EP 26
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「千景、あのさこの後のことなんだけど……」
レストランを出て、ホテルのバーへと移り、そこで俺はハイボール、そして千景はカクテルを頼んだ。水色の液体を見つめながらぼんやりしている千景が気になって、俺はちょいソワソワしてしまっている。
それに俺が選んだドレスがとても似合っていて、まじで可愛い。可愛い。可愛い。何度も心の中で連呼してしまう。
「誕生日プレゼントを渡したいんだ。今日着替えた部屋に置いてあるんだけど、来てくれるかな?」
「……はい」
良かった。ほっと胸をなでおろす。これで、お誘いが怪しいですね、トーマくんならこんな誘い方はしないですよ(←卑屈)、とかなんとか言って、了解してもらえなかったら、せっかくのプレゼントが台無しになってしまう。
「じ、じゃあ行こう」
いったん1Fのロビーへと降りてから、専用のエレベーターへと乗り込む。
最上階に着き、玄関のドアを開けようとして、俺は手を止めた。
「千景、目をつぶってくれないか」
「え? あ、はい」
言われた通り、千景は目をつぶった。
きっと感激してくれると思う。千景のために、俺はあちらこちらと奔走したからだ。歓喜で飛び上がるだろうと思う。その勢いで、社長大好きと言ってくれないだろうか。
そして、ドアを開ける。背中に腕を回し、肩を抱いて、目をつぶっている千景をそっと歩かせる。体温が伝わってきて、それだけで俺はもう。
あの夜。
千景を抱き締めて眠ってからは千景への想いが加速してしまっていて、仕事のときも千景を何度も呼んでは、スケジュールを確認させ、その姿を見て満足したりして。
愛してる。
これほど愛した女性はいない。
仕事とはいえ、俺に誠心誠意尽くしてくれて、助けてくれる。
心の支えだと。ずっと思っていたし、これからも。
「目を開けて良いよ」
千景がそうっとまぶたをあげた。
部屋をぐるっと見渡すと。
「……社長、ありがとうございます」
そう言って、千景は涙をはらはらと流した。