EP 31
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「はいぃ〜」
ドアが開いたら、やすこ風酔っ払いが出てきた。
ふらふらして今にも崩れ落ちそうな千景を、「お、おい、大丈夫か?」と、いきなり抱き止める羽目に。
「飲み過ぎだぞ、千景」
「あれ? 誰ですかぁ」
抱きしめながらも、部屋の中が気になってしまう。覗き込もうと、つま先立ちになり、視線をキョロキョロと這わした。
「誰って……社長です」
「えっっしゃちょう? やば、しゃちょさま!! ははぁ!!」
今度は土下座の勢いだ。この酔っ払いめ!(;´д`)
「入っていいか?」
大きな声でわざとらしく言う。靴で判断しようにも、同じようなスニーカーが何着も置いてあるから判別は難しい。
「入るぞー!!」
よいしょと抱き直して、玄関で靴を脱ぐ。
その時。
「そいつ誰なんだよ」との声。低音ボイスでくぐもってはいるが、さっき電話で聞いた声だ。
廊下の向こう、リビングに男が上がり込んでるらしい。
千景を抱きかかえている腕に力が入る。
(初対面から挑発的な)
どんな男なのだろう。オラオラっぽいが性格はどうなんだ。千景に優しく接しているのか。大切にしているのか。まさか、DVってわけじゃないだろうな。
「俺は千景の上司だ」
すると、「俺の女になるって言っただろ?」
なんだと!? 今、千景のことを『俺の女』と言ったのか?? オラオラ過ぎるだろうが!!
「いい加減にしろ。千景は物じゃないんだ。その言い草はないだろう!」
リビングへと叫ぶと、腕の中の千景が、うううと唸る。
「しゃちょうぅぅ」
「大丈夫か?」
ずり落ちそうな千景をいったん降ろし、そしてお姫様抱っこに変えた。この方が断然、運びやすい。
リビングからはさらなる声が聞こえてくる。
「おまえ、俺だけだって言ってたのに、他の男とできてんのか?」
「おい、千景を侮辱するな」
「俺とそいつ、どっちを選ぶんだ?」
千景を抱き抱えながら、リビングへと向かう。そんな中、千景が思わぬことを口走った。
「社長でぇす。私はしゃちょさんを選びます」
「千景……」
俺は嬉しかった。しかも俺を選んでくれた、そんな千景を今、抱きしめている。
俺はリビングを睨みつけた。
男と対峙だ。千景は渡せない。千景と離れるなんて、最初からやっぱり無理だったのだ。