その7
「ホ……あれ?」
気がつくとさっきの草原に立っていた。
さっきと違うのは遠くに見える街のビルが何個か崩壊していて黒鉛が立ち込めていることだ。
また一歩踏み出す、さっきと違って『磐葉幼稚園』と書かれた文字のかすれかかった看板のある建物の前に出た。
幼稚園に向かって歩き出す、今度は歩きだしても周りが変わることはなく中に入ることができた。
中も中でかなり寂れたところで人影がない、職員室の奥の扉に入るとまたあのカプセルの部屋があった。
今度はさっきと違ってカプセルの中には何も入っておらず、代わりに隅っこの方で少女が小さくうずくまっていた。
「ねぇ君、大丈夫?」
少女は小さくうなずく。
「一緒に行こう。多分、一人だとここは危ないよ」
流石にこんなところに置いていけないし…
そう言ってプロテクターをバックパックに組み直し、O2が手を差し出すと子供は小さくうなずいてその手を取った。
「行こっか」
そうして少女の手を引きながら二人で幼稚園を出たのだった。
幼稚園を出て少し行くとだいぶ荒廃している街の中に入っていた。
道路には草木が生い茂りそれは家やビルにまで到達している、人が住まなくなってかなり経っているように見えた。
出口…どこ行きゃいいんだこれ…
当てずっぽうに歩いていると突然少女の足が止まって進まなくなった。
O2は少女の方を振り向いて膝立ちになりながら語りかける。
「どうしたの?」
少女は真横を指差す。
「あっちに行き…なんだあれ」
その方向を見ると少し遠くに黒い長方形の穴ようなものが見えた。
「あれ…出口なのか?」
少女に聞くが回答は返ってこなかった。
ここで彷徨うくらいならあそこに行くのもいいか…?
「…わかった、行こう」
少女の手を引いてその穴の前に向かう。
覗き込むとそこは底なしの暗闇で試しに穴に手を突っ込んでみたがそれは完全にそこに『開いて』いた。
少女の方を向くとなぜか上を指差していた。
O2が指差した方向を見るが何もない。
視線を戻そうとした時、何かに押されて少女と一緒にその穴の中に落ちていった。
「うわぁ!…あ、あれ?」
気がつくとコアタワーの大穴の前に倒れていた。
見渡してもあの少女の姿は無く、代わりに繋いでいた手にはブローチのようなものを握っていた。
そのブローチを眺めていると目の前をまた閃光が走った。
さっき見た攻撃かと思ったが違った、そこには片腕が緑色になって巨大化し緑の翼を持った女がいた。
その次の瞬間にはO2は宙を舞っていた、その巨大な腕に殴られたのだ。
い…いてぇ…
吹っ飛ばされた先でまた女がこちら殴りかかって来るのが見えた。
た…盾を…
そう念じてバックパックを切り離して右腕に集約して間一髪で盾とした。
拳を盾で受けたがあまり効果はなく、また更に吹っ飛んだ。
いてぇ…動けん…組み換えパーツ…多分イカれた…
女がその巨大な腕で巨大なエネルギーの塊を作っているのが見える。
逃げようとしたが体が動かない、何本か骨も持ってかれたらしい。
その場でもがいているうちにそれとは別の光が視界に入る、とても温かい光だった。
その光がO2自身を包み、吸収されていくのを肌で感じる。
そのうちいつしか痛みは消え、体の底から力がみなぎってきた。
女がエネルギーの塊をこちらに打ち込んできたがそれすら体の中へと流れ込んでくる。
この女の声だろうか、いやこれは一人ではないから違うのだろうがなにか聞こえる。
《待っていた》
《この瞬間を》
《一発カマしてこい》
「…とりあえず、俺もそうしたい」
なんでもなかった仕事をこんだけめんどくさいことにしやがって
身につけた装甲を全てを…体に満ちたエネルギーの全てを右の拳に集約する、そして全力で女をぶん殴ってやった。
その拳はその体の中へと入っていき、誰かがその腕を掴んだのを感じる。
拳に集約させた装甲を炸裂させながら、そのまま女を…いや、その誰かをぶっ飛ばした。
「いっ………たぁぁぁぁぁぁぁ!」
聞き覚えのある声、まさか…
ぶっ飛ばしたその誰かに駆け寄って顔を確認する、思った通りだった。
「ホノカ!?」
「テメェ加減しやがれ!痛いじゃないか!」
「助けてやったんだから文句はないだろ?あ、あともう1割もらうからな」
「渡すか!」
〘グォォォォォォ!〙
耳を貫くほどの咆哮、二人は思わずそちらを振り向くと女が空中でのたうち回りながら体の周辺にエネルギーを集約させていた。
「何だあれ…」
「…!マズイ、デカイのが来る」
O2はとっさに辺りに散らばった装甲を集約させて体に纏う。
「えっとあとは…そうだ!」
「アンタ…何その格好…」
なんかそんな感じのことが聞こえたが無視して、近くにあった鎧の人の腕からディバイスのようなものを取り出してホノカに投げた。
「それでバリアを!」
「うおっ…これ…コアプランター?確かに鎧になる!」
ホノカがそれを起動して鎧を形成した数秒後、女から放たれたエネルギーが地下世界全体を包み込んだ。