EP 24
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土曜日は快晴だった。
電車で街へと出る。約束のラグジュアリーホテルは、その街の中心部に位置している。
着替えの部屋を取ってあるからとのことだったので、私はドレスを紙袋に入れて持参した。
「申し訳ございませんが、その服装ではお入りいただくことはできません」
軽装で来てしまった。そうだった。いつもは仕事として出入りしているホテル。スーツだったから入れただけで、迂闊にも普段着で来てしまったのだ。
私は紙袋を掲げて、「ここにドレスが入っているんです。こちらで着替えさせていただくように、お部屋も予約させていただいていると聞いております」
「お名前を」
「当麻です。当麻祐樹です」
すると、「あっ当麻様のお連れの方でいらっしゃいましたか。これは失礼致しました」となった。
変わり身はや!!
「ご案内いたします」
荷物を持ってもらい、エレベーターに乗り込む。ずんずんと上へ上へ。どんだけ上いくの? と思うほど、エレベーターはシューンと登っていく。
あれ? エレベーターのボタン押してなくない? ボタンが2個しかない。1Fと。23F?
ティンとベルが鳴って降りてみれば、もうそこは玄関。
「ではごゆっくりとお過ごしください」
呆気に取られてしまった。ここはホテルの最上階。まさかのまさか。
「スイートルームじゃないのこれ? 着替えるだけの部屋にスイートルームは無駄遣いじゃないの!」
玄関から入り少し歩くと、部屋部屋部屋。内装も豪華で煌びやかに光っている。バストイレは大理石。
そして、大きな窓からは街を一望できるほどの、景色が広がっている。下を覗き見ると、人や車が小さく見えた。青空に浮かぶ白い雲が、高層ビルの窓に太陽の光とともに照らされ、ふわふわと浮かぶ。
「いー景色」
私は社長が教えてくれた『千景万色』を思い出していた。
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「千景、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
グラスをカチンと鳴らす。飲んだことのないような高級なワインを口に含む。ふわりと芳醇な香りがして、それだけで酔ってしまいそうになる。
「千景にはいつも助けてもらってばかりで、なかなかお礼を言う機会もなかったから、誕生日がお祝いできるのは嬉しいよ」
社長はいつもよりビシッと決まったスーツを着こなしている。
「それにドレスもよく似合ってる」
「あ、ありがとうございます」
フレンチのフルコース。前菜が運ばれてきた。マグロやサーモンのカルパッチョ。フォークを取って、ひと口口に入れた。とろけるような、美味しさ。思わず、感嘆してしまう。
「社長、すごく美味しいです」
「これはうまいな」