EP 38
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「あの……このドレスはいったい」
連れられた女性は、ホテルの一室を借りていたようだ。カギを開け部屋に入ると、そこそこ荷物が置いてあった。その荷物の中から一枚のワンピースドレスを引っ張り出してきて、着替えるように言われた。
タオルも差し出される。
「それは祐樹があなたのために買っておいたものよ。さあ早く着替えてくれる?」
というより、この方はいったいどなたなのでしょうか?
「あの、あなたはどちら様で……?」
「私は、植田サクラ。祐樹とは腐れ縁っていうか、小さいころからの付き合いでね。まあ幼馴染ってとこかしら」
「そ、そうですか」
名前で呼び合うほどの仲だ。私はガンッと頭を殴られたような思い……は、しなかった。実際、社長の周りには多くの女性が存在するから。
私はべしょべしょになったスーツを脱いだ。幸い下着はセーフ。
そして胸元にスワロフスキービーズをあしらってある、モスグリーンのドレスを身にまとった。
「ドレス……可愛いです」
「でしょ? こんなこと言ったらダメだけど、千景さん、水かぶってくれてありがとう!!」
「?? それはどういう……」
サクラさんは濡れたスーツを袋に入れてくれている。私が、背中のチャックにもたついていると、サクラさんは立ち上がり、背中に回ってチャックをあげてくれた。
「このドレス、今回の創立記念パーティーで、祐樹が千景さんにって用意したみたいなんだけど、あなた最初からスーツだったじゃない?」
「はい」
「祐樹ったら、買ったはいいけど、千景さんに言いあぐねててね。着てもらうの、半分諦めてたの」
「そういえば、パーティーが始まる前に、何度か声をかけてくださったんですけど。要領を得ないものだったのでスルーさせていただきましたが」
パーティーの準備で忙しかった。
朝イチから会場のチェック、お料理や飲み物などの確認、出欠表を記入しながら受付をこなし、などで目の回るような忙しさ。何度も「なあ千景、やっぱスーツなの?」とついて回る社長に、構っているヒマはなかった。
「あははは! あの祐樹をスルーできるなんて、あなた相当のものよ」
「はあ」