第18話 誘拐事件
ウェスは日が沈みきった後帰ってきた。
部屋にはリリアしかおらず、彼女は慌てた様子で一枚の紙をウェスに見せたのだった。
ウェスはその手紙を一通り目を通すと、クシャリと握り潰した。
そして額を押さえ、椅子に座り込む。
「金を渡さなければ命はない…、か」
「兄さん…」
リリアが心配そうにウェスに寄り添った。
「リリア、このマークは知ってるか?」
ウェスは紙を広げ、その紙の右下にあるカボチャのマークを指差した。
「……ううん。見たこと無い」
「クルリを誘拐するなんて、どんな組織なんだ…」
組織と言うほどのものでもないのだが、当然ウェス達がそんなこと知る由もないわけで。
そう。情報がないのである。
「仕方ない、酒場へ行く」
「酒場なら情報があるかもしれないですね」
そのままでは寒いのでリリアは持ってきていた上着を一枚羽織った。
ウェスも身支度をすると、二人はすぐさま酒場に向かった。
夜の通りを二人は駆け、子栗鼠の浜へ到着する。
酒場には賑わっていた。
ウェスはキョロキョロと周囲を見渡し、カウンターにレフの姿を見つけると駆け寄った。
「よお、ウェス今日は二か――」
バン!
ウェスは思いきりカウンターを叩いた。
「な、なんだよ…、俺はお前に怒られる覚えはな――」
「レフ、このマークを知ってるか?」
さっき叩きつけられた手の下に一枚の紙があった。ウェスはその紙の一部を指差している。
言うこと言うこと遮られたレフは、半分拗ねたようにしながらウェスが指差す先を見た。
「ああ、《ジャック・オ・ランタン》ね。最近この辺りで悪さしてる盗賊団だよ。今じゃちょっとした有名人さ。…ああ、そうか。ウェスはちょうど出掛けてたから知らないか」
レフはあっさり答えた。
「盗賊団?」
「そっ、鮮やかな手口で盗みを働く割りとすばしっこい奴らさ」
ウェスは掲示板に目をやった。
「手配書は無いよ。どうも最近できたばかりの新しい盗賊団みたいだから」
舌打ちしてウェスはカウンターに腰掛けた。その横にリリアも座る。
「あれ? そちらのお嬢さんは?」
「妹のリリアです」
リリアはペコリと礼をした。
「へぇ、ウェスに妹なんて居たんだ」
「で、そのジャック・オラウータンの…」
「ジャック・オ・ランタンね」
ウェスはマフラーで口許を隠した。
「…そいつらのアジトは分かるか?」
「止めとけよ。一銭にもなんないぜ?」
「これを見ろ」
ウェスは例の紙をレフに見せる。
「なになに、『お前の相棒の魔術士の少女を預かった。返してほしくば、20000Rを明朝までに用意し、中央広場の噴水の前に置け。さもなくばこいつの命はない』!? これ、誘拐?! 魔術士の少女って、クルリちゃんが!?」
「ああ。あいつがまだ帰らない」
「いや、でもまさか…」
「恐らく間違いない。要求の金額。あの依頼の時貰った前金と同額だ。あの時ここで俺たちの話を聞いていたんだろう。でなければ、たかが賞金稼ぎから金を巻き上げたりしないだろうさ」
「まてまて。クルリちゃんだってそれなりの死線は潜り抜けてきたんだろ? それがそう簡単に…」
「この脅迫状がうちに届いたんだ。最悪の可能性を考えた方がいい。どんな手を使ったかは知らないが、もしかしたらこいつら、相当な実力者なのかもな」
運の強さで言うならばそうなのかもしれない。
「…すまん。こいつらの事はまだ情報が少ないんだ。当然アジトもわからない。わかっているのは奴らがカボチャ好きということくらいさ」
レフは申し訳なさそうに言った。
「新しい組織のようだからな。あまり期待はしてなかったが…」
「こちらも少し調べてみる」
「いや、大丈夫だ。…策はある」
ウェスは酒場を出ていった。その後にリリアもついていく。
ウェスは通りに出ると、自分のマフラーの切れた部分を自分の掌に乗せた。
魔糸の引き合う性質を利用してクルリを探そうというのだ。
マフラーがピクリと動く。
西の方角。
「兄さん」
「リリア、危ないからお前は待ってろ」
「あら兄さん。私の実力を知らない訳じゃないですよね?」
リリアはふんと胸を張る。
「知ってるさ。だが…」
「大丈夫です。あの父さんと母さんの血が流れてるんですから!」
「…とても同じ血が流れてるとは思えないな」
少し不快そうにウェスは言った。
「そ、そんなつもりじゃ…」
「…分かってる。行くぞ!」
「はい!」
彼らは夜の通りを進み始めた。
しかし、捜索はなかなか進まなかった。数メートル歩いては方向を確認し、また数メートル歩いては方向を確認し…。街中では建物があるため、示される方向に真っ直ぐというわけにはいかなかったのだ。地道な捜索だった。それでも確実にウェスとリリアはクルリの下へ進んでいった。
そして捜索開始から二時間後。彼らはとある建物の前までやってきた。
ここでより強い反応を示す。片割れが近いという証拠だ。
フォンヘイムの西の端、怪物から街を守る壁の隣にあったその建物は古い木造の二階建ての住居だった。周囲は雑草が延び放題で、窓ガラスは割れ、柱は所々朽ちていた。蔦が家を支えるように絡み付き、まるで大きな植物がそこにズンと構えているようだった。しかし、人が住んでいないからだろうか。その存在感はまるで無い。
「ここか」
「見つかったのはいいけど、ちょっと拍子抜けしちゃった」
「そうだな。もっと、山の洞窟とかにあると思っていたが…。そういった心理の裏をつく作戦なのかもしれない」
勿論そんなことはない。ただ安全な街中にアジトを構えただけなのだが、彼らがそんなこと知るはずもない。
「クルリさんは本当にここに居るんでしょうか…?」
「居なかった場合は諦めて金を渡すさ。命には代えられないからな」
ウェスのマフラーとクルリのリボンの話は、もっと最初の頃にやる予定だったんですが、今頃になった上に薄くなってしまった…
それに、マフラーもリボンもあまり描写をしなかったので忘れられてる可能性が…(泣)