真夜中の地下図書館にて(ベルスディーア視点)
サク……サク……。
「ソルジア周辺の魔物の出現情報っつってもなぁ……」
サク……サク、サク……。
「図書館にあるのはあくまでも本であって、研究データがあるわけじゃねぇんだけど……」
サクサクサク……。
「……それにしたって、このクッキー美味えな! あのちびっ子、土産選びのセンス良すぎか!?」
さっきから調べ物の合間にクッキーを摘んでいたオレは、思わず真夜中の地下図書館で思いの丈を叫んでいた。
……あ? 図書館では静かにしろってか?
いーんだよ、ここではオレがルールなんだ。それに、今はオレ以外誰も居ねえしな。ここでの飲食だって、オレとオレが許した相手は許可してる。まあ、あのちびっ子プリンセス以外に許可を出した前例はねーけどな。
……友達が居ないからだろ、とか失礼な事考えたヤツは出禁にすっからな!
とまあ、例の魔王さん御一行のソルジア旅行が終わって、ちびっ子から「ディーアさんにお土産ですっ!」と手渡されたのがこのクッキーだったんだが……。
どうやらこのクッキーにはソルジア名産のフルーツが使われているらしく、果肉の入ったジャムも入っていて、甘いクッキー生地とフルーツの酸味のバランスが丁度良いんだよなぁ。
小腹が空いたからちょいと摘むだけのつもりだったはずが、気が付いたら半分以上も平らげていたもんだから、自分でも驚きだ。
「やべえな……。ここらで止めておかねぇと、明日ちびっ子と茶ァしばく約束がパーになっちまう……」
いやまあ、あくまでもあのちびっ子が「調べ物がある」っつーから、そのついでに付き合ってやるだけの話なんだがな?
それまでの間に魔王さんから頼まれた仕事を片付けて、アイツの調べ物を手伝う時間を作ってやんなきゃなー……なんて、ちょっとした兄心?のようなモノを働かせてやってるだけだからな?
オレは無意識のうちにクッキーを完食する前に、それらを静かに箱に戻す。
またうっかり食べ過ぎないように、クッキー箱の上に大量の本を置いて封印しておく。
これは恐ろしい美味さのクッキーだぜ……。別に甘いモンが特別好物って程でもねぇはずなのに、このオレにここまで食わせにくる菓子が存在してやがるとは……。
あの副団長さんの作る菓子も美味い事には違いねぇが、作業中の間食ってのはどうにも手が止まらなくなるような、奇妙な引力がありやがる。
「……と、そろそろ本題に戻らねぇとだな」
いつの間にかすっかり冷め切っていた紅茶を口に含みながら、魔王さんから頼まれた仕事の方に頭を切り替える。
魔王さんに頼まれたのは、この地下図書館にある書物からソルジアに関連する魔物による水害や、対象の魔力を吸う触手付きの魔物についてのピックアップだ。
書棚からソルジアに関するものと、それらしい魔物についての記載がありそうな本を一通り引っ張り出す。
目当ての情報そのもの……とまではいかないまでも、それに近しい記述があった本はリストに加えて、後日纏めて魔王さんに提出する予定だ。
「魔力を吸う……となると、吸血鬼らも血液経由で魔力を吸い出せはするが、触手でってのはピンと来るモンが無いんだよなー」
ソルジア旅行組から聞いた話じゃ、その触手はヌルヌルしていて、攻撃魔法も弾くような耐性持ちだったらしい。
しかし、あのちびっ子が何か適当に撃ち出した魔法で撃退出来たとか……?
何なんだろうな……。魔族の中でも、魔王になれる器が無いと倒せない魔物っつー事なのか?
あの年齢のガキでも倒せるとなると、そういう特別な魔力持ちだったから通用したと考える方が自然な気もするんだが……分からねぇな。
同じ種類の魔物が居ればすぐにでも魔王さんに試してもらいてぇとこだが、あちこちほっつき歩いてた軍師さんでも知らねえ魔物となると、そう簡単にはお目に掛かれない相手なんだろう。
「……ところでこれ、本当にオレが調べてどうにかなる話なのか?」
そんな疑問が浮かんだオレは、読み通り何の成果も得られずに朝を迎える事になるのだった。