9 案内人
どうやら俺が手に入れた妄想者という固有スキルは自分が頭の中に描いた妄想を具現化できるらしい。
これは正直いって無敵じゃないだろうか。
「迅君はどんなスキルだった? 僕はね......」
「佑ちゃんすまない。ちょっとこれは一人一人にとって大事な情報だと思うから胸にしまっておかないか」
俺は自分の固有スキルが周りに伝わることを恐れた。
もしバレたとすれば、万が1いや億が1にもこんなことが起こることはないだろうが、もしかすると今一緒にいるメンバーが危険だと判断して自分のことを攻撃をしてくるかもしれない。それは避けたい。後織本あたりに便利に使われそうで怖い......。
まあないとは思うのだが。
「またまたそんなこと言っちゃって。 何か隠したい理由があるんでござるか? まさかハズレスキルが恥ずかしくて言えないとかでござるか!? それなら気を遣ってしまうでござる。なんせ拙者は大当たりでござるからねイヒヒ」
「俺もいうのはパスだな。俺たち同士で争わないといけない場面が来るかもしれないからな。 スキルに関しては隠させてもらうぜ」
「じゃあ私もー。みんなの気になるけど我慢する。後でこっそり教えたい人は教えてくれてもいいからね?」
笹山はそう言いながら上目遣いで男性陣を睨め付けた。
うーんやっぱりかわいい。でもこれはいわゆるハニートラップというやつだ。気をつけなければ。
「ところでこの目標ってやつ気にならないか? ポッチっと」
俺は自分達の目的が気になったことから何のけなしに目的と書かれた場所をタッチする。
するとそこには、
『目標1:捕らえられた人々の解放
目標2:リーダー格である一角鬼の討伐
以上の目標を達成できた時点でこの世界はクリアとする」
そう書かれた文章が浮かび上がってきた。
いよいよ本格的な異世界転生のにおいが強くなってきた。目標があってそれを達成するために努力し達成していくなんて最高の王道展開ではないか。俺は考えただけでワクワクした。
「まあとりあえず鬼を探さないとだな。俺は俺なりに好きにやらせてもらうぜ」
そういうと織本は歩き出してしまった。
こちらから顔を外し、歩き出す時に一瞬だけ見えた織本の表情はとても笑顔であった。これは相当当たりだと思えるスキルが手に入ったと思ったといいだろう。
「僕たちもいく......? なんか織本君たち行っちゃたし」
「そうでござるね。今色々とステータス画面を操作してみて自分達がどうすればいいかわかったでござるからね。まずは適当に動いてみようか」
「流石山田くん! 性格あんまり良くないけどやっぱりすごいね!!」
「最後の言葉は余計でござるよ佑殿」
なんだかんだ2人は仲がいいようだ。
「とりあえず聞き込みをすることが大事そうだな。面倒くさいがいくか」
俺の言葉に2人が同意し歩き始めた。
俺も色々とステータス画面をいじってわかったが、補助という項目がある。そこをタッチすると目標を達成するためにどんな行動をすればいいかアドバイスが書いてある。
アキュロスはとんでもなくヤバいそうだったから厳しい異世界生活になると思ったがいまの所優しい方ではないだろうか。
「すいませーんでござる。 少々伺いたい事があるのでござるが」
補助機能に従い俺たちはここに来るといいと書かれていた住宅に向い話を聞くことにした。トントン。ノックをするが誰も出てこない。おかしい。誰かがいる気配がしたんだが。
「開けるでござるよ? ガラガラ」
「我が剣よ火を纏え『火装!』 死にやがれ!!!!」
そう言いながら赤い髪をした女性が天井から降ってきた。手元を見ると発火している剣を手に持っている。まさか会話もせずにいきなり斬りかかられるとは。まあ万が一俺の方に攻撃が飛んできたとしてもなんとか出来るだろうが。
「うーん危ないでござるよ。ひょい。」
そう言ったかと思うと最前列で斬られかかっていた山田が相手の持っていた剣をへし折った。絶対に熱いであろう物を素手で掴みながら。
「お、おいマジかよ!! ちっくしょおおお!!! こうなったら素手でやってやる。うおおお!!」
好戦的な女はなおも諦めず山田に襲い掛かる。
山田嫌われすぎだろ。
ただ、パンチ・キックなど色々山田に仕掛けようとするが当たらない。すんでのところで山田が受けるか避けている。流石武道経験者はレベルが違うな。
「もう辞めなさい! シュカ! この人たちにあなたが叶うわけないでしょう」
「ッチ...... やっぱ異世界人ってのは反則だぜ。」
少女が皮肉ったかと思うと木の樽に隠れていたであろう初老のお爺さんが現れた」
「ようこそお越しくださいました。私がこの世界の案内人の
ロゼフといいます。」
そう言って現れた男性の老人は先ほどあった老婆とは違い生気に満ち、分かりやすいほどの強さを感じさせるオーラを発していた。