決着、早食い対決
一定のペースで、焦らず冷静に食べ進めるお父様。
一気に勝負を決めようと、序盤から思い切り口の中にかき込んでいくエディさん。
そして、甘い物が大好きで、とても美味しそうに食べているナザンタさん。
三人とも定期的に(特に、最初からスピードを出していたエディさんは酷かった)かき氷の冷たさにキーンとなって悶絶していたけれど、最初に脱落したのは──
「クッッッッソォォォォ!! ペース配分ミスっちまったぁぁ!!」
あっという間に完食出来るつもりでいたらしいエディさんだった。
彼としてはペロリと食べ切れる予定だったようで、序盤で無理をしてかき氷を食べ進めていたのが、後から響いてしまったらしいのだ。スプーンですくった一口が、どうしても口に運べない……!
エディさんの手が止まった以降は、焦らず食べ続けるお父様と、ニコニコ顔のナザンタさんの一騎打ち。
かき氷にはフルーツソースだけでなく、ゴロッとしたカットフルーツも盛り付けられていた。……そのせいでもあったのだろう。彼の手が止まり始めてしまったのは。
「……ひたすらに、甘いな」
デザートを食べている人の表情とはかけ離れた苦悶の顔を浮かべてそう言ったのは、我らが魔王ヴェルカズお父様だ。
冷たい氷と甘いフルーツの織りなすハーモニーは、熱い夏の時期に味わうには最高の食べ物だと言える。
けれども、今のように食事を楽しむ為ではなく、早食い対決という目的で急いで食べなければいけない状況となると、純粋に味を楽しむ心の余裕も無くなってしまう。
……それに、多分お父様は甘い物がそこまで得意ではないんじゃないかと思うのだ。
ナザンタさんは知っての通り、手作りでお菓子を用意するぐらいの甘い物好きだ。私も何度も彼のお菓子をご馳走してもらったし、すっかりお子様味覚になった舌でも満足出来る甘さなのだ。
そんな私達のおやつの時間に、お父様が同席していた記憶は無い。かき氷の早食いに参加したぐらいなのだから、甘さが嫌いという訳ではないのだろうけれど……流石に限度はあるはずだ。
私もこの幼女の姿に転生するまでは、甘い物は嫌いではないけれど、沢山は食べられない程度だったからなぁ。無茶して食べるようなものじゃないよね、甘い物って……。
お父様は残りあと僅かというタイミングで手が止まり、悔しそうに眉間に皺を寄せた。
そうしてある意味予想通りの勝者は、最後の一口まで笑顔を絶やす事なくかき氷を完食したナザンタさんだった。
「ごちそうさまでした! あ〜、美味しかったぁ!」
「も、もう一度……! 今度は、串焼きの大食い勝負でどうだ!?」
「くっ……見苦しいぞ、エディオン。此度の勝者はナザンタなのだ……」
となると、私と同部屋にお泊りするのはナザンタさんという事になった訳ですね。
それにしても何というか……いつも近寄り難い雰囲気のお父様が、こうしてワイワイと早食い対決に参加してるだなんて、王宮の人達は想像もしてないだろうなぁ。
それもその内容が、旅行の部屋決めなんだからね! 気分はまるで修学旅行だよ!
丁度私もジュースを飲み終わったところだったので、椅子からぴょこんと降りてお父様達の方へ向かう。
「皆さん、お疲れ様でした!」
「えへへ、見守っててくれてありがとうね〜! 後でルカちゃんの部屋に荷物運ぶから、今夜からよろしくね!」
「はーい!」
そんな私達のやり取りを横目で見ながら、お父様とエディさんは残った自分の分のかき氷をゆっくり完食するのだった。
*
二人がかき氷を食べ終えた頃、宿の方からビーチへ向かって来る人影が見えた。
「ルカ、お待たせしました!」
手を振りながら元気にこちらへ駆け寄って来たのは、先程までお昼寝中だったエドだった。
その後ろには、彼の背中を微笑ましそうに眺めているリーシュさんと、元々は彼らの国の騎士として働いていたティズさんの姿もある。
どうやらぐっすりと眠れたようで、別れる前よりもかなり体調が良さそうに見えた。
子供の回復力って凄いなぁ。大人になると、ちょっと仮眠したぐらいじゃこんなに元気になれないよ……!
戻って来たエドも夏仕様の服に着替えていて、彼も私と同じような麦わら帽子を被っていた。彼の帽子には赤いリボンが巻かれていて、色違いでお揃いのようにも見えるだろう。
もしかしたら、お父様がエドの分も用意しておいたのかもしれない。何だかんだいって、この旅行に誘うぐらいだもんね。口では色々とエドに否定的な事を言ってばかりだけれど、私と同年代の子供だから気に掛けてくれているのかもね。
「もしかして……私達の麦わら帽子、お揃いなのかな?」
「ええ、お義父様がボクの分も揃えて下さっていたとティズに聞きました。ふふっ、ちょっと照れ臭いですが嬉しいですね!」
「やっぱりそうなんだ! 私も嬉しいなぁ」
「帽子もそうですが……そのワンピースも、ルカによく似合っていますよ。いつもの白も素敵ですが、ピンク色も君の髪色によく映えていて素晴らしいですね!」
「そ、そうかな? エドもかっこいいと思うよ!」
「ありがとうございます! 君の未来の夫として、常に相応しい自分でありたいですから……ルカにそう言ってもらえて、とても誇らしいです」
相変わらず自己肯定感が高いエドに苦笑しつつ、それでも改めてエドの姿を眺めて思う事がある。
彼のお姉さんであるリーシュさんは、スカレティアの王女様という事もあって上品さが備わっていて、思わず憧れてしまうような素敵な女性だ。
そんな彼女の弟であるエドも当然のように整った顔立ちをしていて、まだ子供ではあれど、このまま成長したら間違い無く美青年になるだろうなと分かるイケメンの素質がある。
大きくなったエドが、この調子で毎回私をベタ褒めして口説き落とそうとしてくる未来を想像すると……色々な意味で恐ろしい。
今でさえ自国の小さなご令嬢達からモテているらしい彼なのに、結婚適齢期を迎えても私一筋のままだったら、彼女達の怒りの矛先は私に向かうに決まっている。
「……私、自分磨きもっと頑張ろうかなぁ」
キラキラ華やかなスカレティア令嬢達にメンタルをフルボッコされないように、私も色々な面で強くならないといけないかもしれないね……。
主に女性としての魅力と、次期魔王としての実力的な意味で。
この美幼女が今から自分磨きをし続けたら、多分どえらい事になるだろうからね! 目指せ、お父様みたいに美形で最強な魔王様!!