それまでうちで休めってことだ」

「あ、ありがとう」

「まぁ、上がれ。…っと、おお、俺はロッシ。この村の村長だ」

「あ、あんたが?」

 村長というにはロッシはずいぶん若い。隣の老人が村長だと思っていただけに二人は驚いた。

「まぁ、みんなそんな顔をするんだ。じいさんがもうこんなだから早めに順番が回ってきたんだよ」

「世界は広いね…」

「ああ」

 ぽかんとした表情をもとに戻すと、二人は招かれるまま家に入った。

 ちなみに馬主はこの後すぐにやって来た。






 村長の家で彼らは夕食をごちそうになっていた。外は既に暗くなっており、夕方から突然降り始めた雨も強くなる一方だった。また、風も強くなってきたため、世話になっているお礼にと二人もモクゥを小屋に入れるのを手伝った。何匹か風に飛ばされそうになったが、そこはロッシが華麗な動きでキャッチしていた。

「いやぁ、まぁ、夕方は助かったよ」

 ロッシは面白そうにそんなことを言った。

「しかもウェストールさんは筋がいい。この村でモクゥ飼いをやらないかい?」

「俺は今の方が性に合ってるんで」

「そうか。まぁ、老後にこの職に就くのもありだな。しかし、クルリさんは残念だな。まさか捕まえたモクゥと一緒に飛ばされちまうとは」

 ロッシはにやにやしながら言った。

「私はこうゆうのは向かないなぁ…」

「まぁ、得手不得手は誰にでもあるもんだ」

「むぅ…」

 クルリはつまらなさそうに口を尖らせた。

「でもウェスは本当に上手だったよね。なんか慣れてるみたい」

「ん、ああ。この仕事をする前は似たようなことをやってたからな」

「へぇ」

「どうりで手際がいいわけだ」

「ところで、おじいさんはどうしたの?」

 クルリが思い出したように言った。

「じいさんは寝たよ。あの馬主もな」

「ふぅん」

「しかし、まぁ、この天候じゃ復旧作業も進んでないんじゃないか。明日の出発も厳しいかもな」

 ロッシは窓から外を見た。

 風に煽られた雨が激しく窓に打ち付けられていた。


 ―コンコン


 そんなときノックをする音がした。

 こんな日に誰だ、とロッシが入り口を開ける。

 そこには鎧を纏った兵士が二人立っていて、その間にローブを被った人物が一人いた。

「ここがモド村の村長宅と聞いたが?」

 片方の兵士が言った。

「まぁ、そうだ」

「道の復旧作業が終わったのだが、悪天候のため帰還が困難になった。何処か一日屋根を借りられる場所は無いだろうか?」

「あぁ、ごくろうさま。それならうちが部屋を貸そう。既に三人ほど先客が居るが、幸い部屋は有り余ってるんでな」

「ありがたい」

 兵士は嬉しそうに笑った。

「リリア様。此方で部屋を貸してくださるそうです」

 ローブを被った人物に兵士が言った。

「それはよかったです」

 ローブの人物が呟いた。

「へぇ、王宮魔術士か。なるほど。確かにあんたの風の魔術はこの仕事には向いてるな」

 ウェスが呟いた。

「…! 貴様! なぜそれを!」

 二人の兵士が武器を構えた。

「家族のことを知っていて何が悪い」

「家族…、だと?」

 兵士が狼狽えていた。

「久しぶりだな、リリア」

「ほんとうですね」

 ローブの下にはウェスと同じ色の髪と瞳を持つ女の姿があった。

「え、ウェスって妹が居たの?」

 クルリが驚いた顔で口にした。

「ん? ああ、そうだが…。何で妹だってわかったんだ? 俺は一言もそんなこと…」

「へ? あれ? なんでだろ…?」

 クルリは不思議そうに腕を組んだ。

「兄さん、どうしてこんなところに?」

「帰ろうと思ったら道が塞がっていたんだ。それでここに世話になっている」

「まぁ、この雨の中なんだ。あんたらも早く入りな」

 ロッシは兵士とリリアを招き入れた。

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