7 鬼の世界へようこそ
そこは教科書で見たことあるような世界が広がっていた。
木でできた住居が立ち並び、所々に見える人は木を背中に担ぎ運んでいたり屋台のような物を立てて商売をしている人間たちがいる。
「ここはどこだ? 俺もあんまり歴史に詳しくないからわからないが戦国時代ぐらいか」
「うーん、確かにわからないね。山田くんはわかる?」
「わからないでござる。勉強は拙者も苦手てござりしたからね。イヒヒ」
どうやら3人ともこの景観を見てどの時代に近いかは当てることはできないらしい。まあ勉強ができないもの同士で集まっているのだから仕方がないっちゃ仕方がない。先祖が武士の山田は分かれよとは思ったが。
まあわかったところで先程自分達の常識ではかけ離れたことが目の前で起きたんだ。どうせこれも過去のタイムスリップではなく、何かしらやばい異世界であることは間違い無いだろう。
「お兄さんたち珍しい服を着ているねひょっとして異世界人かい?」
そう声をかけてきたのは初老の老婆だった。目には生気はなくいかにも後少しで人生を終える空気を漂わせていた。
「ええ......。そうなんです。僕たちが異世界の人だってわかるんですか?」
「もちろんわかりますとも。以前もそのような服装を着られていた方をお見かけしたことがありますからね」
そういって老婆は最大限こちらに慈愛のこもった微笑みを受けた。
どうやら異世界転生されているのは俺達だけじゃないらしい。自分達だけだと特別感を感じていた俺は、少し寂しい気持ちになった。
「それってどんな人でしたか? もしかしたら僕たちの知り合いかもしれないので...」
佑ちゃんが人見知りな部分を押し殺して質問する。
自分も何か役に立たなければ自分の世界に帰れないことをよくわかっているのだろう。
「うーん、どんな外見でしたかね? なんせ出会ったのは何年も前の話。私ももう年ですから具体的な姿形は覚えておりません。ただ、あのもの達のおかげで我々の平和が一時期保たれていたことは事実です。」
記憶を辿り昔を懐かしみながら老婆を感謝の言葉をしみじみと口にだした。
「迅くん......これって昔僕たちよりも先に来た人達が鬼を倒してるってことだよね?」
「ああ、そうかもしれない。もう少し話を聞いてみよう」
俺は老婆の話からこの世界を攻略するための糸口を掴むため会話を続ける。あちらから声をかけてきたということは何か有益な話があるからこそのはず。そう頭の中で妄想した俺は異世界無双という理想の未来を手に入れるために質問をする。
「それって、もしかして僕たちに似たような人たちが鬼を退治したってことなんですかね?」
「そうそう。よく知ってるね。あの頃は本当に助かったよ。
それが今では......」
「いやああああああ!!!」
老婆が話し終えるよりも先に若い女の心の底から恐怖に染まり上がったような声が街の中を駆け巡った。
「あ、あ.......あああ。鬼がまた山から降りてきたんじゃ。お前さん達どうか私たちを守ってくれ。この世界はどれだけわしらみたいなもんが足掻こうともどうすることもできんのじゃから!」
その言葉を俺たち3人に残した後先程まで親切に会話をしてくれた老婆は顔色を変えて急いで立ち去ってしまった。どうやら本当にやばい状況らしい。
「ねえ迅くんこれって絶対鬼だよね......僕怖いよ」
ゆうちゃんはカタカタと震え怯えていた。それはそうだろう。今まで自分達が怯えていたのは学校の少しやんちゃなクラスメイト。そこから恐れる対象が人を襲う鬼に切り替わってしまったんだ。無理はないだろう。
「面白そうでござる。拙者は異世界無双モテモテハーレム主人公になるチャンスを逃すほど臆病ではないでござるよ!」
その言葉を言い残した瞬間、山田は声が聞こえた方向へ全速力で駆け出した。なんという好奇心と下心だ。ある意味山田に感心すると同時に俺は尊敬の念をすこし抱いた。
「俺たちも行こう佑ちゃん。俺たちの中で今唯一武力があるのは山田だけだ。ここではぐれるのはまずい」
「う.....わかったよ迅くん。僕も覚悟を決めるよ。それに僕達は転生してきたんだもん! 鬼なんかに負けるわけない」
そう自分を鼓舞したかと思うと侑ちゃんも走り出した。