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EP 39

こっちきて、と手招きされ、鏡台の前に座る。サクラさんがドライヤーを取り出してきて、ボオォォーとスイッチを入れた。自分でやりますとの言葉は完全拒否。私の髪を乾かしてくれる。

(こうやって社長にも、髪を乾かしてもらったことがあったなあ)

自分の中にしまっておいた、大切な思い出だ。いつのまにか、社長との日々は、私の中で美しく彩られている。Vチューバーのトーマくんが、遠くかすんでしまうほどに。

じわりと涙が出そうになった。

(社長、こんなに可愛いドレスを用意してくれていたんだ)

会議が始まる前や昼休憩のときに、さっと抜け出していくことがあった。

それは、こうしてドレスを用意するための、時間だったのだろうか。

「さあ、次はメイクね」

気がつくと、髪はすっかり乾き、そして編み込みで後ろ、大きめのリボンバレッタで留めてあった。

「あれ、いつのまに」

「ふふん。仕事早いでしょ? 私こう見えて、ヘアメイク部隊所属なの」

大振りの箱を荷物の中から引っ張り出して、フタを開けると、そこには。

たくさんのメイク道具がぎっしり詰め込まれている。

「いくわよ〜」

鏡ごしに見たサクラさんの顔が、にやりと笑っていた。

パーティー会場のドアからそっと中を覗く。

ビュッフェの料理はあらかたなくなり、デザートもほとんど残っていない。

社員はなかなかに酔っ払っていて、ふらふらしている人もいた。

(はあ。着替えさせてもらっといてなんだけど……こんな格好じゃ、中に入れないぃぃ)

きょろきょろと見渡しても、バケツを持ったお局の姿はない。

(社長と桂木さん、あの後どうなったんだろ……)

ドアの横でうろうろとしてみる。中に入る勇気がない。ドレス姿で誰かの前に躍り出たことなど、今の今まで一度もない。

トーマくんの生誕記念ライブのときに、少しオシャレしたぐらい。

「こんな慣れない格好……あーあ、このままバックレようかな」

よしそうしようと心を決めて、踵を返したところで、役員のイケオジ工藤さんに見つかった。

「あれ? 谷口くんじゃないの? どうしたの、中に入らないの?」

「はあ、もうお暇しようと思っていまして」

「なんで!? まだパーティーは終わってないよっ」

これは仮病でも使うしかないか?

「ちょっと気持ち悪くてですね……お先に失礼します」

行こうとすると、腕をぐいっと掴まれた。

「え、待って? もしかして、つわり?」

(;´д`)

なんでそーなる。頭沸いてるのかな? あーあふつーにハライタにしとけば良かった!

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