「記憶の鎖」(Chain of Memories):妙×恵×清
#記念日にショートショートをNo.46『半分この中華まん』(Sharing Happiness with You half by half)
2020/11/15(日)七五三 公開
【URL】
▶︎(https://ncode.syosetu.com/n1256ie/)
▶︎(https://note.com/amioritumugi/n/n543b55fd06e2)
【関連作品】
「記憶の鎖」シリーズ
「はい、撮るよー。」
お母さんの声に、3人で並ぶ。
「はい、チーズ!」
カシャッというカメラの音に、風景が切り取られる。3人で並んで写った、最後の写真だった。
リビングでソファーに座りながらアルバムを眺めていると、夫が声をかけてきた。
「懐かしいなあ、この写真。」
「3人で写った最後の写真なんだもん。私にとって、とっても大切な写真。」
そっと、写真をなでる。触れる度、切り取られた一瞬から、その前後の思い出が鮮やかに蘇る。
「清くんの好物、覚えているか?」
夫が隣りに腰を下ろす。
「うん、中華まんだよね?」
「妙は知らないと思うけど、僕の好物が中華まんなのは、清くんの影響なんだ。」
夫は頷くと、思い出の糸を手繰り寄せるように話し始めた。
よく男同士2人で外で遊んだこと。夕暮れになるまで遊び、お腹が空いてくると、清兄が中華まんをコンビニで買って来てくれたこと。清兄が中華まんを半分に割って、分けてくれたこと。公園の土管の上に並んで座って、ほくほくと湯気が立ち昇る中華まんを、一緒に食べたこと。
「どうしてだろうな。他にも清くんからはたくさんのものをもらっているのに、中華まんが一番記憶に残っているんだ。何と言うか…馴染みがあると言うか。」
夫が写真を指差す。
「この七五三の日も、妙が着替えるのを待つ間、確か清くんが中華まんを半分分けてくれたんだよな。」
その言葉に、埃を被って奥深くにしまわれていた箱が、蓋を開ける。箱の中で、きれいにしまわれていた思い出が、蘇る。写真の上に、ほろり、と、涙が一粒、落ちた。
「えっ、どうした、妙?」
夫が慌ててアルバムを奥にずらす。
「僕、変なこと言った?中華まん、一緒に食べられなかったから?」
肩をつかみ私の顔をオロオロと覗き込む夫に、目尻の涙を拭いながら思わず噴き出す。
「違うの。清兄の言葉を思い出して。」
「清くんの、言葉。」
「清兄ね、あの時、多分あなたが食べた中華まんのもう半分を、半分こにして私にくれたの。それで、こう言っていたの。〝一つを自分一人のために使うより、その一つを誰かと分け合えたなら、とても幸せなことだな。〟って。」
恵兄の顔を見上げる。
「あの中華まんの味は、いまでもはっきりと覚えているの。」
「清くんと、妙と、僕で分け合った中華まん……。」
恵兄が呟く。穏やかに、時間が流れていく。電子レンジが、「チン!」と音を立てた。
「思い出の中華まん、食べる?」
笑顔で頷く。夫が立ち上がる。まもなく手に中華まんを載せて、夫が戻ってきた。その熱さに手を跳ねさせながら、夫が中華まんを半分に割っていく。断面から、湯気がもうもうと立ち昇った。
「はい、半分こ。」
手に半分の中華まんが載る。息を吹きかけずに噛みつき、ハフハフ、と口の中で熱さを冷ましていく。
「いつか、この子と、3人で、分け合えたらいいね。」
お腹に手を当てる。夫がやさしく、手を重ねた。命が、小さく灯っていた。
【登場人物】
○妙(たえ/Tae)
●恵兄(けいにい/Kei-Nii)
●清兄(せいにい/Sei-Nii):回想
【バックグラウンドイメージ】
①ぽてとて 氏作/comico『未完成定理』
▶︎(https://www.comico.jp/articleList.nhn?titleNo=20744&f=a)
○第126話「半分こ」
▶︎(https://www.comico.jp/detail.nhn?titleNo=20744&articleNo=130)
②スピッツ(spitz)『♪子グマ!子グマ!』
○「♪半分こにした白い熱い中華まん~」
【補足】
【原案誕生】
2020年8月中旬頃