3:他校のエースに懐かれる
『うちの購買の一番人気』
クラスメイトと食堂で親子丼を食べていた昼休み、その一言とともに橘から送られてきたのはコッペパンに美味しそうな揚げ色がついた唐揚げが挟まれた写真だった。唐揚げの上にかかってるタルタルソースらしきものが余計に食欲を刺激する。
『うまそ』
『颯真なに食ってる?』
『これ』
『そっちもうまそう』
なんだこれ。めっちゃ意味ないメッセージのやりとり。なんで俺こいつとこんなことしてるんだ?他愛もないわけのわからなさが可笑しくて、つい笑ってしまう。
「おい颯真、なに親子丼の写真なんか撮ってんだよ」
「なに食ってるって聞かれたから」
「はぁ!?誰に!?まさか彼女できたんか!?」
「ちげーよ、友達!」
「友達という名の将来の彼女だろ!」
「だから違うっての。相手男だわ」
「なんだつまらん」
「興奮して損した。ちょっと肉よこせ」
「イヤだっつーの」
隣から伸びてきた箸を、どんぶりを浮かせて躱す。部活用のエネルギー補給を奪われてたまるものか。
「ってか友達って誰」
問われて、一瞬、口が戸惑った。
……いや、別に公表したところで問題がある相手ではない。うん、問題はない。
「……橘」
「橘なんていたか?」
「どこのクラス?」
「……相陸のヤツ」
「相陸の橘?って、橘優星?」
「そう」
「マジで?」
「橘優星って誰?」
同じバスケ部の由井の驚きぶりに、テニス部所属の鈴岡が前のめり気味に問いかける。
「相陸のバスケ部のエース。身長190センチ超えのイケメン」
「そんなハイスペックな男実在すんの?フィクションでなく?」
「それが実在するんだよ、ってかいつの間に橘と友達になってんだよ颯真」
「んー……一週間くらい前から?」
「大会の後ってこと?」
「ん」
「あ!」
親子丼を頬張りながらのらりくらりと受け答えていると、鈴岡が不意に声を上げた。
「それってこの前女子が噂してた他校のイケメン君?」
そう、あの校門での待ち伏せの翌日、一部女子の間で橘の存在は瞬く間に噂になった。そして噂の矛先は俺に向かい、あれは誰だ連絡先を教えろ紹介しろだのと詰め寄られて大変だったのだ。人の連絡先を勝手に教えるわけにもいかず、一応橘に確認を取ってみたが、あいつは顔も知らない相手に連絡先は教えたくないと返してきたので、全ての申し出は丁重に断った。橘を諦めきれない女子から「ケチ!」と怒られて、なんで俺がと腹が立ったけれど、橘から『迷惑かけてごめん』と素直な謝罪があったので苛立ちは寝て忘れることにした。
「颯真に会いに来たってヤツだろ?」
「あー、まあ、そう。それ」
「え、俺聞いてないけど」
「言ってねぇな」
「言ってよ!なかなか重大案件じゃん!」
由井はハンバーグ定食についている味噌汁を啜ってから、そもそも、と言った。
「颯真あいつにキレてたよな?チビとかなんとか言われたって」
「それをあいつが謝ってきて、それから友達」
「ええー……どういう展開」
「俺もよくわかんね」
よく、わかんないけど。
懐かれたとでも言おうか、この一週間、橘からほぼ毎日メッセージが送られてくる。
今日の昼飯の写真の交換のようにどうでもいい内容ばかりなのに、不思議と鬱陶しさはなくて、むしろいつも小さく笑ってしまうくらいには、俺はこの橘とのやりとりを楽しんでいる。感性が合っているとでもいうのか、橘の言葉はすんなりと俺の中に馴染むのだ。
「橘と颯真が友達って意外だわ」
「自分でもそう思う」
「橘って見た感じとっつきにくそうだけど、そうでもないの?」
俺はちょっとだけ考える素振りをして、言った。
「そうでもない。わりといいヤツだよ」