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金と土

作者: 杉将

 金と土は働きに出る。いつからそうなっていて、始めたのは僕だ。白い建物の多い住宅街を歩く。職場という場所は、僕にとってなんでもなくて、やれと言われればそれを聞き、やったことの対価としてもらうそれは豆ではなく金だ。店主の子津田さんは、僕を蔦のような人だと言った。僕はそれで蔦とは何かという疑問を頂き、その日一日そのことについて考え、家で、辞書で調べて、蔦は文字になり物になり僕は人として布団の中で眠り足元にきた猫は野良猫で、開いたドアの前に吉田が立っていた。

 吉田は金と土の働きだけでは足りない生活費を僕に渡してくれた。それは吉田の意志ではなかった。苗字の違う人間がそこまで親切にしてくれた経験を僕は持たない。吉田はキッチンで水を一杯飲んで出ていき、起きたら猫はいなくなっていた。

 昨日は働いたという意識があり、だから昨日は金曜で、今日は土曜だ。僕は白い建物の多い住宅街を抜ける。その一つの家の庭に望遠鏡があり、老人が、見えたものは見えたとハッキリ語りたい、と僕に言い、職場に着いた僕は少し頭がおかしくなっていて、それはあの老人の言葉を聞いたからで、リズムが狂った。僕は木のコマを持ち、置いて、持ち、置いて、持ち、それを今はポケットに入れて、ようやく少し落ち着いた気分になり、この店の窓からは外がよく見え、自転車で走り去る男の鞄の黒を、あれは一生死ぬことのないような黒だと変な考えが浮かび、僕はポケットに入れたコマを、家に帰ったら真っ黒に塗る。

 蔦と言われたのはいつだったか。僕はコマを畳の上に置き、ただそれと向かい合って時を過ごす。そしてまた寝る夜には、猫が足元にいて、ドアを開けた吉田が、僕が金と土の働きだけでは足りないお金を置いていく。水を一杯飲んで出て行く。起きたら猫はいなくなっていて、昨日は働いたという意識のある僕は、家を出る。ポケットの中に何かあり、それは家を出る前に持って出た黒いコマで、僕はそれをたまたまそこにあった望遠鏡に投げつけ、それは誰も見ておらず、昨日あそこにいた老人の言った言葉は、僕はもう思い出さない。


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