その4
少々時を遡る…
「クソぉ…コイツやべぇな、俺の防御網かいくぐってどうやって割り込んだんだ」
O2は興味と苛立ちが混ざりあった奇妙な気分でパソコンと向き合っていた。
「ここか?………いや問題なし………じゃあここも…うーん………ヴッ」
作業していると体の奥底から何かが喉を通じて這い出てくるような苦しさに襲われた。
それは時間が立つほどに辛くなり、ついに椅子から転げ落ちた。
転げまわりながらチラッと見えた窓の外が光り輝いていた。
その光を見たことで更に苦しさが増して、まるで体がそれから逃れるように意識が途絶えた。
意識を取り戻したのはそこから一時間後だった。
起き上がる少しだるい、だがそれ以上に自分も周りも吐瀉物でまみれているようなひどい有様だった。
だいぶ掃除が面倒そうだがとりあえずシャワー浴びるか…
風呂場に移動して服を脱ごうとしたが何故か脱ぎにくい。
数分格闘してようやくTシャツが脱げた時、その理由がわかって立ち尽くすしかなかった。
あまりに自然で脱ぐ時は気付かなかったが、右腕から胸にかけて植物のような質感で若干肥大化していたのだ。
なんだこれ…さっきのはこいつが…?
とりあえずまじまじと眺める、どこからどう見ても植物にしか見えないが一箇所だけ金属らしきものがあった。
引っ張ってみるとそれは何かの線のようなもので、しかもなんかすごい見覚えがある形をしている。
「…まさか」
数回転びつつ滑る床を走りながらリビングに置いてきたパソコンの前に移動してUSBポートにさっきの線を差してみると思った通りピッタリだった。
それと同時に意識が宇宙に溶け、情報の洪水の中で揉まれている感覚、ようやく何かを掴めて一息つくことができた。
今の…知っているところもあった…もしかしてネットか…?
俺の体はどうなった
とにかく疲れたような感覚でO2ここで横になることにした。
横になったことで視点が上となり、そこには見覚えのあるタイトルが虚空に浮かんでいた。
「バスターハンター2-ケイオス-…これ、スタート画面か?」
久しぶりに見たなこのロゴも…好きだったなぁこれ…
バスターハンターシリーズ、PC用ゲームシリーズでとある惑星に移民した人類がその星に住んでいる原生生物を撃退したり倒したりして自分の装備や街を発展させるゲームだ。
どハマリしてプレイ時間カンストはもちろん街最大レベル(これが結構面倒)、全装備フル強化コンプとO2自身が自分でちょっと引くほど、学生時代をつぎ込んでとにかくやりこんでいたタイトルだ。
やっぱ2だよなぁ!
〘来て!それを使って!〙
O2が感傷に浸っていると聞き覚えのある声が頭の中に響く、ついに幻聴まで聞こえだしたか。
「ホノカか…?」
『それ』を使って…来い?
まさか…これで直接コアタワーのネットワークに行けるのか?
少し悩んでやってみることにした、恐怖より好奇心が勝ったのだ。
しかしやり方がよくわからない、とりあえず念じてみることにした。
固く目を閉じて行けと強く願う、少しして体が浮くような感覚がして目を開けると自分の部屋に立っていた。
「…歩いて行けってか!?」
仕方ないのでドアに向かって反転すると目に飛び込んだのは他でもないO2自身ががPCにもたれかかってぐったりと倒れている光景だった。
状況が理解できない、とりあえず自分の体を触って感触を確かめる。
感じたのは生身の感覚じゃない、どっちかといえば金属のそれだった。
急いで洗面台に駆け込んで鏡を見るとなにかの鎧を着込んでいる自分自身が映った。
「これ………レッドロードか?」
レッドロード、バスターハンターシリーズに出てくる対原生生物用殲滅機兵のロードシリーズ、それの総司令機の名前だ。
おっそろしく入手条件の厳しい特典装備だが(街レベルマックスと全種討伐と…あとなんだっけ?忘れた)それに見合った強さであのゲームの最終装備と言えるものだ。
もちろん、俺もこいつはゲットして愛用していた。
「すっげぇ面白そう…」
かつての愛用装備との再開になんだかすごくテンションが上がって外に出る、このまま走っていこうかとも思ったがそういえばこの装備はゲーム中で飛べることを思い出した。
「えっと……確か名前は……そうだ!アンチグラビティ、発動!」
手のひらを地面に向けながらそう言うとO2の体がみるみる浮いていった。
「よし………いくぞ!」
体をコアタワーの方に向けるとO2は勢いよくその方向に飛び始めた。