1悲しい現実
もう桜が開花する季節。周りからは新学期ということでこれから自分がどんな日々を過ごすのか......想像を膨らまし胸を躍らせる学生の声がきこえる。
そんな俺はというと胸なんかもちろん踊っていない。むしろまた新学期が始まるという絶望感? いやまた退屈で窮屈な学校が始まるんだという虚しい感情に押しつぶされそうになっている。悲しい。
そんな希望を胸に抱く人間で溢れた中俺は、ただの妄想に耽り自分の理想とする自己像を頭の中に思い描く事だけが生きがいのただの高校2年生。
学校にテロリストがやってきてそれを撃退する自分。
好きな子が誰かに襲われそうになる所を助ける自分
自分に絡んできた嫌なやつを撃退する自分などなど。
考えれば考えるほど自分がこういう状況に陥ったらこうしたいという妄想だけを常にしている。情けない。いつだって頭の中だけ自分はヒーローだ。
ただ現実は、そう甘くはない。俺はまずコミュニケーションが苦手だ。だが、世間一般でいうコミュ障という言葉が当てはまる人間かというとそれは違う。他人とコミュニケーションを取るのは得意ではないが、少なからず友人もいるからだ。まあそれでもクラスの隅っこで漫画とゲームの話を隅っこの人間同士で話すことしかない目立たない人間であることには違いない。
さらに勉強もだめだ。運動もだめだ。恐らく学生の中で高いヒエラルキーに位置するために必要な能力は全て低い。よっぽど前世の行いが悪かったのかと少し考えてしまう。
ただ一つ俺にいいいことがあるとすれば、佐藤 迅というありふられた名前にそこそこかっこいい名前がついている事ぐらいだろう。
まあよく周りからは名前負けしていると言われるが。
そんなくだらないことを考えていると、教室に到着する。
周りを見渡す。もちろん俺に声をかけてくる人間などいない。
「迅くんおはよう!」
「迅顔色が悪いぞ?また新作のエロゲーに手を出していたのか? イヒヒ」
こいつらのことを忘れていた。俺と一緒の隅っこのやつらだ。
周りの人間にやかましい人間だと思われないよう最大限の配慮と元気をアピールしながら声をかけてくれたのが山城 佑だ。
俺は侑ちゃんと呼んでいる。可愛らしい外見も相まって俺以外の隅っこの人間以外とも比較的に仲がいい。
そして、エロゲーという単語をなんの恥ずかしげもなく大きな声で発した男。こいつは、山田 源六という古風な名前がついているのにも関わらず発言の全てが気持ち悪いやつだ。汚らしい長髪を後ろでまとめ武士のような見た目をしているが、放つオーラはとんでもなくマイナスのものを放つ。
もちろんこいつは嫌われている。
「佑ちゃんおはよう。そして、山田そんなでかい声でそんな話をふるな。これ以上隅っこに追いやられたら本当に俺の学校での居場所がなくなる」
「いいではないか迅よ。所詮俺たちの周りにいるのは、価値観の違いを受け入れることができない馬鹿ばかり。こんな奴らに嫌われようと俺は気にしないでござる!」
高らかに山田が叫ぶ。
「なんなのあいつらまじうざい」
「気持ち悪い奴が喋るなよ」
「あいつ俺らでマジしめる? ちょっともう限界だわ」
そんな悪口が聞こえてきたような気がする。
これ以上隅に追いやられたら俺たちに居場所はなくなるぞ。
ただ、そんな剣呑な雰囲気を放つクラスメイトだが山田に対して何かをすることはない。こいつは、先祖が武士だったことがあり少し武術を齧っているからだ。実際一年生の頃こいつが絡まれている所をみたが、返り討ちにしていた。
そういう強いところだけは俺は尊敬しているし、憧れてもいる。少しだけな。
「相変わらずだね山田くんは」
「ああ。もうこいつと連むのはやめて2人だけで学園生活を送りたいくらいだよ」
「迅くんそんなこと言ったらだめだよ。山田くんは考え方がしっかりしていて尚且つ強いんだ。僕は山田くんみたいな人になりたい」
おいおいだめだぞ。その安易な発想は。俺の周りにもう1人こんな強烈な奴が誕生したら俺はいよいよ不登校を選ぶ。
ゆうちゃんは一年生の時に山田にいじめにあっている所を助けてもらってからとても慕っている。
その流れで俺も連むようになった感じだ。
そんなこんなで、山田に翻弄されながらも気づくと授業が始まる。
1限目数学 微積と積分について
もちろん分からない。数学が得意で周りから尊敬される自分を妄想。
2限目化学 光の屈折について
これもわからない 光の速さでカッコよく動き回る自分を妄想。
3限目体育 マット運動
体が硬すぎて怪我をする。バク転ができ、オリンピックにでている自分を妄想
4限目地理 世界の山脈について
面白くない。自分が山脈の主となり攻めてくる人間をぶっ飛ばす自分を妄想。
と、こんなふうに妄想をしていたらあっという間に辛いはずの4限まで終わった。
今日は、新学期最初の授業日ということで、昼以降はないらしい。神だ。
「迅、佑よ。早く一緒に帰ろうぞ。そして家に帰って一緒にゲームパーティだ。最近買ったエロゲが実に面白いでござるよ。。これをぜひ2人で一緒にプレイしたいんだ。イヒヒ」
「いいねー山田くん。エロゲーっていうのはよくわかんないけど僕は山田くんと一緒なら何をしても楽しいよ! 迅くんもいくよね?」
「何が楽しくて男同士でエロゲーをやらなきゃいけないんだ。俺は帰らせてもらう」
え一緒にやろうよーという2人と冗談を交わしながら俺たちは教室を出て歩き出す。
最初は、こんな奴らが俺の友達かという人としてどうかと思うことを考えていたが今ではまあそこまで悪くないんじゃないかと思っている。こういう些細な会話を楽しめるくらいには学校になれたということなんだろうか。
そんなことを考えながら3人で談笑していると、声をかけられる。
「お前ら3人ちょっといい? 話があるんだけど」
視線を向けると5人のクラスメイトがこちらを敵意剥き出しで声をかけてきた。
「なんでござるか?私たちは、今から3人でエロゲーをするのでござる。邪魔をしないでいただけないかね」
山田は毅然とした態度で対応する。佑ちゃんは下を向いて震えている。そ
「エロゲーって。お前らずっと前から思ってたけど本当きもいな」
それは聞いた連中の口から悪意に満ちた笑い声が聞こえる。こういうタイプは本当心底苦手だ。自分の価値観が全て正しいと思っているようにみえる。
「わかったでござる。どんな目に遭っても知らないでござるからね?」
結局山田が何回かリーダー格である織本 修哉という人間と話し合ったが折り合いがつかなかった。
その結果山田はもうスイッチが入っているらしい。
「おっけいじゃあ屋上までこいよ。お前の本当の立ち位置ってもんを教えてやる」
そんなただならぬ空気感の中俺たち8人は織本に指定された屋上へと向かう。
この後後悔することを知らずに。