4さようなら同級生
「し、死んだのか俺は......」
目を開けると真っ暗で何も見えない空間にいる事に気づく。
辺りを見渡しても暗闇しか視界に入らず何も情報は手に入らない。
もしこれが死後の世界だとしたら間違いなく地獄だろう。
ボーっと妄想をしながらダラダラと学校生活を送り、最終的にはイカれたクラスメイトに殺される。
「全く笑えない人生だ」
あまりの虚しさにため息が止まらなかった。
「う、うん......ここどこ? 誰かいるの?」
「おおお! 佑ちゃんか! もしそうだったら返事をしてくれ!」
佑ちゃんの眠たそうな声が自分の近くで聞こえた。
俺は聞き馴染みのある声が聞こえたことで天使が舞い降りたのかと思うほど安心した。
「ここはどこ? 迅くんなにか知ってる? てか僕たち殺されたんだよね? 何で殺されたんだろ? 僕まだ死にたくなかったのに......」
状況を飲み込めたと同時に先ほどまでの記憶が蘇ってきたのだろう。姿形は暗くて見えないが、混乱し涙を堪えているのは想像できてしまう。
「わからない。俺も今目が覚めた所でさっぱりなんだ。
他に誰かいないのかー?」
佑ちゃんがいたので他にも誰か一緒にいないか少し声を張って確認してみる。
「拙者もいるでござるよー。僕たち仲がいいから一緒の地獄に神様が送ってくれたのかな、イヒヒ」
山田だ。この声と独特の話し方は山田で間違い無いだろう。
「不謹慎なことを言うなよ山田。第一俺たちは何も地獄に落ちるようなことはしてないだろう?」
「それはそうでござる。地獄に落ちるとしたら拙者たちを屋上に呼び寄せたカスと突き飛ばしたサイコ野郎だけで十分である。イヒヒ」
山田はこんな状況でも冷静なのか口がよく回る。全く大したやつだよお前は。普段ならこの話し方も勘に触るが今はとても頼もしく感じる。
「んだよ......うるせえな。何だこの暗い場所は!おい誰かいるなら返事しろ!」
どうやら織本もきているらしい。
「修哉ちょっと静かにしてくれよ。びっくりするだろ」
「本当あんたって昔から子供っぽいんだから。もうちょっと大人しくできない」
遠くの方でも声が少し聞こえる。控えめに修哉に自己主張をしていることから片一方は、川島だろう。
そして、遠慮なく修哉に対して意見を投げている女という所からこっちは笹山で間違いないな。
「ああ、クズたちもくっついてきたでござるか。」
「おい誰だ今俺たちのことクズって言ったやつ! てか山田だろ!お前なんか知ってるなら話しやがれや!」
「五月蝿いでござるな〜。拙者も分からないんでござるよ。悔しいけれどね」
「ちっ...... 使えねえやつだぜ」
修哉がぼやく。おそらく今ここにいる全員死んでいるだろうが、仲の悪さと言うか最悪の仲である事は間違いない。
「おいでも修哉。これって死んでるじゃない? 俺たち学校の屋上から突き落とされたし」
「その通り!!!!!!!!」
「何の声だ!?」
一斉に全員が声の主を探す。ただ暗くて音の発生源は誰も把握できない。声のキーの高さから辛うじて女性の声だと言うことだけ知ることができた。
「ごめんごめん。びっくりさせちゃったよね? まあそれぐらいの方が盛り上がっていいよね! うん!それで間違いない!」
一人で疑問を提示し、その疑問を一人で解決してしまった異常な女がいる。そんな変な状況にあまりにも驚き過ぎて誰も声を上げられない。
「おいお前誰なんだよ! 俺たち今どこにいるんだ!」
修哉が勢いよくいきなり現れた声の主に吠える。
流石はクラスのリーダー。肝の座り方が違う。
普通は怖くて声も出せないはずだ。
「うんうん当然の疑問だよ。もし私があなたたちの立場だったらもう何が何だか分からなくておかしくなってるかもしれないわ。でも大丈夫全部説明するから!」
「まず私が誰なのか? ざっくり言うと神様です! 厳密に言うと違うけど。まあややこしいから君達でいう神様って事で!」
「は?」
全員の口から同じ疑問の声が出た。
どうやら神様が俺たちに話しかけてくれているらしい。本当にそうだとしたら少し明るすぎる気がするなと能天気なことを思った。もっと威厳のある感じだと思った。
まあこんな意味のわからない空間に連れてこられている時点で信じてしまうが。
「修哉神様だってよ? なんか頭のおかしい女がいるぜ。本当なんだよこれ夢なら覚めて欲しいわ。もう帰らせろよ。どうせドッキリかなんかなんだろ?」
川島が今目の前で起こっていることが信じられずパニックになっているようだ。表情は見えなくても声色である程度推察することはできる。
「大体さー学生の俺たちを拉致とかしちゃって言いわけ? いや絶対だめでしょ? ねえ本当これ終わったら訴えようぜ修哉。裁判して勝ったらその金で遊びまくろう!」
早口で捲し立てるように川島は言い放った。
「ごめん川島くんだっけ? そうだよねいきなりそんなこと言われても信じられないよね。じゃあ今から君に分かりやすく教えてあげるね」
「火の精霊よ。彼の者を燃やし尽くせ。火弾」
さっきまでのおちゃらけた雰囲気とは打って変わり神妙な声で神と名乗る存在は何かを呟いた。
「バン!!」
「う、うああおおおおおいいいああ!!」
暗かった部屋の中が一瞬明るくなった。それはなぜか?
赤色の何かが光ったかと思うと川島にその赤い球が直撃した。そして、その瞬間川島が燃やされながら苦痛の表情を浮かべた瞬間一瞬でチリになったからだ。
それはもうあまりにも火の勢いが強く、山田は燃えているというよりも存在自体が炎と一緒に消えたのではないかと錯覚するほどに感じた。
「......」
そんなことを考えていると、立ち込めていた火は消え、再び暗闇に舞い戻った。誰も話さない。
「もし他にも信じられない人がいたら何でも言ってね! お姉さんが分かりやすく教えてあげるから」
そうして、川島の死と引き換えに全員がとんでもない場所にいることを理解するのだった。