EP 3
「あの……これはいったいどういうことでしょうか?」
坂下様が唖然とした表情で腰を浮かせ、立ち尽くしている。
そこで、ちょっと千景こっちこい! と腕を引っ張られた。社長だ。
「千景、この有様はなんなんだ!」
小声でヒソヒソとやり取り。
「社長が狙いを定めていらっしゃる女性を軒並みお呼びいたしました」
「なんでそんなことするんだ!?」
崖っぷちの商談でもあまり動じたことのない社長が微妙に焦っている。
まあそうか。そうだろうな。
「蛙化現象対策です。もしこの席で坂下様との縁談がまとまりましても、他の女性への対応をせざるを得なくなる状況をあえて作り、気を紛らわす作戦です。しかも、このように女性がたくさんいらっしゃれば、女性アイドルグループのa⭐︎b48のように、皆さん同じお顔に見えてきて、坂下様だけに嫌悪を抱くということはないのではと思いましてですね」
「木を見て森を見ずの逆バージョンってわけだな」
「その通りです」
「千景、おまえめっちゃ頭いいな。なかなか良いアイデアだ」
「ありがとうございます。それでは私はこれで失礼致します」
腕時計を確認すると、時間は夕方の6時5分過ぎ。仕事の勤務時間は18時までと決まっている。
「ええぇもうちょっとここに居てよ。残業代つけるから」
「社長なら大丈夫でしょう」
この社長。アジア系のイケメン。35歳で少し薹は立っているが(←何気に失礼)、モテるし女性の扱いには相当慣れている。企業が集まる懇親会パーティーなどでもその才を発揮して女性の間をひらりひらりと蝶のように飛び回っている姿をよく見ているから知っている。
「なんとお美しい。あなたほど素敵な女性はおりますまい」
バラの背景を背負って、おええぇと吐きそうに甘いセリフ(個人的見解)を惜しげもなくバンバン排出。隣に控えていると、寒ボロ地獄な目にあうこと必至。
けれどこれも仕事のうち。
誰でもいい、どなたかに早く社長の恋人になって落ち着いていただきたいのだが、カエルが邪魔してなかなか話が進まない。
(確かにこんなにモテるのに、カエルのせいでお付き合いのその先に進めないって哀れの極みだな)
「失礼します」
さっさと部屋を出て、帰路に着いた。
*
「どうでしたか?」
「どうもこうもないよ!!」
月曜日。出社すると社長はカンカンだった。