EP 22
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(え? 待って……あれガチだったよね?)
私は今、秘書室のテーブルで、バンッバンッと領収印を押している。山盛りになっていく領収書。定年退職まで使える分ぐらい、さっきから印鑑を押しまくっている。だが、もうインボイスww
(え、待って。社長が私を好きだなんて……夢すぎて夢か? ってなるけど夢じゃないってば、何度言ったらわかるの! 私!!)
口調や熱い抱擁から、真剣だと思った。
(トーマくんに焼きもち……マジかぁ)
二冊目の領収書に手を伸ばす。
(どうしよう)
どう収めるのが正解かわからなかった。
結局最後には、カエルの特訓ですか? と訊いて、誤魔化してしまった。社長はその誤魔化しに乗った状態だ。
ああ!! どうしたらいいかわからない!!
私も好きですって告白すれば良かったのかな。そしたら、他の女性とのデートなんかはすべてキャンセルしてくれるのかな。そうなれば、私は心の平穏を取り戻せるんだけど。
女たらし。
まあ引っかかる。浮気は病気。そうも耳にする。
(カエルよりそっちを治した方がいいのかも……)
そこで提案。
「社長、女性と二人きりの会食をすべてキャンセルさせていただいてもよろしいでしょうか?」
なるべく無になってそう伝えてみる。
「ん? ああ。別にもうどうでも良いから、好きにして」
腑抜けた返事が返ってきた。
「社長、もし禁断症状が出たらお教えください」
「なんの禁断症状よ」
「デートをすべてキャンセルするんですよ? 女性が足りないとお思いになったら、仰ってください」
デート全消しで、社長が女性成分なしでも生きていけるようになれば、私も安心です、とはさすがに言えなかった。
「はは。女性が足りないなんてことはならないよ。そもそも俺、カエル化発動して、女なんか1ミリも要らねえってなるんだから」
「確かにそうですね」
「あとこれ。誰にあげるんでもなし、千景が貰ってよ」
スーツのポケットから取り出したのは、小さな小箱。
「誕生日、明日だろ? あと1回だし、要らなかったら捨ててくれればいい」
「そんなことはしません。ありがとうございます」
素直にお礼を言った。
ああ。私はなんて酷い人間なんだろうか。今までは社長の熱烈な気持ちを知らなかったので仕方がないかもしれないけれど、いただいたプレゼントを突っ返すだけでなく、他の女性にあげてくださいと言い放った女。
自分のことながら、末恐ろしい。
小箱を開けると、そこにはピアスが入っていた。
「虹色?」
「ガラス細工だよ。そんな高価なものじゃないけど、千景に似合いそうだと思ったから」