23決着
こいつはやばい。僕は多分元々与えられていた肉体の頑丈さがなければ今の一撃で頭がとれていたと思う。殴られた頬はいまだにズキズキと痛み、自分の集中力を奪う。目の前の敵に意識を向けなければいけないが、痛みと命の危険からくる焦りが冷静な判断能力を奪う。
「君こっちきてどれくらいー? まだこっちきてそんな長くないー?」
鬼が友達のように話しかけてくる。
「最近来たばかりだよ。学校の同級生に殺されたからね」
「同級生? 仲良い奴に殺されたってことね。それは災難だったね」
あの時僕たちは蔵本くんに突き飛ばされてこの世界に飛ばされた。彼と僕に特に接点はなかった。
基本的に彼は織本くんたち以外とは喋らず、自分から積極的に他者とのコミュニケーションを図るようにも見えなかった。唯一黒音さんとは打ち解けて話していたようにも見えたたけど。まあそんなことは今考えても仕方がないか。
「同情してくれるなら僕を見逃してくれる?」
「それはできないよ。俺も仕事だからさ。早く君を連れて帰らないと俺が怒られちゃう。だからもう抵抗は辞めてくれる? 君じゃ僕には勝てないよ」
「......やだよ。まだ僕はまだ死ねないんだ」
確かにこの鬼の言う通りだ。全く勝てる気は自分でもしない。でも死ぬのはごめんだ。まだ自分の事を生きててよかったって思えていない。誰かの役に立つ前に死ぬのは嫌だ。
「あっそ。じゃあ続きをはじめよっか」
「こい!」
僕は決意を固めもう一度強く刀を握る。それに応えるかのように紫の光がまた強く輝き始める。
僕は鬼が動くよりも前に体を前に進めた。刀を上から下に振り下ろす。だが当然のように鬼も避ける。振り下ろした刀を今度は横に全力で振る。だがそれも当たらない。
「遅いねー」
そう言いながら刀を振り切った後を鬼がすかさず2発連続で僕の脇腹を棍棒で叩く。やはり凄まじい衝撃だ。だが先ほどよりは慣れてきた。僕は必死に歯を食いしばりもう一撃刀を振る。
「入った!」
「今のはよかったねー。ちょっとかすっちゃった」
いててと言いながら掠めた頬を鬼がさする。傷は浅いが、鬼の頬は僕の属性で紫色に少し光った。属性は流し込めている。鬼は余裕の表情を浮かべながらまたこちらに向かってくる。
「くっそー。上手くあいつに攻撃が当たらない。当たってもどうしても致命傷までいけない......いやまてよ、これならやつに的確に攻撃を与えられるかもしれない」
僕はある一つの仮説を立てる。僕の属性は磁力。磁力にはS極とN曲がある。そしてやつには僕が流し込んだ属性の磁力が残っているはず。もしそうなら、僕の磁性をあいつと反対のものにしてこちらに引きつけることもできるのではないか。
必死に刀を振り鬼の攻撃をもらいながらも頭を回転させる。
「迅くんは言っていた。イメージしたらできたって。僕もイメージするんだ。この刀にあの鬼を惹きつける力がある事を。」
僕はより正確にイメージをする。学校で習った磁力の授業では赤と青の磁石を2つ使いそれぞれをくっつける事で引き付ける力と引き離す力について学んだ。僕は自分の磁性を青として、鬼につけた磁性を赤と強くイメージする。
「いける! こい!」
「ん? なんだ?」
僕が叫び声を上げたと同時に鬼の軽やかな体運びのリズムは崩れる。そして微力ではあるがやつをこちらに近づけることができた。
そして僕は徐々に近づいてくる鬼に合わせて不恰好ながら全力でタメを作り振り回すように横に刀を振った。先程までは全く当たらなかった刀が不意打ちのように鬼を引き寄せ鬼の体を深々と抉り切る。
「喰らえ、名付けて磁界引圧斬!」
「な、なに! 油断しちゃったなー」
そう言ったかと思うと大量に鬼の体から血のようなものが大量に吹き出した。血がどんどんと流れていく様は命が徐々に溢れていくようにも見えた。
「い、今のはよかった。じ、自分の......属性を活かしたいい攻撃だった。見くびってたよ。俺も最初から真面目にやって......いれ、ば......」
徐々に上手く話せないようになり鬼の命はゆっくりと消えた。目を瞑り地面に体を伏せている。
「か、勝った......。本当に僕が勝ったんだ! やったやったー! 僕本当に才能あったんだー! 嬉しいー! めっちゃ怖かったけど本当に良かった…」
僕は喜びと安堵の感情がごちゃ混ぜになり不思議な気分になったがひとまずは勝利の余韻に浸ることにした。




