14 中級魔法
結局散々シュカに対してごねてみたが、結論は覆ることはなかった。つまり俺たちはもう一度3時間くらいかけてロゼフさんのいた場所に一旦戻るのである。あたりはすでに夕方だ。帰る頃には陽が沈んでいるだろう。
(辛すぎて涙が出そうだ......)
正直かなり行き道の道中はしんどかった。足が痛いまま歩き続けなければいけなかったり木を退けながら歩かなければいけなかったりと辛いことが沢山あった。
「くうううううう。こっからまた3時間以上かけて下山なんて鬼畜でござるね。でも拙者は良いでござるよ! なんか高い壁を乗り越えた時の感覚ってクセになるからでござるし! 」
そう言って山田は一目散に走り出した。おいおいお前は道を覚えているのか。3時間以上シュカに先導され歩いてきたが俺はただただ後ろに着いてきていたため戻り方を知らない。
だが山田は人がそんなことを考えているとは露知らずさっさと下山を開始してしまった。もう姿は見えない。なんて突発的なやつなんだ......
「おいシュカ。何か近道はないのか。正直もう足腰が結構きつい。ここからの下山となると考えたくもないんだが、やっぱりもう一回歩いて降りる感じなのか?」
「もちろんだぜ。てかお前らもあの気持ちの悪いやつみたいに走ってくれりゃ楽なんだがな。まあいい。 まだここにきて日が浅いお前たちだ。多少は多めに見てやるよ。 さ! いくぞ!」
シュカが元気よく掛け声を放ち歩き出す。そんなシュカに触発され仕方がなく俺も歩みを進め始めた。
「ごめん僕もう疲れた。鬼とかもうどうでもいい。ここに残るよ。下山する体力なんか残ってないし。もう僕は落ちこぼれなんだ。ほっといてくれどうせ僕なんかが頑張った所でどうしようもないよ」
よっぽど先程起こったことがきつかったらしい。顔からは生気が失せ、項垂れてしまっている。こんな佑ちゃんは正直現実世界でも見たことがない。まあ生きていてここまで怖い目に遭うこともないだろうから当然か。
「ちっ! んだよお前は一番情けねえやつだな。 しゃあねえ。お前はさっき自分がヒーローになれないと言ったがそれは違うぞ」
「なれっこないよ。 シュカさんも見てたでしょ。 僕の体力の無さに根性の無さ。こんな人間が誰かを救ったり誰かの役に立つなんてとても無理な話だったんだよ」
「まあ見とけ。まずこの世界では属性という概念が存在していてな。それを決めるのがこの世に存在するどの精霊に好かれるかってことだ。慣れれば精霊の名を呼ばなくても力を行使できる。見た方が早いな。」
シュカはそう言ったかと思うと抱えていた剣を下山方向に向けた。そして、目を瞑り何かに意識を向けているように見える。それも凄まじい集中力だ。
しばらくするとシュカの周りに赤いオーラーのようなものが出だした。それは次第に赤黒くなりこちらを圧迫するかのような存在感を放ち出しドンドン大きくなっていく。
「剣よ火を纏え、火装!」
シュカがにぎり占めていた剣が屋敷で見た時の数倍以上に紅く染まりあがり、火の象徴のように明るく輝き周りの山を火の光で照らしている。
(なんて熱さだ。数時間前に山田に対して斬りかかっていた時に纏っていたものとは比にならないな)
俺は凄まじいオーラと気迫でシュカに圧倒されていた。初めは小さくて気の強いだけの少し強い程度の女の子だと思っていた。だが違う。この世界でまだ沢山の戦いを観たわけじゃないがこの子は強い部類に絶対入るはずだ。
「我が道に立ち塞がる障害を悉く燃やし尽くせ 炎火道!」
その言葉を言い切ると同時にシュカが持っていた剣を振り下ろした。すると、剣に込められていた大量の熱エネルギーが爆ぜ地面に触れた瞬間、今俺たちがいる場所から丁度山の麓辺りまで燃やし尽くした。
火に触れた木や草、そして岩までもが溶解し、まるで一本の道を作ったようだった。
(す、すごすぎる......)
俺はあまりの衝撃に正直鳥肌が立ってしまった。そしてそれと同時に本当に自分たちはファンタジーの世界に 迷い込んでいるんだということを改めて実感させられた。
「よし! これで一本の道ができた! これが精霊に力を借りるための詠唱。これをすることにより技の強化、そして魔力の消耗を減らせる。
さ!帰りは木、草、虫! そしてもし鬼とかがいたとしても死んでるだろうから楽に帰れるぞ! やったな。」
ウィンクをしながら俺たちに最大級の笑顔で微笑みかけた。髪が赤くて気の強いという少し特殊な女性だからそういうことを一切考えてはいなかったが今のは少しクラっと来てしまった俺はまともにシュカの顔を見ることができなかった。
「それと佑とかいうやつ! お前らはこの世界に飛ばされた時点で私らなんかよりも良い才能貰ってんだ! だからこんなことはすぐにできるようになるぜ。だから元気出せよ。」
シュカが佑ちゃんを諭すように思いを伝えた。子供っぽいイメージが強かったが意外と姉御肌な部分もあるらしい。俺は感心しながらシュカには逆らわないことを決意した。
「本当に......? 僕にもこんな凄いことができるようになるの......?」
「ああ、本当だ。だから自信を持て」
「......2人とも何度もごめん。僕もうちょっとだけ頑張るよ。 だからさっきの言葉は撤回させて欲しい! 一緒に僕も連れてって」
「もちろんだ佑ちゃん」
「フンっ! 最初からそうしてりゃ良い。」
照れを隠すかのように行きと同じようにシュカが下山を始めた。こいつは間違いない。俺たちの世界でいうツンデレだな......
佑ちゃんの心をもう一度奮起させることができた俺たちはもう一度下山することを決意した。
あるものは村を守るため。あるものはすごい必殺技を身につけるため。あるものは誰かに必要とされるため。
そうして俺たちは一度鬼たちの山から離脱し、学舎という鬼狩を倒す方法について学べる場所で鬼との戦いをマスターすることになった。
「我が道に立ち塞がる障害を悉く燃やし尽くせ 炎火道!」
ダッシュで下山をしている途中に何か大きな声が聞こえたような気がし、上を見上げる。
(えええええええええ!!!!?)
後ろを振り返り見上げた先には熱エネルギーの塊のような火の衝撃波がこちらに向かってきているではないか。瞬時に命の危険を悟ったこの私山田源六は大急ぎで下に向かって走るのをやめ、横に猛スピードで走った。
「あ、あっついでござるー!!!! 酷すぎるでござるよー!!」
山田の苦労は虚しく、前屈みで走っていたことから丁度お尻の部分だけが少し熱に触れてしまい、来ていたズボンが破れてしまった。
「うん......? 今なんか声が聞こえたか? 」
シュカが俺に質問してくる。
「いやーまあ気のせいだろ......」
今の叫びから間違いなくシュカの攻撃が山田にあったのだろう。しかし気にしてはいけない。なんせあいつは殺しても死ななそうなやつなんだから。
うん!大丈夫なはずだ!
「絶対やり返すでござるー! この恨み忘れぬでござるからねー!!!!」
下山するまでいつまでも山田の不満に満ちた叫びが俺たち3人の耳に届き続けた。
「あの3人組逃げたねー。どうするー? 追って殺す?」
「いやいいいだろう。オウハ様にはうまいこと伝えておくさ。もっと強くなってからねじ伏せた方が得られる絶望の量も多い。」
山頂付近で何者かが3人の下山する様子をじっくりと観察していた。獲物の成長を望むように。




