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EP 41

「千景、中に入ろう?」

社長が手を握ってくる。が、私は放心状態。いやもとい。パニックになってしまった。

「ちょちょちょ待ってください」

私に社長の公開プロポーズの場に居るようにと? このイベント強制参加ですか??

そんなの辛すぎる。私にとっては公開処刑だわ!!

「しゃ、しゃちょう、わ、わたし、たいちょうわるくてですね、これでかえらせてもらおうと、さむけがして、つ、つつつわりか、かぜか……」

「え? 今なんて言ったの? ひらがなばっかでよくわかんなかった……え? つ、つわり?? つわりって言ったの??」

「風邪です」

「びっっっくりしたあぁぁ!! やめてよ!! そういうの!!」

そう言って、熱は? とおでこに手を乗せる。

「熱はないみたいだね。そっか、さっき水ぶっかけられたもんね」

社長は少し悲しい顔をして、「なあ、パーティーもクライマックスだし、あと少しの時間で終わるからさ。帰りは送るから、もうちょっと付き合ってくれない?」

私の弱さがここにある。そんな悲しい表情の社長、見たくありません。

私は心の中で両手を上げて降参のポーズをした。

「……わかりました」

小さく頷いた。

覚悟を決めなければならないだろう。社長と私がお付き合いできるなんてことは、現実にはあり得ない。諦めろ、私。

諦めろ、千景よ!!

だから、ここは鉄の心をもって、他のお嬢さまとの婚約発表に臨むしかない。

すると、社長は握っていた私の手を握り直し……ん? これはいわゆる恋人繋ぎ?

一度だけ、等身大パネルのトーマくんと、試したことがある。指がなくてできなかったけどww

「千景、そのドレスとても似合ってる。可愛いよ」

さあ、行こう!!

そう言って二人、会場へと入っていった。

「え? これどういう状況??」

恋人繋ぎの手を、なかなか離さないなあと思っていたら。振り解こうと何度試みても、解けない。知恵の輪か。

壇上には社長と私。そして、周りから悲鳴やら拍手やら悲鳴やら(2回目)が聞こえてくる。

私の前には、膝を折った社長が、片ひざをついて手を差し出している。その手には、小さな箱。

そして。

「千景、俺と結婚して欲しい」と。

ん? あれ? サクラさんは?

きょろっと視線を回すと、ステージの下にその姿を発見。めっっっちゃ涙目で拍手してる!!

「千景さん! 祐樹のことヨロシクねっっ」

視線を戻す。

あれいまわたしがぷろぽうずされてるの?

混乱の中、頭は真っ白の灰だ。

「千景、返事して?」

社長が、くうんと耳の垂れた犬のような顔で見てくる。

結婚? 結婚して欲しいって言った?

「社長、か、カエルは?」

すくっと立ち上がり、そして。

「カエル化はまだ治療中だよ。それに千景にイエスをもらえれば、『蛙化現象』克服のクエストがいつだってできるんだ」

あ、社長。微かに手が震えている。そして真っ直ぐに私を見つめてくる真剣な瞳から、社長の本気がこれほどまでに伝わってくる。

じわりと来た。じわりじわりと。

私は頑張って声にした。

「……社長、カエル化は治さなくてもいいです!!」

じわと滲んでいた涙が、溢れて落ちた。

それは私がトイレでずぶ濡れにされた日、社長が自宅へと招いてくれて、そして二人、同じベッドで眠った日のこと。

キラキラと輝いては蘇ってくる、私の宝物のような、社長との思い出。

「社長、カエルは浮気防止のお守りになるかもしれませんから」

「そんなのなくても浮気なんかしないけど。まあでも俺がカエル化しないのは千景、おまえだけだから。俺はこのままでいいと思ってる」

はにかんで笑う。

ああ、そんな社長の笑顔が大好きだ。かっこよくて優しくてハイスペで面白くて、ちょっと可愛いとこもある私の上司。

「社長、大好きです」

社長は、ほっとした表情を見せると同時に、「やっっった」とこぶしを握る。

まだ少し震えている手で指輪を箱から抜くと、私の手を取って、指輪を左薬指へとはめた。

「千景、愛してるよ」と言いながら。

わああぁあっと会場が沸いた。(悲鳴含む)


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