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様々な異世界をご体験下さい  作者: れんこん
2/27

2みんなで死のう

 織本 修哉を含めた5人組に呼び出された。俺と佑ちゃんと山田の3人。佑ちゃんはこれから先起こるであろう未来に怯えている。それとは対照的に山田はどこかワクワクしているように見える。なんでなんだ......


 ちなみに俺はというともう既に暗い気持ちになっている。理由は、自慢ではないが自分は想像力豊かだ。この後の展開が容易に想像できる。

まず恐らく5人共山田が気に入らないのだろう。クラスを仕切っている自分達に山田という制御できない異分子が混じってことに耐えられない。そんな所だと思う。


 そして、屋上についた俺たちは口論になり揉み合いになる。山田は剣道を始め色んな格闘技を齧っているからまあなんとかなるはず。ただ、俺と佑ちゃんに関しては全く抵抗する術がないz恐らく怪我をすることは避けられないはずだ。


「迅くん怖いね。山田くんがなんとかしてくれるかな? 僕怖がらなくてもいいんだよね?」


「いや、5対1でもし揉み合いになったら山田はこっちまで手が回らない。何かしら痛い思いをすることは覚悟しておいた方がいいだろう」


「そ、そうだよね......」


 佑ちゃんは希望を砕かれたかのような暗い表情を浮かべる。俺もおんなじ気持ちだよ。


「まあ任せておけよ2人とも! 君たちも知っているだろう? 僕が格闘技をやっていて強いっていうことを。 ラノベの主人公のように悪人どもをバッタバッタと成敗してあげるから待っていればよいのでござる! イヒヒ」


 発言はカッコいいのだが笑い声がキモい。それにでかい声でそんな事を言うから俺たちが逃げないように前と後ろで囲んでいる5人の顔が心なしか険しくなっている気がする。

 ああもう最悪だ。


 ガチャ。屋上のドアを開けると春らしい涼やかな風が吹いていた。この春特有の気持ちのいい匂いは嫌いではない。まあ今から起こるであろう事を考えるとそんな余韻には浸れないが。


「おいお前山田。なんで俺たちが屋上に呼んだかわかるか?」


「僕のことが気に入らないからであろう? だから姑息にも5人で屋上まで来た。本当素晴らしい恥知らずだよ。イヒヒ」


 織本の顔に青筋が立ったのが見えるくらい苛ついていることが分かる。


「ねえ修哉頼むよ。こんなオタクみたいなやつにでかい顔されたらうちらの面子丸潰れだよ」


「分かってる。だからこうしてここまで来たんだろ?」


 5人のうちの1人笹山愛香が声を発した。この笹山に対する俺の印象はまあ一言で言うとギャルだ。派手なメイクに身を包み自らの立場が絶対的な物だと信じている女王様。顔は可愛いが性格を足すとギリギリ怖いが勝つだろう。


「おい修哉、早くやっちまえよ。この後みんなでゲーセン行くって言ってたじゃねえか。お前も早くゲーセンで遊びてえよな十馬」


「そうだね」


 今元気よく修哉に話しかけたのは、川島 琢磨。こいつの印象ははっきり言って腰巾着。修哉の威光を借りる狐といった印象だ。この5人の中だとこいつが一番印象が良くない」


 そして、その問いかけに短い言葉で応じたのは蔵山 十馬と言う男だ。こいつはとにかく謎だ。クラスの中心グループにいながらあまり情報は入ってこない。なんなら喋っている所をあんまり見たことないぐらいだ。はっきりいって不気味な奴だ。


「まあ山田よ。早え話がお前が嫌いなんだ。だから大人しくボコられてくれよな!」


 そういった矢先にいきなり織本が鋭い蹴りを放つ。サッカー部に所属している織本の蹴りは重く鋭い。もし自分が蹴られたかと思うと身震いするぐらいだ。


 いきなりの蹴りでクリーンヒットかと思ったが、


「いきなり蹴るなんて卑怯でござる。喧嘩は正々堂々とが僕のポリシーなんだよ単細胞くん」


 そんな余裕の言葉を吐きながら織本の蹴りを交わした山田はお返しと言った感じでガラ空きの織本の脇腹に蹴りを返す。


「うぐっ.....この野郎!」


 懲りずに殴りかかる織本。ガタイも良く恐らく身長も山田より10cm以上高い織本だが正直まるで山田に歯が立っていない。

 織本が攻撃し、それをいなして山田がカウンターを入れると言う時間が続く。



「おい琢磨、十馬お前らも手伝えよこの野郎! 黒音の奴は先生が来ねえか見張ってろ! ちゃんとしねえとまたやっちまうぞ」


「......」


黒音も十馬と同じ静かな女の子だ。黒い髪でショートカットで伏せ目がちの女の子。気の弱い女の子という外見だが、なぜ織本と一緒にいるのかと思っていたが、立場としてはいじめっ子のおもちゃとして一緒にいるような感じか。


 十馬と琢磨が修哉のサポートをするために無言で間に入る。


「くっ......3人がかりとは卑怯な。お主らは本当に最低でござるな」


 流石の山田も3人相手はきついらしい。徐々に形成が逆転され壁際に追い詰められていく。頭を蹴られ腹にボディが入り着実に山田が削られていく。



「迅くん山田くんやばいよ。助けないと本当に死んじゃう!」


「おっとお前ら2人は大人しくしろよ。邪魔したらマジで殺すから」


「ひいいいい....」


 佑ちゃんの口から恐怖が滲み出たため息が出る。先ほどまでは助けないといけないと言う勇気に駆られていたようだが今の問答で心が折れてしまったらしい。まあそれは無理はない。だって怖いもんね。


「おい山田。土下座して謝るなら許してやる。頭を地面に擦り付けて許してください織本様って言ったらな。まあ明日からお前は俺の奴隷だけどなっ!」


「はっはははは!!」


 ゲスイ笑い声が屋上でこだまする。


「お前らみたいなクズに土下座するくらいなら死んだ方がマシでござる。早くその小さな脳みそで自分の頭の悪さを自覚するでござる。イヒヒ」


 そういって最大限の侮蔑を込めた笑いを返すと修哉と琢磨の顔は怒りで震え赤色に染まっていく。十馬に関しては表情は変わっていないが。


「じゃあ望み通り殺してやる!


 修哉が思い切り蹴りを放つ。すでに満身創痍だった山田は受けきれず鉄格子まで飛ばされる。


「おっととこれはまずい落ちるでござる。死ぬかもでござる...!!!」


 そう言いながら山田は壁から落ちそうになる。


「まずい、山田捕まれ!」


 俺は反射的に体が動いていた。山田を助けたいと言うよりも誰かが死ぬのを見過ごした自分を嫌いなりたくないと言う心理からだろう。情けないがそんな動機だ。


 パシっと俺と山田の手が繋がり屋上で落下寸前の山田をなんとか食い止める。間に合ってよかった。


「おいやべえぞ修哉。お前後一歩で人殺しになるとこだったぞ」


「うるせえよ」


 そっけいない態度をとる修哉だが振り返り姿を確認すると脂汗をかいていることが窺える。流石に自分が人を殺していたかもしれないと想像して焦りはしたのだろう。


「迅くん僕も手伝うよ!」


 佑ちゃんが手を伸ばし山田の手を掴む。


「ありがとう2人とも。持つべき物は本当の友でござる。」


 山田が感極まって泣きそうになっている。どうやらこちらが思っているよりも友情を感じてくれていたらしい。俺はそんな山田を見て少し申し訳ない気持ちになった。


 なんとか2人でも引っ張り上げることはできそうだ。俺と佑ちゃんは全力で力を込める。



 琢磨と愛香とそして修哉も俺たちが心配だったのだろう。俺たちに近づき本当にオチやしないか心配そうに山田見ている。心配なら最初からこんなことするなよ。


 そんな中まさかの事態が起きた。


「あ、おいなんでだ?」


「え、浮いてる?」


「私も浮いてるわ 何これ」


 呆けた顔をしたまま修哉と琢磨と愛香が屋上から落ちていった。


「バン!」


 人が下に叩きつけられるおぞましい音が耳に入る。

 ああなんだこれは何が起きたんだ。


「恐る恐る山田を引っ張りながら後ろを振り返ると満面の笑みを浮かべ3人を押したであろう十馬がいた。


「これで3人は殺せた。復讐は達成だ。まあでも3人だけであの世に行くのは可哀想だし君たちもついでに一緒に行こう。ごめんね」


 そう軽やかに言い放った十馬は山田の手を握っていた俺と佑ちゃんを蹴り飛ばす。

 最初に予想していた怪我をするというオチは外れていた。


現実はさらに酷く自分は今から屋上から落ち死ぬ。あまりにも突然すぎて恐怖を抱く時間がないからこそ頭が冷静でこんなことを考えるのだろうか。

 屋上から落ちる自分。人生の中で1番の危機に瀕しているが流れてくる走馬灯は大した物はない。特に死にたくないと強烈には思えなかった。


 もしかすると死んでもよかったのか? 

 いやせめて後悔を嘆くなら、女子と喋りたかった。なんかデートとかしてみたかった。


 そんな死の間際にくだらない事を考えながら俺と佑ちゃん山田は猛スピードで屋上下の地面に向かっていく。


俺はあまりにも突然のことで落下してから地面に落ちるまでの数秒間佑ちゃんと山田の顔を見た。

 佑ちゃんはもうびっくりしすぎて空いた口がふさがらないといった感じだ。

 山田はどこかワクワクしているように見える。最後までらしい奴だ。


「バン!」


 本日2回目の人間が叩きつけられる音が響く。

 あー痛い、やっぱ無理だ。これは耐えられない。

激突した瞬間自分のみに起きたことをようやく自覚できた。全身の骨にヒビが入り体を動かそうとしても力が入らない。めもいもとまらず、どんどん意識を保てなくなってきた。


そんな中先程自分たちが先程までいた屋上から声がした。


「ああこれで僕は5人の人間を殺害した犯罪者だ。未成年だから死刑にはならないだろうが、今後の事を考えるとまともな人生を歩む事は不可能かな。やっぱり元々決めてた通り死ぬことにするよ。 黒音はどうする? 俺と一緒に死ぬ?」


「うん。もちろん」


 そう言って2人は一緒に死ねる喜びを噛み締めるかのように手を繋ぎながら屋上をジャンプした。まるでこれで満足だと言わんばかりに。


「バン!」


 そうして、本日3度目の人間が打ちつけられる音が響いた。その瞬間俺の意識も事切れた......。




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