EP 11
*
ダイヤのネックレスをプレゼントされた次の日、そしてまた次の日と。
私の腕にはブルガリの腕時計、指にはティファニーのリング、そしてロッカーにはロエベのバッグ。
ちょっとお待ちあれ。プレゼントはブランド物ばかりで、このままでは報酬200万円に近づいていく勢いではないか。
「社長、まさか……」
「差っ引かないって」
「承知しました」
毎日このやり取りを交わしているが、カエルのためになぜこんなにもお金を出せるんだ?
(ややや、でもやっぱりこのままじゃ結婚できないわけだから、いくらイケメン女たらし社長でも、どうしたもんかと焦る気持ちが出てくるのも当たり前かもしれないなあ)
婚活費用だと思えば良いのだろうか。本物の彼女が出来たら、これらは直ぐにお返しすべきなのかもしれない。
ああ。このままでは、でぃあごすてぃーにのシステムで誕生日までには、完璧な淑女に組み立てられ仕上がってしまう。
ただ、ブランド物のプレゼントを身につけたって、中身はただのオタクの地味女に変わりはない。お金への執着と推しへの情熱はあるが、基本トラブルには巻き込まれたくない派。
けれど誕生日の前日のこと。事件は起こった。
私はそれで我慢の限界がきていて、とうとう社長にプレゼントを突っ返してしまったのだ。
「こんなことになりましたので社長……プレゼントはもう辞退させてください。私、地味子に戻ります」
私は全身ビチョビチョのまま、アイドルの引退宣言のように告げた。
「千景!! どうしたの、その格好は!!」
髪から垂れた雫をタオルで拭く。
「トイレに入っていたら、上からザバッと。ヤラレました」
「誰に!!」
「嫉妬に狂った女性社員の方々にバケツの水をぶっかけられました」
「ええぇ……マジか」
「でも大丈夫です。原因は私にあります。ブランドなど身につけず、身分をわきまえるべきでした」
「身分てそんな……すまない、俺の配慮が足りなかった」
しゅんと落ち込む社長。
「これくらいなんとも平気です!!」
私は言い放った。
第一に平社員だった私が、社長秘書に引き抜かれたところから、女性社員のやっかみの標的になった、それだけのこと。
「なんであんな地味ブサが当麻社長の秘書なのよっ」
「ほんと許せなぁい。私の方がスタイル良いのに」
「見てよあのスーツダサ」