EP 19
「え?」
「そうだ、あの下着もどなたかにプレゼントしたらどうでしょう?」
俺が買ってきたランジェリーだ。仕事帰りに寄ったランジェリーショップ。
そこにはたくさんの女性ものの下着が陳列してあり、入るのに少し躊躇してしまった。
俺は女性に下着を贈ったことはない。もし贈るとするならば、そういう関係になりたいという意思表示だと思ってる。
(でも今回は違うから。ただびしょ濡れて困ってる千景を助けるために……)
心の中で言い聞かせるようにして、店員に話しかけた。恥ずかしくて死にそうだったけれど、店員に事の顛末を繰り返し話しながら、なんとか数着選んでもらい、その中からこれというのをチョイスしたものだった。
(これ、可愛いな……)
淡い、桜色。千景の、普段はピシッとしているけれど、ふとした瞬間に柔らかに微笑む、そんな雰囲気にぴったりだと思ってセットアップを購入した。
(千景、喜ぶかな)
くすぐったい気持ちに包まれる。千景が待つ俺の家へと、早く帰りたくて仕方がなくなった。
「矢作商会のお嬢様、沙有里様はどうでしょう? 沙有里様との会食が、8日後に迫っておりますし、サイズもちょうど良いのではないかと推測されます。沙有里様は社長にベタ惚れですし、きっとお喜びになると、」
「千景」
薄く笑う。
「そんなことはもういいよ。さあ寝よう」
言葉を遮るようにして、俺はダウンライトのスイッチを消した。
ベッド横のナイトライトのオレンジ色だけが、虚しく漂っている。
そうか。そうなんだ。そう思われていても仕方がない。千景に嫉妬して欲しくて、千景がどう反応するのかを知りたくて、次から次へと女性と食事したり、デートしたりしていたんだからな。
(最悪な男だな、俺)
千景とこうして同じベッドに入るだけで、俺の心臓はばくばくして、けれど浮かれもしてて。今でも背中から抱きしめたい衝動に駆られているというのに。
俺の腕の中にすっぽりと入る千景を想像したら。俺のパジャマを着て、俺と同じシャンプーの香りをさせ、その体温を感じて眠れたらどんなに幸せなのだろう。
こんなにも千景のことを好きだというのに、他の女性との接触なんかを見せつけて、俺は本当に救いようのない浅はかな男だ。
『どなたか意中の女性に贈ってください』
(そりゃ、そうなるわな)
がっくりだ。落ち込んだ。慌てて仰向けになって目をつぶる。真っ暗なまぶたの中に、オレンジの光が差し込んできて。
なにやってんのかな、俺は。ずっと、頭の中でそう呟いていた。
*
(悲しいというか、残念というか、悔しい? ともまた違う)
『そもそも千景に対しては、カエルなんて出てこない』
当麻社長の強めな一言がガツンときた。
(……私なんて恋愛対象にすら、入っていない)
さすが箸置き。自虐が冴える!!