EP 10
俺は千景が離れていってしまったら、どうしたらいいのかと途方にくれるだろうと言うのに。
やややそれより……そうだった、一人の男としてまったく見てもらえていないんだった。(;´д`)
企業同士の懇親パーティーで、俺が周りに女性をはべらしていても、千景はうんともすんとも言わず、ただひたすら無心でオードブルに喰らいついてるもんな。
そこには1ミリの嫉妬もなくて。1ミリのヤキモチもなくて。
「はは。どーせ、救いようのないスケベキモオヤジとでも思われてんだろうな……」
言葉にしたらさらに落ち込んだ。拳をぎゅっと握り込む。
「……いや、さすがにキモいとは思ってないだろうけど」(←一縷の望み)
とにかく、考え直してくれるよう、説得しなければ。
「そうだ!! ボーナスを200万にすれば首を縦に振ってくれるかも!!」
さっそくLINEした。ピロン。OKのスタンプ。
「よっしゃ即答ww」
解決した。
*
「マジか」
スマホを前にして私は困惑している。
辞表を出したら、報酬が200万に上がった。
「このお金があれば……トーマくんグッズを永遠に購入できる」
脳がバグって即答してしまった。宝クジにでも当たったかのような軽い興奮もある。ひゅーひゅー⤴︎
なんか駄々をこねて金額を釣り上げたクレーマーになってしまった感は否めないが。そう考えると、少しだけ胸が痛んだ。
「仕方がない……とにかくカエルをなんとかすれば良いだけだ。トーマくんのためにここは頑張るしかない」
その日は200万円のスマホを抱きしめて眠った。
*
次の朝出社すると、「あーっと千景、おはよう。今日も可愛いね。これ良かったら」と社長がもじもじしながら、包みを渡してくる。
ん?
今、可愛いねと?
「これは……なんです?」
???
「千景さ、もうすぐ誕生日だろ? 今日から誕生日までの一週間さ、毎日プレゼントしようと思って」
「そうですか。そんなことしていただかなくても。ですが、せっかくご用意してくださったので、これはいただいておきます。ありがとうございます」
一週間ってもしかして、部品がひとつ入ってて一週間すると完成するヤツ? でぃあごすてぃーにのヤツ?
「開けてごらん」
社長がずいっと近づいてくる。やたら近いやたら。
私がゴソゴソと包装紙を開けると、なんと。
「これはダイヤ……のネックレス? ですか?」
ゴールドのチェーンの先には、ダイヤモンドが燦然と輝いている。朝の太陽光を吸収してキラリキラリ。デザインもシンプルな、可愛らしいネックレスだ。
「うん。貸して」
言われるままに手渡すと、後ろに回ってネックレスをはめてくれた。
前に回り込んで、ニコニコ。
「うん、思った通り!! 似合うよ」
「こんな高価なものいただけません」
私がそっと指先でダイヤを触ると、その手をパシッと握り、そっと下げた。
「いいんだ。千景はいつも頑張ってくれているからね」
「……社長、もしかしてコレ今回の報酬から……」
社長は慌てて顔を左右に振ると、「ないない! ボーナスからなんて、さっぴかないから安心して!!」
わかりました。それならオッケーです。
私は正式に謝意を申し上げ、その日は一日中ネックレスをしたまま仕事をした。
こんな可愛らしいジュエリー、いまだかつて、買ったことも身につけたこともない。そわそわして何度もダイヤを触ってしまう。もし、チェーンが切れてしまったら? アロンアルファあったかしら? と思うと気が気じゃなかった。
(なんという貧乏性)
Vチューバーアイドルオタクには、恋愛とはこれほど、ほど遠い。
(こんな私で恋愛の練習になるのかな……ってか私が練習させてもらってる感がエグいww)
帰ったらカエルの生態でも研究してみるか。