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EP 16

「社長が……ぐはっ! あまあま甘すぎた……」

私は大きすぎるだぼだぼパジャマのまま、ソファに足を抱えて丸くなる。そのままコロンと転がった。

遠くに洗濯機のゴォンゴォンと音がする。洗えるスーツで良かった。ついでに下着も一緒に洗い、後ほど乾燥機をかけるつもり。

「なんなのあれ。普通ドライヤーなんてかけてあげる? マンガかいっ、それともあれが普通の恋人の通常運転なの?」

恋愛に疎い私は、今日の社長の行動すべてにおいてあたふたしてしまい、しかも理解すらできずにいた。

ふうと息をつき、立ち上がって縁側へと向かう。

窓をカラカラと開けると、ぬるい風がふわりと頬に触れた。

「お庭、凄っ。豪華〜。でも癒される」

植物が鬱蒼と茂っているように見えて、よく手入れはしてあるようだった。ただ、落ち葉が敷き積もっていて、掃き掃除までには手が届いていないようだ。

「社長、忙しいもんなあ」

秘書という仕事をしていればよくわかる。

女性とのデートなんかのプライベートも謳歌しているから家に手をかける時間はあまりないだろう。馬車馬のごとくまでとはいかないけれど、仕事量によっては私が休みの土日も出社しているようだった。

だからこそ、業績は右肩上がり。

「女性の扱い方も完璧。慣れてるっていうか……まあそんなこたあどうでも良いけど。それよりどうやってカエル化を止めればいいのかを考えなくちゃ……」

空を見上げると、雲がぽかりと浮かんでいる。ぼんやりと考える。

(もし、カエルが発動して……私を嫌悪することになってしまったら……)

その考えに一瞬、ぞく、と背筋が寒くなった。

もちろん秘書の仕事も辞めなければならないだろう。先日書いた辞表は、家の引き出しに眠っている。

優しい社長の態度が急に変わってしまって、「千景、おまえにはほとほと愛想が尽きた。我慢ならないから、おまえはもうクビだよ。金輪際関わりたくない。俺の前から失せろ」とか言われたらもう。

「もしかして……トーマくんの引退より、辛いかもしれないな」

雲は薄暗くなった空を、ゆっくりと進んでいって、その形を変えていった。

「た、ただいま」

じりじりっと玄関に入ると、良い匂いが漂ってきた。

「おかえりなさい。社長、冷蔵庫の中を勝手に漁りました。野菜不足かなあと思いまして」

俺の(//∇//)パジャマ姿で、キッチンに立っていて、菜箸でフライパンの中をぐるぐるとかき混ぜている。その姿。尊みがヤバすぎて、倒れそうになるが、なんとか持ち直す。

「メシ作ってくれてるの?」

「はい」

わーおこれじゃ、まるっきり嫁じゃねえか。

すすすと近づいていき、後ろから覗き込むと、フライパンの中には金平大根が燦然と輝いていた。

はい嫁認定だわこれ。

俺は心がウキウキしていくのを感じた。

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