10 鬼の怖さ
驚いた。顔つきは60代ぐらいだろうか。目の前にいる老人は薄くなった頭髪には赤色の毛がまだ少し残っており筋肉の発達が老人とは思えないほど発達している。
そんな中でも特に目を引いたのはその老人の足が片一方ないことだ。なくなった足には包帯が巻かれており何か木の棒なようなものが膝下から生えていた。
「ねえねえ。あの人足がないよ......? 何があったんだろ?」
コソコソと佑ちゃんが俺に耳打ちをしてくる。
「すいませんこの足気になりますよね。お見苦しいものをお見せしてしまい申し訳ありません」
どうやらこちらが気にしていることは筒抜けだったらしい。
「こちらこそジロジロ見てしまいすいません。」
俺たち3人とも頭を下げる。失礼のことをしてしまったという自覚があるからだ。
「いえいえいいんですよ。これまで私のことを見た異世界人の方は皆同じような反応をされますから。もし私の脚が鬼に食われていなければ皆さんを驚かせてしまうような事はなかったとは思うのですが。申し訳ありませんアッハッハ」
元気よくロゼフが笑った。微妙に笑っていいか分からず全員苦笑いで受け流した。
「あのー、すいませんやっぱりそれって鬼に食べられたんですよね?」
「そうです。私がまだ現役で鬼を退治していた時に無くなりました。あの時は油断しましたね。」
「やっぱりそうだ...... 僕たちも食べられるんだー!!」
「落ち着けよ佑ちゃん。もうちょっと冷静に話を聞こう」
「う、うん」
鬼に食われる自分を想像し、顔が青ざめた佑ちゃんを慰める。確かに自分が鬼に食われるかと思うと震える。まあそんなことはないと信じたいが......
「その足どうされたんですか」
「話せば長くなりますが......いいでしょう。
私は部下を率いて鬼たちが溜まり場にしている場所に向かい戦っていました。最初の方は順調そのものであり退治できていたのですが、突如部下の1人が襲われ鬼に捕まってしまう事態がおきてしまいました。その時鬼にこいつを解放して欲しければ選べと言われたのです。
「その時突きつけられた選択肢は2つ。まず部下を見捨てること。それと両足から好きな方を選んで、我々に食糧として提供せよというものでした。
「なんてえげつない選択肢なんだ」
もし今の自分がロゼフの立場だったとしたら自分の片足を捨てて部下を助けられただろうか。
「それでどうしたでござるか? ロゼフ殿」
「その時私はその討伐隊を率いるリーダーでした。もし私が戦えなくれば戦力の低下は否めない。だから組織としては必ず避けなければいけません」
「でも私は選べなかった。部下の恐怖に染まった顔を見てしまい見捨てることができなかった。だから片足を捨てて部下を助けることを選びました。」
「す、すごいですね......」
俺はロゼフの隊長としていや人としての信念を尊敬する。自分以外の人間のために片足を捨てられる人間など自分たちの世界には一体どれほどいるだろうか。自分には到底できる気はしない。
「そんな暗い話やめなよロゼフ。異世界人たちの顔が暗くなってるじぇねえか」
「わしにそんなつもりはない。ただ自分の身の上話をして信頼してもらいたかっただけじゃ」
真剣な眼差しで俺たちに語りかけてくるロゼフという男は誠実さしか感じないといっていいほどいい人に見えている。結構俺は好きなタイプのお爺さんかもしれない。
「ふん。まあいいけど。とりあえずお前ら。異世界人だからある程度つええんだろ? お前らが使い物になるか試してやるよ」
そういうと、赤毛が特徴的な女の子の周りに赤いオーラのようなものが浮かび出した。どうやらまだ戦うつものように見える。
というかいきなりなんなんだこの女の子は。今ロゼフさんの大事な話を聞いていたのに。てか誰なんだこのやけに上から目線な女の子は。俺は気になりロゼフに質問する。
「というかこの赤髪の子は誰なんですか? ロゼフさんのお孫さんとか?」
「ご名答でございます。名はシュカと言います。両親とも鬼によってなくし今は私1人で育てています。」
名前はシュカというのか。覚えておこう。
「うるせえよクソじじい! 私の親の話をするんじゃねえ! いいからもう一度戦えよクソキモ野郎!」
「異世界の女の子かもこの言われようは流石に堪えるでござる......」
お腹を抑える仕草をしながら山田はうずくまる。流石の山田も知らない土地で罵倒される事は答えるのだろう。だがお前は普段からもっと酷いことを人に言っている。お前がそれで悲しむ権利はないぞ。
「まあいいでござるよ? 拙者も色々試したいでござるし」
「お待ちください。異世界人様よ。それならばもっといい方法があります」
「それはなんでござるか? 早く教えてほしいでござる」
足をパンパンと叩き早く早くと急かすように話す山田はもう既にこの世界に馴染んでいるように見えた。山田はなんだかんだ適応能力が高い。羨ましい奴め。
「あそこの山に鬼が出るという噂があるのです。ぜひ一度そこで本物の鬼と戦ってみられませんか」
「おおおお! とってもいい案! 名案でござる! ロゼフ殿の話を聞いてとても鬼というものに丁度あってみたかったでござるからね!」
「ここは怖がる所だぞ山田」
「なぜでござる......?」
本気で俺の言葉の意味がわかっていないらしい。相変わらず頭のネジは数本飛んでいる。
「僕は怖いよ迅くん。上手くやれるかな?」
「だいじょうぶ。戦いは全部なんとかするさ。山田がな」
「酷いでござる! 押し付けではないかー! まあ2人が頼りたうというなら仕方がない」
声を張り上げた山田はジタバタとその場でジャンプを始めた。口では押し付けと言っているが、鼻息荒く元気に動いていることから頼りにされるのがなんだかんだ嬉しそうだ。
「まあとりあえずいこう。山田。佑ちゃん」
「うん!」
「もちろんでござる!」
ここにきて3人のまとまりを俺は感じていた。極限状態を共に過ごした仲間とは仲が深まりやすいやすいと聞いたことがあるが、あれは本当だったのかもしれない。
「私が案内してやる。足引っ張るんじゃねえぞ」
その言葉と同時に俺たち3人はシュカを連れ鬼が出るという山に向かう。何も起きなければいいが。




