表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/76

第20話 赤い夜

はい、いろいろフラグが立ちました。

「どうなってやがる!!」

 誰かが叫んだ。

「あいつ、怪物を率いてやって来たのか!?」

「馬鹿言え! 泥人形に統率能力があると思うか!?」

「じゃあなんでこんなことになってんだよ!!」

「うるせぇ! 議論してる間はねぇ! こいつらを始末して逃げ道を作るしかねぇんだよ!」

 ゴーレムが壊した壁から続々と怪物が侵入してきたため、街はさらに混乱していた。

 でかいのを気にしていては小さいのに殺られる。かといって小さいのばかり気にしていられない。

 踏み潰されないように注意しながら、武器を取れる多くの人々が戦っていた。

 愛するものを守りたい者。街を救いたい者。名を挙げたい者。はたまた戦闘狂まで。それぞれがそれぞれのために戦っていた。

 リリアは少し離れた場所から、立ちはだかるゴーレムを見上げていた。彼女もまた守りたい者のために戦う決心をしていた。

 あのゴーレム。兄の言った通りの赤い体躯。まさしくブラッドゴーレムだった。封印されたと言い伝えられていた奴。その封印がなぜ解けてしまったのか気になるところだが、今はそんな事に考えを巡らせる時間はない。奴は彼女の守りたい者の命を脅かす存在であった。

 その足は建物を潰し、その腕はすべてを凪ぎ払う。山のように巨大な赤い胴の真ん中に、金色に光る目が二つ。次の目標を探しては、破壊していく。殺戮兵器。

 あれの気を逸らして、人々が逃げる時間を稼ぎたい。だが、あの巨体を止めるのは無理だ。しかし、不可能ではない。

 あれだけの巨体を動かすためには、相応の魔力が必要なのだ。ただ魔術をかけるだけでは小さいのならいざ知らずも、あの巨体はまず動かない。魔力を送り続ける機関が必要だ。

 こいつの弱点は一つ。体の何処かにある魔方陣。

 リリアは目を閉じ、集中する。

 イメージは剣。

 リリアの右手が白く光り始めた。

『グラディウス…』

 そう呟くと、刃渡り70センチほどの小型の剣が現れた。

 彼女が宮廷魔術士の称号を得た所以の能力。魔力を形ある武器に変える力だ。この能力は魔術とは異なるため、同時に魔術の発動が可能なのである。彼女の保持魔力の最大値の高さ、類い稀なる魔力コントロールの才能、そして日々の努力がそれを可能にする。

 リリアは右手を軽く動かし、武器の具合を確かめる。

 よく馴染んでいる。

 それを確認するとリリアは一息置いてから足を踏み出した。最初はゆっくり、徐々に早く、そしてものの数秒で最高速へ達する。人々の合間を縫い、邪魔な怪物は剣で切り払いながらゴーレムへ走る。その姿はまるで風のようであった。

 山のようなゴーレムのその巨体。そこから魔方陣を探すのは一苦労だろう。だが、倒せなくてもダメージは与えられるはず。彼女にも王宮魔術士としての意地があった。

「絶対無茶しないでくださいよ?!」

 頭を過ったのは兄に向かって放った言葉。どう考えても自分の方が無茶しているではないか。今はその言葉を自分に向けてやりたかった。

『便りは風に乗り運ばれる。いかなる邪魔があろうとも…』

 走りながら詠唱をする。

 そうしている間にリリアはゴーレムの右側、右足のそばまでたどり着いた。

 本当は援護でもしてもらいたいところだが、生憎みんな目の前の怪物を倒すことに必死でそんな余裕を持った者は居ないようだ。

『フォローウィンド!』

 足を踏み切り、小さく跳んだところで魔術を発動させる。すると一陣の風が足下に集まり、リリアを上へ吹き飛ばした。

 膝…、腰…、胴体…。

 そこまで来てゴーレムの金色の瞳がリリアを捉える。ギョロリと動き、リリアの動きを追う。

 見付かった。

 そう思った瞬間、ゴーレムがその体を捻る。ゆっくりに見えるのは相手が巨大だからだろうか。

 後ろからゴーレムの右腕が迫る。

 リリアは身体を少し捻り、その腕とできるだけ平行になるように体勢を変えた。

 右腕が間近までやって来ると、リリアは空いている左手をゴーレム腕につき、両足を乗せ、その反動を利用して前に跳ぶ。

 そこはゴーレムの肩とも言える部分。

 一度そこに足を着いたが、勢い余ったのと、足場が悪いということとでよろめき転がる。危うく落ちそうになったのを、右手の剣を突き立ててなんとか留まる。

 ゴーレムの肩に乗ったのは初めての経験だった。

 所詮土か。ゴーレムにはたくさんの雑草が生えていた。

 リリアは落ちないように注意しながらできるだけ地面と平行な場所まで移動すると立ち上がった。周囲を見渡す。そこからはフォンヘイムの街が一望できた。それどころかずっと先の山まで見える。これで街が襲われてなければ最高の景色だっただろう。

 夜の空が赤く照らされている。眼下に広がるのは焼け野原になりかけている街。被害を少しでも抑えるためにやることは一つ。

 魔方陣はどこだ。






 現状を打破することは無理なのだろうか。そんなことを考えながらウェスは大通りを東へ走っていた。

 崩れた壁から侵入してきた怪物を相手にする程度なら造作もない。リリアの言う通り、人々の避難の手助けならできるだろう。しかし、それを行うには一向に目覚める気配の無いクルリをどうにかしなければならなかった。

 ウェスは中央広場へたどり着く。

 後ろを振り返ると、ゴーレムがその巨大な腕を振り回しているところだった。それだけで建物が薙ぎ払われていく。リリアの言う通り、あんなものの相手をしようものなら一瞬でペシャンコにされてしまうだろう。

 ウェスはすぐに前を向きまた走り出す。

 そう言えばレフは大丈夫だろうか。酒場は東側なのでまだ被害は出ていないはず。もう避難しているかもしれないが、様子が気になる。少し覗いてみよう。

 そう決めるとウェスは北東へ延びる道へ走った。

 するとすぐに酒場の前に着く。

 この辺りはまだ被害が出ていないものの、建物内に人気が無いせいか不気味で、いつもとは違う場所のように思えた。それにおかしな臭いもする。ねっとりとまとわりつくような嫌な臭い。

「誰か居るか!?」

 酒場の中にウェスは入った。閑散とした店内に人の気配は無い。

 やはり逃げたあとか。

 そう思って引き返そうとしたとき、くぐもった声が彼を呼び止めた。

「ウェスか…?」

 カウンターの裏から聞こえるその声は紛れもなくレフのものだった。だが少し様子がおかしい。

 カウンターに回り込み、レフの姿を確認する。

 そこにレフは居たのだが、ウェスはその姿を見てギョッとした。レフの体は血で真っ赤に染まっていたのだ。夥しい血液が流れ、床を濡らしていた。

 ウェスは慌てて彼に駆け寄る。

「な、何があったんだ!?」

「ちょっと暴徒にな…。あいつらうちの売り上げ全部持っていきやがった…。混乱に乗じて盗みとは…、世も末だよ…」

「今助ける!」

「無理すんなって…。背中のクルリちゃんはどうすんだよ…」

「くっ…!」

「無事助けたんだな…。よかった…」

「誰か人を…」

「しかし…、親父も殺られちまったし…、明日からの営業はどうしたもんかね…」

「お、おい! しっかりしろ!」

「しっかりしてるよ…。だから分かる…。俺はもう死――」

 ウェスはその言葉を遮る。

「大丈夫だ! なんとかなる! だからそんなこと言うな!!」

「お前は…、いい…友達…だ…な…」

「ああ! 勿論だ!」

「ウェス…、早…く、逃げ……」

「レフ!?」

「……………………」

 レフは喋らなくなった。

「レフ…」

 レフは動かなくなった。

「…くそっ!」

 嘆くことしかできない。

「くそっ、くそっ!」


 泣くことしかできない。

 沸き上がってくる感情。それが後悔なのか悲しみなのか、怒りなのか絶望なのか、様々な感情が入り混じり心の整理がつかない。

 こんなふざけた話があるのか。この感情はどこにぶつければいい。

「ウェス…?」

 その声で一瞬彼は希望をもった。レフはまだ生きているのか。

 だからその声が後ろから聞こえたことに、すぐには気がつかなかった。

「…クルリ…か…」

「どうしたの…? 泣いてるの…?」

「レフが…」

「レフがどうかしたの?」

 クルリはまだ目の前の惨状に気が付いていないようだった。それがわかると、ウェスは立ち上がり、すぐに酒場の外へ出た。

 今のレフの姿をクルリに見せたくなかったのだ。

「クルリ、立てるか?」

「う、うん」

 ウェスはクルリを背中から降ろした。

 クルリは少しふらついたが、立てないというわけではなさそうだった。

 それを確認するとウェスは屈み、クルリと目線を合わせる。

「まず状況を説明する。あいつが見えるか?」

 ウェスはゴーレムを指差した。

「え、ええっ!? でかっ!!」

「あいつが街を襲ってる。あいつはまず倒せない。それから崩れた壁から怪物達がなだれ込んできた。みんな避難している。お前も逃げろ。東へ進めば避難してる人達と合流できるはずだ」

「ウェスは?」

「リリアがあそこに残ってる。あいつを助けに行く」

「じゃあ私も!」

「ダメだ」

「どうして!?」

「リリアは俺の妹だ。お前まで危険な目に遭う必要はない」

「嫌だ!」

「心配するな。今生の別れになるわけでなし」

「嫌だ嫌だ!」

 クルリはなかなか折れなかった。一人で逃げることには抵抗があるのと、心細いからだった。それなら一緒についていきたい。彼女はそう思っていた。

 ウェスはクルリの肩を強く握った。

「クルリ。俺はお前が好きだ」

「……………、へぁ?」

「大切な人を失いたくない。お前は絶対に生きていてほしいんだ!」

「…ウ、ウェス?! い、今のっ?!」

「頼む…」

 その目は真剣そのものだった。

「………」

「お願いだ…」

 その目を見たら何も言えなくなった。

「………」

 クルリは「分かった」とは口にしなかった。

 黙って東へ歩き出した。

 悲しげな顔をしていた。

 ウェスは「ありがとう」と言うと、クルリとは反対の方向へ走り出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ