ミステリー作家・犬養大作
奇妙な世界へ……………
俺は河添竜三。大人気ミステリー小説家『だった』男だ。
俺はペンネーム『リュウゾー』として、一時期、『ミステリー小説家の精鋭』として、人気だった。しかし、ある男の登場によって、俺の人気は下がっていった。
ソイツは『犬養大作』。突如として現れた若き小説家で、主にネットで作品を書き、最近では本も出している。奴の書くミステリー作品は、あのアガサ・クリスティーの作品と同等、いや、それ以上の面白さを誇り、テレビや、雑誌等のインタビューに引っ張りだこだ。
俺はこの事を許せなかった。何故ならこの男の登場によって俺の人気が下がり、今では不人気なのだから。実際、俺が本屋に行った時、人気小説のコーナーにて俺の本は無く、逆に奴の作品しかないのだ。
俺は悔しかった。悔しくて悔しくてしょうがなかった。しかし、俺は奴を超えるべく、話を書き続けるだけだった。
しかし、奴は不思議だった。ネットでは週に3〜4回小説を上げているのだ。俺ですら1冊で約2日3日掛かるので、奴はネットで『現代の森鴎外』と言われていたり、ゴーストライターを使っているのでは無いかと言われるほど、奴は異常にペースが早かった。それが不思議で不思議でしょうがなかったのだ。
そんなある日の事。俺がテレビを見ている時、ある映画のCMが入った。すると、ある衝撃的な事があった。それは、この映画の原作が、あの犬養の本、『棘付き薔薇と猫』なのだから。
「クソっ!何でアイツの作品が実写映画化するんだ!俺の作品ですら実写映画化した事無いのに!」
俺は怒りの叫びで頭に血が登りかけた。すると、ドアのチャイムがなり、俺は怒りを抑え、玄関に向かった。
「はい」
俺は扉を開けると、目の前にはあの犬養がいるではないか!俺は驚きを抑え、にこやかな笑顔で応えた。
「ど、どうも!と、隣の一軒家に越してきた犬養大作と申します!よ、よろしくおねがいします!あ、あとこれ、引っ越し蕎麦なんで、どうぞ」
「お、おう」
俺は犬養から蕎麦を貰うと、犬養は驚いた表情をした。
「……っ!あなた、もしかして、りゅ、リュウゾーさんですか!?」
「え…えぇ…まぁ…そうですけど」
「やった!自分、あなたの作品が好きなんですよ!ちょっと待っててください」
すると、アイツはダッシュでここを去った。
数分後、犬養が息を切らしながら俺の本を持って戻ってきた。
「あ、あの、ここにサイン、書いてください!」
そう言って、犬養は本を差し出した。
「わ、わかった。今、サインペンを持ってくる」
俺は玄関を離れた。
俺は居間でペンを探していた。
(全く、何でよりによってアイツが隣に越してくるんだよ!………今年は厄年か?)
俺はペンを持ち、玄関に戻り、本にサインを書いた。
「はいよ。これでいいだろ」
「あ、ありがとうございます!最近、テレビや雑誌で見ないので、どうしてるかと思いましたよ」
「あ、あぁ…そうですか…(お前のせいでテレビに出られてないんだよ!)」
「そ、それでは…」
そして、あの忌ま忌ましい奴はそこを去った。
「はぁ…全く、嫌な1日だった……………さて、話を書くか」
俺は書斎に入り、文字を連ね始めた。
『そして、私はある男に指を指した。その男は、犬』
「だぁぁぁ!間違えた!」
俺は原稿をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。
俺が今書いている作品は『探偵は筋者3』。私が書き続けているシリーズ物だ。
そして、今書いているのは主人公の元筋者、現探偵の綾野光章が真犯人を当てるシーンだ。
『そして、私はある男に指を指した。その男は被害者、星倉頼子の元カレ、名越大作』
「もぉぉ!また間違えた!本当は名越宏斗なのに!」
俺はまた原稿をまたくちゃくちゃにまるめて捨てた。
俺の頭の中には奴の笑顔が広がっていて、怒りが湧きそうになった。
「あぁぁぁぁぁ!もう集中出来ない!」
俺は書斎を去ると、キッチンに向かい、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、それを一気飲みした。まだ時間帯は昼だが、こうしないと気が収まらない。俺は財布を持ち、何かをツマミでも買おうと近くのコンビニに向かった。
俺がコンビニに着くと、入れ違いで犬養と会ったが、俺は奴を無視し、コンビニの中に入った。
それからコンビニでツマミを買うと、その頃には酔いは軽く覚めていた。
(はぁ…昼から何やってんだ俺…)
俺はコンビニで買った枝豆を貪り、缶ビールをちびちびと飲んだ。
『ブー、ブー』
「うわっ!何だ!」
俺は大きな音に驚かされ急に目覚めた。俺はいつの間にか寝ていたらしい。俺は音の方に向かうと、電話から音がなっていた。相手は作家仲間の浦部ソウ(本名 浦部創)だ。浦部は俺とは違い、ホラー系の話が書くのが上手い。しかし、奴は最近音信不通であるのだが…俺は電話に出た。
「はい…」
「た、助けてくれ!竜三!」
「ど、どうした!創!」
「今、俺、軟禁されてんだよ!」
「な、軟禁!?おい待て、その前に警察に連絡しなかったのか?」
「それはもうどうでもいい!助けてくれ!……………来た…」
「おい!誰が来たんだ!」
「犬養…犬養大作…」
「犬養だな!わかった!今行く!」
「嫌だ…嫌だ…嫌」
すると、電話は急に切れた。
「クソっ…」
俺は歯を食いしばった。
俺は車庫にあったトンカチを持っていくと、犬養の家に向かい、庭に向かうと、窓を見つけ、それを割った。そして、内側から鍵を開けた。
「そ、創!」
「ん、どうしたんですか?って、りゅ、竜三さん!これ不法侵入ですよ!」
「うるせぇ!テメェ、創を殺しやがって!」
「……………あぁ、そうですか。じゃあ来てください」
俺は犬養の言葉に怒りが湧きそうになったが、一旦落ち着くことにした。
すると、犬養が居間に入り、俺もそこに入った。俺は顔をしかめた。
そこには3人の男たちがテーブルを囲んでいた。
「こ、これは…」
「はい。今から紹介します。まず、あの奥のベレー帽を被った男が古賀孝太郎。ネットで絵を描いていた人で、挿絵を担当しています。あのタバコをふかしている人は小笠原清。この間定年退職した刑事で、ストーリーの本根担当です。そして、あのパソコンとにらめっこしてるのが速水一騎。日本一タイピングが早いが、それしか取り柄が無いです。後、ストーリーの展開担当の浦部ソウですが、彼は本当に残念でした」
「お前が殺したんだろうが!」
「はい。殺しました。だって、逃げようとするからなぁ…まぁ、私はあの3人を奴隷として使っています。彼らはやりたい事が出来て、私は人気になる。正にWINWINの関係なんですよ」
「………ふっ…」
「何がおかしいんですか?」
「実はな、俺の持っているスマホ…録音機能を今使ってるんだよ!」
「何っ!」
「この事を警察に言うと、お前はどうなるかな?」
「そうですか。じゃあ、こうするしか他ないですね」
すると、犬養はポケットから注射器を取り出した。
「お、お前、何を!」
犬養は何も言わずに俺の首に注射器を刺した。
「うっ…」
俺は一瞬で意識を失い、倒れた。
俺は目覚めると、何故か椅子に縛られていた。周りには、さっき奴が紹介した男3人がこちらを見ていた。
「な、何だこれは!」
「まぁ、これからわかりますよ、リュウゾー先生。これからは、私の小説家としての活動を手伝って貰いますよォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
「い、嫌だ…嫌だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……………」
ある高校生2人が雑談をしながら帰っていた。名前はメガネを掛けている方が根島、七三分けの方が沢城だ。
「なんかさぁ…お前にとっての面白い本あるか?根島?」
「あぁ、リュウゾーっていう人の探偵は筋者っていう作品が面白いね」
「うわっ、渋いなぁ…」
「そう?俺が中学生の頃はよく読んでたんだけどなぁ」
「俺は…犬養大作の作品なら全部面白いなぁ。ネット小説だから無料で読めるし」
「あれはネットだろう?本は本の面白さがあって…」
「全く、小説の事になると熱くなるよなぁ、お前は」
「そういえば、リュウゾー、見ないな」
「はぁ?作品作りに時間をかけてるんじゃないのか?」
「そうか…」
「あっ、俺もうそろそろアルバイトだから行くわ」
「じゃあな」
そして、沢城はそこを去った。
「……………」
すると、根島はある通りを通った。
それから数分後、根島はある家の前に止まった。そこは犬養の家だった。
すると、2人の主婦の声が聞こえてきた。
「最近、河添さん行方不明だって…」
「怖いわねぇ…」
「確か、河添さんを含めて5人も行方不明よ…」
「そうなの…」
根島は唾を飲んだ。
(もしかして…犬養が…拉致を…)
「どうも」
「!?」
根島が後ろを振り向くと、そこには恐らく買い物帰りであろう犬養がそこに居た。
「ど、どうも」
「よかったら、お茶飲む?実家からいいお茶が届いたんだよ」
「そ、そうですか…でもいいです…」
「いやいや、飲んでいってよ」
犬養は根島の背中を押しながら家に入れようとする。
「で、でも…」
「いいからいいから」
2人は家の中に入った。
「次のニュースです。東京都須坂市にて、小説家の犬養氏が拉致監禁罪で逮捕されました。犬養氏は『小説の為には仕方なかった』と供述しており…………」
読んでいただきありがとうございました……………