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EP 28

「どうしたんだ? どこか調子が悪いのか?」

「いえ、そうでは……えっと……はい」

「千景がアポを取るのを忘れるなんて、そうそうないからな。よっぽど具合が悪いんだろう。今日はもう良いよ、帰りなさい。明日も休んだらどうだ?」

「わ、忘れたのではありません……ただ、社長が以前、女性と二人の会食はキャンセルしてもいいと仰ったので……」

「ああ。それは撤回しただろう? 先日、レストランで会った沙羅さんにも約束したからな。百合さんに連絡を取って、食事のセッティングをして欲しい」

「でも社長……あれは百合様も社交辞令で、」

歯切れが悪い千景の様子が気になったが、俺ははっきりと言った。

「百合さんは田川財閥のご令嬢で、これからもお付き合いができれば、こちらの利益にもなる」

「承知しております」

「だったら、予約をしておいてくれ。千景の誕生日に行った、あのホテルのレストランで良い」

びくっと身体を揺らしたが、いったいどうしたのだろうか。

「ですが社長、社長の蛙化現象はまだ治っていませんので」

今度は俺の身体が揺れた。

「千景、そのことについては報酬も払ったし、もう良いと言ったはずだ。カエルはたぶん完治しているはずだよ。最近はしごく調子がいいからね。自分でもわかるんだ、なんとなくだけど」

「承知しました」

顔色が良くない。

「そのアポを取ったら、もう帰りなさい。送っていけなくて、すまないが……」

「とんでもありません。それでは失礼します」

よろよろとしながら、千景は社長室を出ていった。

(本当にどうしたんだろう……)

まさか!!

俺はスマホを取り出し、Vチューバーアイドルのトーマくんのインスタを開けた。

「引退とかじゃねーだろうな」

いや、引退どころか新しい動画配信中だ。それなのに千景はどうして……。

「はは。もう諦めたじゃないか。千景は俺のバカに付き合ってくれただけだ。お金に目が眩んでな」

ふふと笑う。

「あの200万でトーマくんグッズを買うって息巻いてたけど、俺が全部買っちゃったからなあ」

どうするんだろう、貯金するのかな。結婚資金とか。

一気に胸を暗黒の雲が覆い尽くしていった。

「はあぁ。俺以外の男と結婚なんか、見てらんねえかもな……」

くそっと吐き捨て、ソファにどかりと座った。

「当麻さん、お好きな料理はなんですか?」

田川財閥の令嬢、百合さんとの会食は穏やかに始まった。

仕事の付き合いだけではそうそう出会うことのない、上流階級との接点。百合さんに良い印象を持ってもらえれば、大きなクライアントを紹介してもらえるかもしれない。

少し姑息ではあるが、それをビジネスチャンスと狙っての食事会だった。

「私はそうだな、ダイコンの金平ですかね」

「あら! 私の得意料理です」

「そうですか」

クスッと笑ってしまった。千景が作ったダイコンの金平は、味が染みていてすごく美味しかった。

目の前には、フレンチのメインディッシュ。ただ、美味しい料理が目の前にあるというのに、あの金平がもう一度食べたいという思いに駆られてしまった。忘れられないのだ。

(はあぁ、未練タラタラだなおい)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんだと!? まさか・・ そういうことなの!?!?
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