EP 6
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「さっそくだが、まずはデートだ」
「それも仕事のうちなんですか?」
「もちろんだ。今週の土曜日にしよう。どこに行きたい?」
「申し訳ございませんが、その日は予定が入っておりまして」
「え!? 彼氏いないんでしょ? だったらなんなの? なんの用事なの!!」
なんかカチンとくる言い方だなあ。私は堪忍袋の緒が切れる前に、すかさずリターンした。
「その日は推しに会いに行きます」
「推し? それって推し活ってやつ? 誰なの?」
「Vチューバーアイドルのトーマくんです。今度駅前でコラボカフェやるので」
「はあ? 誰それ? 俺はそんなとこ行かないよ。まっっったく興味ないから」
「もちろんです。二人っきりの空気を邪魔していただきたくないので。日曜日なら大丈夫ですから」
「……日曜日な」
それなのに。
なぜか。土曜日。あれ? カレンダー見間違えたかな?
「社長、どうしてここにいらっしゃるのですか?」
コラボカフェに『sunrise』社長、勝手に降臨。
「秘書とはいえ、おまえは一応俺の恋人だからな。恋人の推しがどんなヤツなのかは確認しなけりゃいけないだろ?」
「直に確認せんでもネットのプロフ見ればでいいのではないかと」
「バカヤロウ!! ネットの情報だけで、ソイツのいったいなにがわかるって言うんだ!!」
「わかりました」
「ふん。なにがVチューバーだ。ネットの虚構なんかに踊らされやがって」
恐ろしく時代錯誤なオヤジだな。社長が『時代の先駆者』だとか『先読みの達人』だとか、時々マスコミに取り上げられるのは果たして何故なのか? 疑問だ。
「とにかく注文しましょう」
私がコラボメニューのパンケーキを、そして社長がコラボメニューのガパオライス(笑笑)を注文。
パンケーキセットについてくるドリンクの下敷きになっているコースターを取り上げる。
ああ! クソっ!!
同じグループのひとり、ユヅくんだ。ユヅくんに恨みはないが、私の推しはトーマくん。トーマくん一筋で、3年と216日やってきた自負がある。だから、これは恨んでしまうのも仕方がない案件。
「え? え? なに今の? 千景、今もしかしてクソって……い、言った? 」
「幻聴です」
けれど、諦めるのはまだ早い。社長のガパオライスのコースターを凝視すると……。
うがあ! クソッタレがあぁぁ!!
「ちょ待てよ、言ったよな、はっきりクソって……」
「社長!! 社長のそれ、そのコースター私にください」
汚す前に。早急に。早く!! 水滴が垂れる前に早くっっっ!!
ガパオライスをがぶりと口に入れようとしていた社長の動きが止まる。
「ん? これか? これがおまえの言うトーマくんか?」
ドリンクをどかし、コースターを取り上げた。じぃっと見る。