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第11話 死霊使い

読んでくださってありがとうございます。

 四角く、暗いい部屋だった。彼らが入ってきた入口を閉じれば恐らく中は完全な暗闇。そこから、りぃんと、鈴の音が聞こえてくる。

 その鈴の音が聞こえた辺りの暗闇に目を凝らすとぼんやり人影が浮かんできた。部屋の中心、少し床の高くなった場所にそいつは座っていた。

 長身のその身体は細く、骨と皮ばかりで肉はほとんど無い。髪の毛は伸び放題で立ち上がっても床まで届く。体には幾何学な模様が描かれている。また、その腕には小さな鈴が巻かれていた。性別はおそらく男。そいつはずいぶんと頼りない姿をしていた。

 だが、伸びた髪の間から覗く眼光は鋭く、恐ろしいまでの威圧感を放っている。

「あんたが死霊使いか」

「そうだ…」

 掠れた声で男は言う。

「なんちゅうか、予想通り陰険なやっちゃな」

「何しに来た…」

「あんたを追っ払いにだよ」

「無理だな…」

 男はふっと笑った。

「このまま引き返すなら見逃してやろう。だが、邪魔をするならその時は…」

 四人は構えた。

「退くつもりはないか…」

「だったらここまで来ないよ」

「その通りだ…」

 男はもう一度笑うと立ち上がった。

『暗き意思、息潜め、目的無き殺戮の腕、狂気の爪にて引き裂かん…』

『閃光は悪意を穿つ白。貫け、戦槍!』

 男が詠唱を始めると同時にクルリも詠唱する。

『シャドウアーミィ…』

『レイスピア!』

 発動はほぼ同時。だが、わずかにクルリの方が遅れている。

 影の爪と淡く発光する白い槍がぶつかる。

 同ランクの相反する魔術のぶつかり合い。昼間に力を発揮する陽属性、昼間に威力が半減する陰属性。この場合、クルリの魔術が打ち勝つはずだ。

「…っ!」

 クルリが後ろに跳んだ。すると先程まで彼女が立っていた床がべこんと抉れる。

「相殺どころか打ち消してくるなんて…。一体何をしてるの…?」

「単なる力の――!!」

 刃と青い線が男の鼻先を掠めた。彼の長い髪がはらりと落ちる。彼が下に目をやると剣の先が鈍く光っている。正面にマフラーを巻いた男の顔が見えた。

「浅かったか」

 ウェスは残念そうに笑う。

「貴様…!」

 男の目が憎々しげにウェスを睨んでいた。

 ウェスは剣を振り上げた。男は上体を反らし、それを避けた。しかしウェスはそこから一歩踏み出し勢いを殺さないようにして剣で横に薙ぐ。

 キィンと金属音がして剣が止まった。

「短剣」

「近付かれた時の対処法くらいある…!」

 ギリギリという押し合い。ウェスの方が男を押していく。見た目通り男に大した腕力は備わっていないようだった。

 一、二歩押され、力で勝てないと判断した男は懐に手をのばし、何かを掴むと床に叩きつけた。

 白い光が部屋を支配する。

「目眩まし!」

 その場の全員が目を閉じた。暗い場所で突然明るい光を見るとしばらく盲目の状態に陥る。それは彼らも同じ。目を開いてみる。ただでさえ暗い場所だったが、今は何も見えないと言っていい状況だった。

 この好機を男が逃すはずはない。今厄介なのは剣士の男。魔術は絶対に撃ち負けない。そいつさえ倒してしまえば、残りはどうとでもなる。男にはその自信があった。

 短剣で剣士を斬りつけた。柔らかいものを裂く感触が短剣から伝わってくる。斬った場所は腹部。

 焼けるような痛みがウェスを襲った。そういう痛みは何度も味わってきたが、やはり慣れるものではない。奥歯をグッと噛み、痛みに耐える。

 その間も男の手が止まらない。次から次にウェスの身体を切り裂いていった。

 そうしていると、傷を庇うためどうしても屈んでしまう瞬間がある。頭が下がるその瞬間が。

 男はそれを見届けると短剣を振り上げた。

「死んだら私の下で働け…」

 悪魔の囁きがし、刃がウェスの頭部めがけ振り下ろされる。

「あかんわ、ウェストール」

 バチッと音がして、トトラの掌の上で短剣が止まった。彼の手には紙切れが引っ付いていた。

「符術か…」

 トトラはニヤリと笑った。

「それ、悔恨刀やろ。それで殺したもんを強制的に従わせることができる一方的な契約剣や。…あんたが従える霊の数。あんたこれまでにそれで何人殺してきたんや?」

「さあな。村の一つ二つが無くなったことくらいしか記憶にない…」

「外道が!」

「しかし、貴様には目眩ましが効いていないようだが…?」

「アホか。そんな濃い魔力を溜め込んどる剣が見えんわけ無いやろ?」

「なるほど…。つまり、私は見えていないということか…」

「っ!」

 男は剣を持っていない方の腕でトトラの鳩尾に拳を打ち込んだ。よろよろよろめきながらもトトラはウェスの腕を掴んだ。

「貴様…!」

「退くでウェストール!」

『空気焦がす紅。烈火纏いて骨身を砕け!』

 腕を真上に突きだし、クルリが詠唱すると、その掌に炎が集まり出した。炎は球形を成し、徐々に大きく膨れ上がっていく。

「魔術士、何をする気だ…」

「ごめん、ジィさん。天井に穴を開けるね!」

「何ですって?!」

『スカーレットストライク!』

 炎の球はクルリの手を離れ真っ直ぐ上に飛んでいき、天井をぶち破った。ばらばらと砕けた天井が落ちてくる。空いた穴から日の光が射し込み、暗かった部屋が明かりで満たされた。

「キリウさんの言う通り、最初からこうすればよかったんだよ」

「歴史的建造物に何てことを…」

 ジィが頭を抱えていると、どさくさに紛れて逃げてきたトトラがウェスを運んできた。

「ジィ、ウェストールの治療頼むわ」

「は、はい」

 ジィはウェスの腹部の治療を始めた。

「このくらい…」

 身体中から血を流してウェスはそんなことを言う。

「ウェストール黙っとき。あんたはまだ働かんなんからな」

「………」

 ウェスは口を閉じた。

「さて、前衛が一時休戦なわけやが…」

 りぃん、りぃん…。

 鈴の音がした。

「やっぱりそうやろな」

 その音を納得したようにトトラは聞いている。わからない三人はトトラの言葉に耳を傾けた。

 りぃん、りぃん…。

「さっき、暗闇で魔力を見たとき、とんでもないもんが見えたんや」

「とんでもないもの?」

「せや、それであいつの力の正体は全部分かった」

 死霊を大量に操ったり、あり得ない威力の魔術を使ったり、不審な点はいくつもある。

「何なんです?」

 りぃん、りぃん…。

「とんでもない量の魔力があの台の上に集まっとる」

 トトラは男が座っていた場所を指差した。

「《マジックスポット》。霧散した魔力が流れ着く場所。聞いたことあるやろ?」

 りぃん…。

 鈴の音が止んだ。

 少しの間があり、男は小さく口許を動かす。

 すると大量の死霊が沸き出し、あっという間に部屋を埋め尽くした。

「ち、ちょっと、こんなのどうしたらいいの!?」

「死霊どもはワイが何とかする。せやからクルリちゃんはあいつを頼むわ」

「そんな無茶な!」

「ジィ、急いでや。ウェストールにはやってもらわんなあかんことがあんねん」

「わ、わかりました」

「ちょっと、キリウさん!」

「正念場やで!」


トトラの使い勝手が良すぎる今日この頃。

…あれ? …しゅじんこ…う?

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