EP 36
わあっと拍手が起こる。
私も夢中になって手を叩く。この会社で働けて、心から誇りに思っている。当麻社長は私にとっては、本当に雲の上の人。本来なら手の届かない人だけれど、秘書になれたことで社長というお人柄を知ることができた。
会食が始まった。社員はみな、立食形式のビュッフェの前に列を作る。
ローストビーフ、パエリャ、アヒージョ、そして寿司、天ぷら、煮物、サラダなどなど。
あっという間になくなっていって、そして追加される。
(多めに注文しておいて良かった。おなかがいっぱいにならないと、人って満足感得られないからなあ)
会場の様子を見守る。社長は役員を交えて、社員たちと話し込んでいる。
(今のうちに)
私はいったんトイレへと立った。
会場を離れ、迷路のような廊下を進み、女性用の個室トイレへと入る。
座ってふうと息をついていると、ガタガタとドアが揺れた。
すると、信じられないことにバシャッと水が大量に降ってきた。頭から。
「ちょっと!! なにするんですかっ!!」
もう頭にきた。
記念すべきパーティーでやらなくっても!!
私は衣服を整え、カギを開けて、ビショビショのままドアから勢いよく飛び出した。
すると、女性の後ろ姿があった。お局の桂木だ。
「桂木さんっ、いい加減にしてくださいっ」
お局はぴたっと止まり、振り返る。
「なんのことかしら?」
「よくも水をぶっかけてくれましたね」
「あんたが辞表を出さないからよ!!」
「先日、辞めませんって言いましたよね?」
「だったら、何杯でも水をぶっかけてやるわっ」
鬼の形相だ。けれど、私だって頭にきてるんだ。ここで引き下がったら、永遠に嫌がらせをされることになる。
スーツもなにもかも水浸しで、私は怒りに震えた。
「ふん、そんな格好でパーティーはどうするつもりかしら? ただの秘書のくせに、社長に取り入っちゃって、前から目障りだったのよっ。ふふふ、濡れねずみもいいところね。はーーーせいせいしたぁ、いい気味だわ」
頭のてっぺんからつま先まで、舐めるように見て、くすくすと笑う。
「みっともなーーい」
もーー頭にきた。
「ちょっとあんたねえ」