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EP 33

記憶を戻してみる。

社長は昨夜、デートだったはずだ。私は悲しいかなヤケ酒で、トーマくんの『今夜は俺の隣で眠りな』の配信を観ながら、眠りにつこうと思っていた、のに?

「記憶がありません」

「俺が昨日の夜、ちょっと用事があって電話したんだ。そしたら千景がすっげ酔ってたから。危ないと思って」

「それはご心配とご迷惑をおかけしまして……申し訳ありません」

「いいよ別に」

「用事とはなんだったんでしょうか?」

「んーー? まあもういいよ」

歯切れの悪さあり。

「それにしても社長。眠るベッドが違いませんか?」

「悪い。おまえを介抱してたら俺も眠くなっちゃって」

「いえ、違、えっとぉ。昨夜は田川財閥の百合さまとのデー……お食事会ではありませんでしたか?」

「まあな」

瞬く間に胸にもやがかかってきて困った。

「うまく……いきましたか?」

「はは!! さすが俺の秘書。成果を確認しなきゃ気が済まないみたいだな……まあいいよ。それがな、またカエルが始まってしまってだな。そのまま帰ってきたってわけ」

「そうでしたか!! っと失礼。蛙化はすでに完治したものと思っておりましたので、当然うまくいったのだと思っていました」

頬が緩む。正直、ほっとした。してしまったのだ。社長の蛙化現象が治らなくてよかったとさえ、思っている。

社長が誰かの恋人になるなんて、今までなら……あっそう? どうぞどうぞどうぞ!! ってダチョウ的な感じだったのに、今はもう想像するだけで胸が苦しく辛くて仕方がない。

初めて、蛙化現象に感謝した。

私のことを好きかもなんて勘違いも甚だしい黒歴史もあったけれど、私はそれでも社長の秘書として側にいたいと思っている。

(けれど、女性とのデートのセッティングは思いのほか厳しいものがあったな……)

辛かった。

泣きそうになりながら、ホテルのレストランに予約を取った。

苦しかった。

仕事が終わり、コンビニでビールとおつまみを買い、ひとりとぼとぼ家へと帰る。社長が買ってくれたトーマくんに囲まれながら、そしてトーマくんの声を聞きながら、その苦しさを紛らわせようとした。

それでもやっぱり、ずっと苦しかったのだ。

(これが恋っていうものなのかなぁ)

そう、きっとこれが恋愛のビターな部分。その部分を楽しむ余裕なんて、今の私には……ないけれど.…。

こうして寝起きの社長の顔をまじまじと拝顔できる喜びよ。

「改めまして、おはようございます、社長」

まだ寝ぼけまなこの社長がふっと吹き出す。

「今さらか。おもしれえな、千景は」

社長の左ハネの寝ぐせがピンと立っている。私はそれが気になって手で撫でた。

「社長、寝ぐせが、」

「千景……」

その手をそっと握られた。伝わってくる体温。私を包み込む大きな手。名前を呼ぶ甘い声。そして、その手に、ちゅとキス。

へ?

ほわゎわっ!

「千景」

頬に伸びる指先、包み込んでくる。そして、ごそっと布団が波を打つ。

「千景、千景」

甘い声が、熱を帯びたと思った瞬間。

社長の顔が近づいてきて、私の唇に唇が触れた。鳥の羽根のように軽いキスが、ふわりと降りてきて。

「千景、嫌じゃない?」

驚いてしまって、なんと答えていいのか、わからなくなった。しばし呆然とする。けれど、覗き込んでくる社長の瞳のなかには今、私が、私だけが写っているのだろうな。そう思うと。

「……嫌じゃありません」

微笑んでみる。

すると、社長が覆いかぶさってくるようにして、身体ごと私を抱き締め、もう一度キス。

「千景……」

動きに合わせて、ギシッとベッドが軋む。

今度は深く。唇に割り入るように。下唇を吸われ、軽く目眩がした。

「ちかげ、ちかげ」

何度も名前を呼ばれ、その度に身体が火照ってきて。

深く、深く。口づけを交わした。

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