EP 20
強い口調だったのは、おまえそんなことはわかってるだろう? という、社長の正しい気持ちの表れで。恋愛対象にならないのだから、恋愛ごっこで蛙化をなんとかしようだなんて、最初から設定がバグってたとしか言いようがない。
だから、「もうやめた方が良いのかもしれない」と。
(もちろん社長からしてみれば、こんなオタクの地味女、範疇外だとは思うけど)
悲しいのかな、心が折れそうなのかな。一緒の布団に入ってはいるけれど、なんか寒々しさを感じてしまう。
そのうち、すうすうと寝息が聞こえてきた。眠れない、少し振り向いてみる。
オレンジ色の照明に浮かぶのは、社長のイケメンな横顔のシルエット。高い鼻、意志の固そうな、むいっと結ばれた唇。けれど濃い眉はいつも、円を描くようにして、優しく笑っている。
(もう秘書なんか辞めようかな……)
じわと。じわじわと。止められない社長への恋心が、自分の中から生まれ出て、勝手に育っていくようで怖くなった。
(やめやめ、また明日考えよう)
そっと手元に置いてあったスマホを触る。明日、起きる時間を確認しようとタイマーをセットし直し、そしていつも見ているVチューバーアイドルのトーマくんのインスタを、癖で開いてしまった。
するとすかさず、「おい、なにを見てるんだ」と、背後で鋭い声がした。
「あ、すみません、起こして、」
「こんな時ぐらい!!」
後ろから覆い被さってきて、スマホを持っている手を握られた。そして、ぐいっとスマホを伏せると、後ろから抱き締められた。
「しゃ、社長……」
驚いてしまった。背中に上から下まで、ほわりと体温が伝わってくる。握られた手は驚きで震え、私は身体中に力を込めた。
「一緒にいるのは俺なんだぞ。こんな時まで、焼きもちやかせるなよ」
焼きもち……?
訳がわからない。ついさっき、もう仮の恋人契約はもうやめようと言っていたのに。
強く抱きしめられたまま、永遠に続くのかと思うほどの、長い沈黙の時間が過ぎていった。
*
(あーあやっちまった)
イラついた結果の行為だったが、身体も心も意に反して喜んでしまっている。とうとう千景をこの腕に抱きしめ、手まで握っているからだ。
(こんなんダメに決まってるだろう……)
心の中では反省しているが、実際はどうだ。千景を求めてやまない気持ちに、歓喜に震える俺。
千景は?
嫌がっている?
もしそうなら、突き放してくれ。そしたらもうすっぱりと諦めるから。おまえの秘書の職を解いて、一社員に……総務に戻してやるから。
(そしたら俺、どうなるんだろうな。千景が秘書室にいなくたって、総務にいるならきっと、たまには会う機会……ってか見かけるぐらいはあるだろうし)




