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第22話 蒼夜の光

大まかな流れは作っていたけれど、考えていた分がそろそろ尽きそうです…

 ウェス達がゴーレムに追われる少し前。

 クルリは砂煙の舞う街中を走っていた。逃げ惑う人々と共に、彼女も逃げていた。

 怪物を引き連れたゴーレムはすぐ後ろまで迫っている。追い付かれるのは時間の問題だった。

 できるのなら倒してやりたいとは思うが、ウェスの言った通り、クルリはどう考えてもあれに勝てる気がしなかった。それに、彼の言い付けを守らないわけにはいかない。

 必死で逃げているにも関わらず顔が火照るのをクルリは感じた。

 まぁ、それは置いといて…。

 そもそも勝てないものに挑むほどクルリもバカではない。あれには絶対勝てないとおもった。それだから周りの人達も逃げているのだろう。だが、単に逃げているだけということには釈然としないものも感じていた。

 後ろから聞こえる足音。きっとそれだけで命を落とした者もいるのだろう。

 命とは何と軽いものか。あのような兵器が平然と作られた時代ではもっと命の価値は軽かったのかもしれない。

「?」

 クルリは走る速度を緩めた。

 今、視界に何か異質なものが映った気がしたのだ。

 人々の流れは全て同じ方向を向いている。その中に一点。逆方向の流れを見た。

 それが何なのか確かめようと思ったが、グイグイ押されるこの流れの中で探すのは無理だ。クルリは人々の流れを横切り、近くの建物の隙間に入り込んだ。

「あの人…」

 落ち着いた場所で探すとすぐにその異質な流れは見つかった。周囲より頭ひとつ分飛び出ている。

 緋色の髪の人物。

 あのゴーレムに立ち向かう様子でもなく、ただ歩いている。

 その人物を見失わないようにクルリは物影からのぞきみる。

 緋色の髪の人物が何やら腕を動かした。軽く振っただけのようだが、何かをしているのだろうか。

「お、おい!」

 誰かが言った。

「ゴーレムが引き返していくぞ?!」

 クルリはゴーレムを見上げた。

「怪物達も逃げていく!」

 ゴーレムがその向きを変え、荒れた街の方へ引き返していく。人々の流れは止まっていた。

「た、助かったのか?」

 助かった?

 本当にそうなのだろうか。

 あの緋色の髪の人物が腕を振ったらこうなった。ただの偶然だろうか。だが、偶然にしてもあの人物の行動が理解できない。戦おうとしていた様子でもなかったし、何のためにあんな行動をしたのだろうか。

「…まさか」

 あの人物がゴーレムと怪物を操っていた。そんな可能性は無いだろうか。

 だとするとゴーレムが引き返したのも、怪物が逃げ出したことも、あの人物の行動も全てに納得がいく。

 クルリは緋色の髪を探す。が、その姿が見当たらない。少し目を離した隙に逃げてしまったのか。

「え?」

 クルリはもう一度その場所を見た。

 ゴーレムの肩の上。そこで緋色の髪を揺らしながらそいつは立っていた。

 可能性は確信に変わった。

 あいつがこのゴーレムを操っている。

 そう思った時にはもうクルリは走り出していた。

 走っているといってもやはり一歩の大きさが違う。やはり距離が離されてしまう。

 しばらく走っているとゴーレムが再び方向を変えた。振り返ったあとしばらくキョロキョロしていたようだが、何かを探していたのだろうか。

 その間にクルリとゴーレムの距離は縮まった。

 そして彼女は見た。

 地面にうつ伏せになっているウェスの姿を。

「ウェス!!」

 クルリが叫ぶとゴーレムが足を上げた。

 クルリはそれを見て血の気が引いた。それは歩くために足を上げたのではない。何かを踏み潰すために上げた足だ。

『空気焦がす紅。烈火纏いて骨身を砕け!』

 掌をゴーレムにしっかりと向ける。

『スカーレットストライク!』

 巨大な火球が飛び出す。だが、あの巨体が一発でどうこうなるとも思えない。

『以下同文! 以下同文!』

 死霊使いの一件のとき偶然に編み出した技術。

 更に二発火球を飛ばす。

 火球は全てゴーレムに命中した。岩盤も貫く魔術だ。両足で踏ん張っている時ならばいざ知らず、片足の状態であるなら、あの巨体もバランスを崩す。ゴーレムはよろめき、上げられた足は後方へ降ろされた

 その間にクルリはウェスへ駆け寄る。

「ウェス! ウェスッ!」

「う…」

 体を揺さぶるとウェスは薄く瞼を開いた。

「ウェス! しっかりして!」

「…クルリ、か…。どうしてここに…」

「そんなのはいいから早く逃げよう!!」

「お前は…」

 何かを言おうとしていたウェスの口が止まる。そして突然目を見開き、クルリを突き飛ばした。

「きゃあっ!」




 ズウン――!




 重い音が大地を揺るがす。




「………え?」




 クルリは自分の目を疑った。

 さっきまで自分が居た場所に巨大な岩があった。

 いや、岩じゃない。

 巨大な足。

 ゴーレムの足がそこにある。

「う、嘘…」

 さっきまで自分が居た場所。つまりウェスも一緒に居た場所。

 そこにあるゴーレムの足。

 つまりウェスは。

「違う! そ、そうだよ。違うよ! 逃げ出したよね、避けてるはずだよね…?」

 どこかでおろおろしている自分を見て笑っているに違いない。フラフラ歩きながらクルリはウェスの姿を探す。

「じょ、冗談はやめようよ、こんなの笑えないよ」

 何を言っても返事がない。

「怒るよっ!?」

 クルリはその場にペタリと座り込んだ。

「嘘だよ…、こんなのって、ないよ…」

「運命だ」

 クルリの前からそんな声が聞こえた。

 クルリは顔をあげその声の主を確かめる。

 緋色の髪を持った男が立っていた。額に十字の傷がある不気味な男だった。

「運命…? そんな言葉で片付けないで…!」

 クルリは立ち上がり詠唱する。

『スカーレットストライク!』

 火球が男へ向かって飛んでいくが、彼はそれを簡単にかわした。

「どこ?!」

 クルリの視界から男の姿が消える。

「あぐっ!」

 右腕に走る痛み。いつの間にか腕を切られてそこからじわりと血が出てきた。

「これも運命…」

 男はまたクルリの前に現れる。

「あなたがこのゴーレムを操っていたことは分かってるんだ! あなたがウェスをころ―!」

 言いかけてやめた。認めたくなかったから。

「お前にとって最善の運命だ。何が気にくわないと言うのだ」

「運命とかそんなことを言ってるんじゃない! 私はあんたが許せない!」

「《許せない》? お前がそんな言葉を口にするとはな」

 クククと男は堪えるようにして笑っていた。

「な、何笑ってるの?! 私が何を言ったってあなたには関係ないでしょ!」

「己の罪も忘れたか? 愚かなる《神》よ」

 クルリは一歩引き下がった。

「ど、どうしてそれを…。あ、あなた一体何者なの?!」

「デスティク・デフェイト・ディスドート。こちらでは《運命の神様》と呼ばれたことがあった」

「あなたが…、《神様》?」

 男は左手の甲をクルリに見せた。

「この印、この国では神の証のようだな」

 クルリの背中にあるものとまったく同じ印があった。

「聖印…」

「私は運命を引き合わせることができる。この泥人形がこの街を襲い、最終的にこの男を殺すように運命を操作したのだ。よって、私はこの泥人形を操ってなどいない。こいつ自らの意思でこのように行動したのだ」

 デスティクは冷めた顔で言う。表情の変わらない男だった。

「どうしてそんなことを!?」

「この男がお前の運命をかきみだす。最終的にお前を破滅へと追いやる。だから死の運命を与えた」

「どうして!!」

「お前の運命のため。延いては世界の運命のためだ」

「そんなの…、馬鹿げた話! 誰が信じるもんか!!」

「信じなくてもいい。それによって運命が揺らぐことはない」

「絶対に認めない! そんな運命なんてクソ喰らえだっ!! 私は、私は!!」

 瞳の裏に何かが込み上げてくる。それは止めようがなく溢れ出てくる。

「ウェスが大好きだった…」

「泣くな。運命は覆らない。受け入れよ」

「絶対嫌だ!!」

 クルリが叫ぶと、青い光が広がっていく。最初は小さな光だったが、あっという間に光は街を飲み込んだ。

「この光…!」

 デスティクの顔に初めて焦りの色が見えた。

「お前はまた罪を繰り返すのか! クルジェス!」

「絶対に…嫌…、絶対に」

 光の中心でクルリは譫言のように繰り返す。

「くっ! 声も届かないか!」

 デスティクは唇を噛んだ。

「あくまで受け入れぬと言うのならクルジェス! 《輝石》を探せ! お前の罪の根源であるあの石を! それが唯一その男と共に生きられる運命だ!!」

 伝わったかどうかは分からない。もし、石が見つけられなかったのなら、その時は再び彼女の前に立つことになるだろう。

「この蒼夜を再び目にしない運命に巡り逢いたいものだ…」

 青い光は赤い空を青く染め、やがて国を覆い、そして世界を覆った。






 ***






 馴染みの無い天井が見えた。

「…え?」

 暖かいものに挟まれている。

 体を起こすとそこは見覚えのある場所だった。

「アンネちゃんの…、家?」

 何かとても嫌な夢を見た気がするのだが、内容をよく思い出せない。取り合えずウェスの様子を見に行こう。

「…っ!」

 腕に痛みが走った。

 そこを見ると腕に切り傷があった。

「?」

 いつ切ったのだろう。クルリは首を傾げた。

 まぁそんなに痛くないしいいや。

 クルリは自分の部屋を出てウェスの部屋の前に立つ。

 ノックをすると中から「どうぞ」という声が聞こえた。

 中に入るとウェスは身支度をしていた。

「具合はどう?」

 ウェスは首を横に降った。

「なはは、災難だったね。キリウさんにちゃんと言っとけばよかったよ」

「迷惑かけた…。お前も顔色が悪いみたいだが、大丈夫か?」

「ん…、うん、ちょっと夢見が悪くて」

「ああ、あんなに幽霊に囲まれていたからな。おかしな夢も見るさ」

「………」

 このやり取りにクルリは既視感を覚える。どこかでこんなことがあった気がするのだ。

 クルリは口を閉じて俯いた。

「ウェス、私――」

「クルリさんおはようございます!」

 アンネが後ろからクルリに飛び付いてきた。




夢オチかよ!




ってツッコミは無しです。




さて、今回初めてクルリ以外の神様が登場しました(ほんとはあの人もだけど…)。今後はいろんなのが出てきます。

ちなみに、神様は名前で何の神様か大体分かるようになってます。察しのいい方は、クルリが何の神様か分かるかもしれませんね。といっても作者はひねくれているので、分かりにくいかもしれませんが。




あ、一応次回から新章に入る予定です。

今回で夢の片鱗編は終わり。


ちょっと超展開になってきたけど、ちゃんと続き書けるかなぁ…。


長文失礼致しました。


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