EP 27
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目を開けたら、部屋中がトーマくんグッズで埋め尽くされていた。いたるところにトーマくんがいる。クッション、等身大パネル、テーブルの上には文房具、ファンシーグッズ、いつかは買いたいと思っていた、トーマくんとコラボのお掃除ロボなどなど。
あ。
違う。
思ってたのと。
そう思ったら、夢のシチュを勝手に妄想していた浅はかな自分が情け無く思えて、涙が出てきて。
きっと社長が私を好きだなんて、幻想に過ぎなかったのだ。
あの日。
社長の家のベッドの中、後ろからぐっと抱き締められて、社長に好きだと言われて。日が経つにつれ、あれは夢だったのかなと思うようになっていった。
雪が溶けてなくなるように、儚く薄れていく。
けれど、きっと。
誕生日には、もう一度好きだと告げられて、抱き締められて、それで付き合ってくれと耳元で囁かれ、プレゼントと言ってリングをはめてくれる。そんなことを想像していたものだから。
崩れていった。なにもかもが。
「千景、なんで泣くの? 嬉しくない? 千景の好きなトーマくんだよ。等身大パネルなんかは手に入れるの結構苦労したんだ」
涙を拭きつつすすっと近づいて、私がトーマくんクッションを手に取ると、「それはショップでトーマくんグッズをまるごと全部購入したときに、そんなに好きならって店長さんが自分が使ってるクッションをくれたんだよ。非売品だ」
私物 ww
「大丈夫!! ちゃんとクリーニングに出したから」
お気遣い、痛み入ります。
「全部、千景んちに入るかな。こんなにたくさんグッズの種類があると思わなくてさ。爆買いしてから、ちょっと後悔したよ、ははは」
社長はポケットからハンカチを出し、私に差し出してくる。
「もちろん嬉し涙……だよね?」
私はハンカチを受け取った。涙を拭く。
「もちろんです。こんなにしてくださって、ありがとうございます。すごく嬉しい誕生日に……なりました」
そっか良かった、そう言ってふわりと笑う。
「それから、報酬も送金しておいたから」
私がえっと顔を上げると、社長は苦く笑って言い加えた。
「大丈夫大丈夫!! 差っ引いてないから!! ははは」
「社長……」
「千景、ありがとうな。今日はここに泊まっていきな。全部揃えてあるからさ。俺は家に帰るし、ゆっくりしてまた来週の月曜日から、仕事頑張ってよ。じゃあな」
そして、私はぽつんと取り残されてしまった。トーマくんに囲まれながら。
呆然としていたけれど、結局私はそこで歯を磨き、シャワーを浴び(タオルもトーマくんだった)、そして眠った。
トーマくんに包まれているのに、孤独で仕方がなかった。