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EP 14

「ほら。乾かすから向こうむいて」

えええ社長自ら?

私はドライヤーを奪おうとし「じ、自分で乾かしますので」と。

けれど失敗。

ぐいっと背中を押されて前を向く形に。スイッチを入れると、温かい風がブオォォーと髪を散らしていく。

「熱くない?」

耳元。ドキっと胸が鳴った。

「はい」

社長の大きな手は、書類にサインをするとき、クライアントと握手をするとき、指が長いなあっていつも思いながら見つめている。その指が、私の地味色な髪をゆるりゆるりと梳いていく。たまらない気持ちになった。

「綺麗な髪だな」

甘い声。普段から遠く遠くに距離を取っていた社長がすぐ後ろに。次第に胸の鼓動が速くなっていき、苦しくなる。

「社長にやっていただくなんて、申し訳ありません」

平静を保つのに精一杯。

これが恋愛というものだろうか。推し活にすべてをかけてきた私。動揺しかない。

(このまま髪が乾かなければいいのに……)

そう小さく願うほどに。

(マジかヤバイ千景がうちにいる)

動揺を抑えようと、コーヒーを淹れてみる。ふわりと香ばしい香りに、俺は落ち着きを取り戻すところだった。

のに。

「社長、シャワーをありがとうございました」

ガチャンとスプーンを落としてしまった。

「大丈夫ですか?」

「はははダイジョーブダイジョーブ」

ええええ、俺のパジャマ着てるよ。ヤバイ、また動揺。はあぁ ´д` ;。 袖が長すぎて手が見えていない。すそもふたつ折りに折ってあるううぅ。俺のパジャマあああぁぁぁあああ。

「ちゃんとあったまったか?」

「はい」

ソファに座らせ、ドライヤーで髪を乾かした。こんな展開信じられないが、手を伸ばせば届くところに千景がいる。シャンプーの良い香りが漂ってきて、俺の理性は揺さぶられる。

背中も小さく肩も細い。髪の間からのぞく白いうなじにドクンと心臓がまた鳴った。

ちゃんと食べてるのか? もっとたくさん食べさせたいんだが。まさか推し活に給料すべてをつぎ込んでるんじゃないのか? こうなると心配ばかりが募っていく。

ドライヤーを止める。

「ありがとうございました」

蚊の鳴くような小さな声に、俺は。

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