EP 18
「おまえ見かけによらず大胆だよな」
ごそと布団が波を打った。千景がこちらに身体を向き直して、俺の顔をじいっと見つめてくる。平静を装って無表情を貫く。けれど、頭や心は……。多少の緊張はあるけれど、このシュチュエーションに大パニックなのかといえば、そうでもなかった。
千景の側はこうも気持ちを落ち着かせてくれる。
「なあ」
俺は布団の中で手を握ったりパーにしたり、にぎにぎしながら話しかけた。
「おまえは俺のこと、バカな社長だと思ってるんだろうな」
「…………」
「図星かい」
「まあ」
「悪いな。迷惑かけて」
「迷惑とは思っていませんけど……仕事ですから」
仕事、か。
そうだな。千景はこんな風に社長と同じベッドで眠ることだって、仕事と割り切っているんだな。こんなバカな提案してくる社長のお守りも大変だ。
若い女性がこんなおっさん相手に、首を縦に振る案件じゃないよな。
(……200万の……おかげか)
自虐で頭が冷えた。
さっきまで、嫁だ嫁だと喜んでいたけれど、よく考えてみれば本当はこんなことは間違っている。
報酬を払って、恋人になってくれだなんて、パパ活なんじゃねーのと責められても、違う! とすっぱり言い切れない部分がある。
押し付けているつもりはないけれど、千景自身がもし無理矢理承諾させられたのだと思っているなら、それはその通りなのだから。
「……なあ。もうこんなことやめた方が良いのかもしれない」
「と申しますと?」
「全面的に俺が悪い。自分で言っておいてなんだけど、仮の恋人契約だなんて意味がない」
すると、まだ明るいダウンライトの光の中、千景の顔がみるみる曇っていった。
「こんなことでは蛙化現象を食い止められないと?」
「そもそも千景に対しては、カエルなんて出てこない」
複雑な思いを悟られまいと、少し強い口調になってしまった。すると、くるりと向こうを向いてしまう。
「……そうですよね。効果はないかもしれません」
言葉が弱々しかった。俺はハッときがついて、「大丈夫、報酬はちゃんと払うし、プレゼントだって誕生日までは、」
「プレゼントはもう要りません」
「そういうわけにはいかないよ。もう契約しちゃったから。でぃあごすてぃーにのシステムで」
「ぶっ」
千景が小さく背中で吹いた。
「完成まで契約破棄できないやつww」
「そうなんだ。もうすべて注文しちゃってるからね」
「ふふふ」
笑ってる。少し、ほっと胸を撫で下ろした。これで誤魔化せたと。
けれど、次の千景の言葉で凍りついてしまった。
「じゃあそのプレゼントは、どなたか意中の女性に贈ってください」