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第14話 夢の片鱗

お話的には新章に入ってます。


分ける意味は特になかったんですけどね。


 少女に向けられた笑顔は偽物だった。

 欺くための狡猾な笑顔。

 少女にその真偽を確かめる術はなく、向けられたその全てをただ信じることしかできない。

 故に少女は殺された。

 信じていたものに後ろから斬られて。










 そんな夢を見た。










 くらくらする頭を押さえてウェスは立ち上がった。吐き気もするし、とても気分が悪い。

 曖昧な記憶を辿り、はっきり残っている最も新しい記憶を探す。

 グラス。

 流れ込む液体。

 それを思い出して彼はベッドに腰かけた。

 その後の自分の情けない姿を考えると、怒る気も起きない。あるのは激しい後悔と羞恥の念。

 さて、その自分が何故こんなきらびやかな部屋に居るのか。自分が好き好んでこんな部屋に入るわけがない。状況を考えると誰かに運び込まれたというのが妥当だろう。

 誰かというのも大方想像がつく。

 この部屋はつい先日世話になった大金持ちの部屋と似ている。というか同じだ。

 その金持ちは、とある街を治めていて、とある依頼の依頼主で…。

 そこまで考えて頭を振った。

 そんな回りくどい思考が何故必要なのか。

 つまり先日世話になった金持ちの部屋に自分は居る。それが全てで途中の理由などどうでもいい。

 ウェスは立ち上がると自分の姿を確認した。

 いつも通りの姿だが、衣服が綺麗になっている。先日の戦いで全身を切り裂かれ、服も体もボロボロになった上に、自分の血や相手の血なんかで結構汚れていたはずだ。

 誰かが態々脱がせて洗濯して縫い合わせてまた着せた。としか考えられない。

 まぁ、それでウェスが困ることもないのでこちらもどうでもいい。

 ウェスが身支度をしていると、部屋にノックの音が響いた。「どうぞ」と言うとクルリが入ってくる。

「具合はどう?」

 すこぶる不調である。

 ウェスは首を横に振った。

「なはは、災難だったね。キリウさんにちゃんと言っとけばよかったよ」

 食べることに集中してしまって、気付けなかったことを悔いているようだった。

「迷惑かけた…」

 当然ウェスも自分が酒を飲むとどうなるかは伝え聞いていた。

 自制が利かなくなって無茶苦茶をするらしい。記憶自体が飛んでしまうので、自覚はないのだけれども、その後の惨状は何度か目撃したことがあった。

 だからウェスは酒を飲まないようにしているのだ。

「お前も顔色が悪いみたいだが、大丈夫か?」

「ん…、うん、ちょっと夢見が悪くて」

「ああ、あんなに幽霊に囲まれていたからな。おかしな夢も見るさ」

「………」

 クルリは閉口したまま俯いた。

 いつもとは違う様子に、ウェスは少し心配になった。

「ウェス、私――」

「クルリさんおはようございます!」

 アンネが後ろからクルリに飛び付く。

 その衝撃に耐えられず前のめりになったクルリは、おっとっとといった具合に二、三歩前に踏み出た。

「お嬢様! お客様のご迷惑で御座います!」

 その更に後ろからジィがたしなめると、アンネは残念そうにクルリから離れた。

 どうやらアンネは朝食のお誘いに来たらしい。

 アンネはどうもクルリが気に入ってしまったようで、何かにつけてはやって来る。言葉遣いは丁寧語を使っているが、どうもクルリは歳上ということにしているとして見られていない節があるようだ。すっかりアンネのおもちゃにされてしまっていた。

 クルリはアンネにすぐに行くと言い、一旦引き取ってもらうことにした。

 それがアンネには邪険に扱われたように思えたらしい。不満げな表情を浮かべるも、ジィの引率によって引き下がっていった。

 最初はあまり感じなかったが、アンネのワガママはかなりのもののようだ。大事に育てられて来たのだろう。

 クルリは一息つく。ようやく落ち着いた空気になった。

「ずいぶん好かれたみたいだな。寧ろ好かれ過ぎなくらいじゃないか?」

「なはは、悪い子じゃないんだけど、ちょっと強引だよね」

 心なしかクルリの顔色が戻ったように思われる。なので、話を掘り返すのはどうかと思ったのだが、先程までのクルリの様子か気になったのでウェスは訊ねてみることにした。

「さっき何か言いかけていたようだが、なんだ?」

「ん? ……ああ、なんか私の勘違いだったみたい。気にしないで」

 気になったから訊ねたのだ。それを気にするなと言うのは無理な話である。

 しかし、本人が勘違いと言っている以上、それを深く訊ねることは躊躇われた。仮に何かあったとしても、本人が言いたくないのであれば仕方が無い。

 ウェスはこの話題を記憶の端へ追いやった。










 クルリに訪れた小さな変化。

 それは彼女の失われた記憶を辿る最初の一歩だった。

 またそれが彼女に関わる全ての人物の歯車が回り始めた瞬間でもあったとは、この時本人さえも気が付かなかっただろう。

 そう、神様さえもそれの辿り着く末を知らないのだ。

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