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天使すぎる転生幼女は魔族を平和に導きたい!  作者: 由岐
第8章 私と彼の理想の魔王像
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かき氷食べて頭キーンってなった事ある?

 ひとまずこれから海に行く事になったので、それぞれ着替えを済ませるべくロビーを離れた私達。

 リーシュさんとエドはお昼寝タイムで、ティズさんも宿でお留守番をするそうだ。

 着替えは鞄に詰めてもらっているから、暑い気候に合わせた服を取り出して着替えを済ませた。


 そう、私一人でお着替えしたのです! いつもは侍女さんやリーシュさんに手伝ってもらってばかりのダメダメな幼女でしたが、今日は一味違うんだよなぁ、これが!!

 ざっくり推定三歳前後の幼女ですが、成長性は抜群ですからね! 何せ、中身は成人女性なので!

 ……ぶっちゃけ、毎回お風呂とか手伝ってもらう時の罪悪感も凄いからね。私の精神的な健康の為にも、身の回りの事は早く一人で出来るようになっていかないとなのだよ。

 王宮に帰ったら、侍女さんにもそういう方針で自立させてもらえるように、きちんと相談しないとだよね。お着替えテストとかしてもらったら、髪のセットだけで済ませてもらえるかもしれないし!

 ……いやほら、私って昔から髪型を自分で弄るの苦手なのよ。せっかくの美幼女を自分の手で台無しにするぐらいなら、侍女さんに綺麗にしてもらった方が絶対良いじゃないですか……! 何度やってもボフってなって綺麗に纏まらないヘアアレンジで挫折した藤沢流歌の無念、理解してもらっても構わないんだよ……!?



 リゼーア商会で用意してもらった私の夏服は、このビーチリゾートを過ごすのにピッタリなものだった。

 強い陽射しを遮る為の大きめの麦わら帽子には、ヴィオレ魔導王国の王族の正装なんかによく使われるらしい紫色のリボンが、アクセントとして使われている。そして朝焼けみたいに淡いピンク色がとても綺麗なワンピースに、歩きやすいサンダルを合わせれば、夏仕様美幼女の完成である!


 商会の販売員である女性──アレカさんが言うには、私のような金髪の人にはピンク色の服がよく映えるらしい。

 なので今回はピンクのアイテムを中心にした数日分のコーディネートを考えてもらい、華やかな雰囲気の服を沢山買わせて頂いている。……とはいえ、その代金は私の知らない間にお父様が支払っちゃってたんだけどね!


 私だって立派な魔王軍の一員だし、植物園のお仕事にはお給料だって発生している。まだいまいちこの世界の金銭感覚は分かってないけれど、ご飯は食堂に行けば無料で食べられるし、襲撃事件の事もあって外に出掛けて買い物するなんて機会も無かったから、多分服を買うぐらいのお金は貯金出来てるはずなんだけど……。

 それでもお父様としては「自分の娘の服ぐらい、いつでも買い与えてやれるのが親だろう」と、当たり前のようにそう言ったのだ。

 実際に面と向かって【自分の娘】だと言われると、妙に気持ちがムズムズして落ち着かなくなる。だけど、本当に私を大切な子供として見てくれているんだなと感じられて、それがとんでもなく心地良いと思えるんだよね。


 自分が本当に子供だった頃には全然思わなかった事だけれど、子供時代というのは、ふと気が付けば過ぎ去ってしまう短い時間だ。

 だからこそ親は、二度と繰り返せない子供時代の行事を写真やビデオで撮る為に、カメラを構えて大切な一瞬を切り取るのだろう。いつでもその時の思い出を見返せるように、せめて形に残しておきたいから。


 ……けれども、どうやらこの世界にはそんな技術はまだ無いらしい。

 絵の上手な絵描きさんに依頼すれば、精密な絵画として残す事は出来る。でもそれは、家族が揃って記念として絵を残す時だったり、肖像画として描いてもらうのが普通だろう。

 だからこそお父様は、自分がオーダーメイドで作らせた服を私に贈る事で、特別な思い出として心に刻もうとしているんじゃないかと思ったのだ。


 ──それなら私は、お父様に大切にしてもらっている娘として、子供でいられる今のうちに存分に甘えちゃおう!


「お父様〜!」


 部屋決めはまだ終わっていないけれど、一旦シィダと一緒に私の部屋に荷物を置いてからロビーに戻った私は、まず最初に目に飛び込んできた長い黒髪が垂れる背中に呼び掛けた。

 シィダを連れてとたとたと走ってきた私の声に振り向いたお父様は、今日はいつもの三つ編みではなくポニーテールだった。髪が長くて綺麗な男の人のポニテって、何というかこう……オタクとしてグッと来るものがありますね!!


「おい、転んでも知らぬぞ」

「ご、ごめんなさい!」


 薄手の長袖のシャツを着たお父様は、軽く腕まくりをしている。

 普段はローブで身を包んでいる分、こんな風に肌面積が多いお父様を見られるのは本当にレアだ。階段の登り降りの時に抱っこしてもらったりするから知っているけど……袖から覗く腕の筋肉が! 細身ながらもしっかりと存在しているっ!!

 内心ヒャッホイと筋肉にテンションが上がっている私を見下ろして、そんな本音を隠しているとは知らないお父様が、小さく溜息を吐く。けれどもその表情には笑みも浮かんでいて、仕方が無いなぁとでも言うように目を細めていた。

 良かったぁ……。呆れて怒っている訳じゃないみたい。


「……賢い子供ではあるが、流石に今回ばかりは浮き足立っているようだな」

「えへへ……。すみません。こうして皆で旅行出来るのが嬉しくて、ずっとソワソワしちゃうんです」


 それに、と私は更に続ける。


「お父様に……一番にこのワンピースを着てるところを、見てもらいたかったんです! だから、他の皆が来る前に急がないとって思って、ちょっと走っちゃって……」

「ンッ……! そ、そう、だったのか」


 急に咳払いをしたお父様。喉の調子が悪いのかな? 風邪とかじゃないと良いんだけど……。

 するとお父様は、私と目線を合わせるように屈み込んだ。


「……よく似合っている」

「ほ、ほんとでしゅか!?」

「フッ……ああ、とてもな」


 思わず滑舌が崩壊してしまうぐらい興奮して聞き返してしまったけれど、そんな私を見て微笑ましそうに頬を撫でてくれるお父様。指先がちょっと冷たいけれど、子供体温の私の頬にしばらく触れれば、その温度もすぐに気にならなくなってくる。

 だけど、冷静に考えれば今の私は金髪美幼女だった。どんな服でも、似合わないはずがなかった……!

 むしろ、ハイパーレアなポニテお父様の眩しい微笑みに、穢れたオタクの魂が浄化されそうです……!!


「エディオンやナザンタらにも、その服をよく見せてやるといい。この父、ヴェルカズが選んだその服を……な」


 おっと……これは娘を自慢したいって奴ですか!?

 分かります。私もこんな可愛い服を着た可愛い女の子が居たら、ひっそりと心のカメラロールに収めさせて頂くもんね! その中身が私なのが残念極まりないけどさ!!


「おーい、ルカちゃ〜ん! ヴェルカズ様〜! お待たせしました〜!」

「……噂をすれば、という奴だな」


 丁度良いタイミングでロビーに戻って来たナザンタさん達を見て、お父様が悪どい笑みを浮かべたのを、私は見逃さなかった。

 こういう所は魔王っぽいなと思うけど、そんな顔も画になるからイケメンってズルいよね!


「わー! わー! ルカちゃん、そのお洋服この前買ったっていうワンピースだよね!? すっごく可愛いよ! とっても似合ってる!!」

「えへ、ありがとうございます!」

「……俺様、やっぱり今からでもルカの父親になれねぇかな? 何なら俺もヴェルカズの息子にしてもらって、ルカの兄ちゃんになれねぇかな??」

「訳の分からん事を言ってないで正気に戻れ、エディオン」


 それは本当にそうですよ、エディさん……!

 真顔でツッコむお父様は相変わらず落ち着いてて、本当に頼りになりますわ。

 そして、そんな彼らと一緒に着替えてきたムウゼさんはというと……。


「これが、尊い……という感情か……」


 と、重めのオタクみたいな感想を呟いていた。

 いやまあ、私もついさっきまでお父様の筋肉とポニテに魅了されてたオタクだから、彼の事をとやかく言う資格なんて無いんですけども!



 とにかく皆で夏服に身を包んだところで、すぐそこのプライベートビーチに繰り出す事になった。

 けれども砂浜が太陽で照らされているせいで熱くなっているようで、思い切り砂浜に駆け出そうとしたシィダがUターンしてきたではないか。


「キュウン……」

「あー、そりゃ熱かったろうなぁ。可哀想に……」


 黒妖犬シィダの言っている事が分かる雪人狼であるエディさんは、悲しそうに尻尾を下げているシィダに同情しているようだった。

 確かに、日本でも夏のアスファルトは物凄い高温になるせいで、日中に犬の散歩をさせると肉球が火傷してしまうって聞いた事があるなぁ……。

 いくらシィダが本物の犬ではないからといっても、私も試しに素手で砂を触ってみたら、めちゃくちゃ熱くて驚いたぐらいだもんね。人間だって、こんな所を裸足で歩いたら火傷しそうだよ。


「それじゃ、俺様がシィダを抱きかかえていってやるよ! 波も穏やかみてぇだし、波打ち際なら歩けるんじゃねぇか?」

「キュウッ!」


 嬉しそうに返事をしたシィダを抱っこして、お言葉に甘えてエディさんに連れて行ってもらう。

 ……そして私も、謎の対抗意識を燃やしたらしいお父様に抱っこされている。本当に、本当に謎である。

 でも、お父様の顔が近くて嬉しいのでOKです! 私は現金な幼女なので!!


 皆で波打ち際まで来ると、エディさんがそっとシィダを降ろす。

 するとシィダは、海水で濡れた砂浜の上なら大丈夫だったようで、嬉しそうに尻尾をブンブン振りながら、クルクルとその場で駆け回り始めた。

 ……ただし、水が苦手なムウゼさんは、絶対に波が来ない位置からこちらを見守っていたけれど。


 私達はしばらくキャッキャと波打ち際ではしゃいで、少し落ち着いてからビーチ沿いにある屋台で休憩する事にした。

 そこでお父様達は、例の『部屋決めかき氷早食い対決』をするようだ。私としては誰が同部屋でも嬉しいのだけれど、いつもそれぞれのお仕事で忙しい彼らが盛り上がっているのを邪魔するつもりはない。


 ここは宿屋所有のプライベートビーチなので、私達の他には宿の店員さんしか居ない。

 軽食スペースの一角で、それぞれカラフルなシロップが掛けられたかき氷を前にスプーンを構える三人。

 シロップは果物の果肉もゴロッと入った、贅沢なかき氷になっているらしい。お父様は紫色、エディさんはオレンジ色、ナザンタさんは赤いフルーツシロップのかき氷を選んだようだ。どれも美味しそうだけど、あれを早食いするのはもったいないんじゃなかろうか?


 早食い対決の審判はムウゼさんが引き受ける事になったので、私とシィダは隣のテーブルで三人の勝負を見守った。

 途中でムウゼさんに「お前もかき氷を食べないのか?」と訊ねられたけれど、私は首を横に振る。


「後でエドがお昼寝から戻って来てからにしたいんです。だから私は、このジュースだけで大丈夫ですよ?」

「ふっ……そうか。友人思いなのだな、ルカは」

「ムウゼさんも、後で一緒にどうですか? リーシュさんも誘って、四人で!」

「……そうだな。是非、ご相伴にあずかろう」


 そうムウゼさんと約束してから、私達は視線を向こうのテーブルに戻した。


 ……そろそろ決着がつきそうだ。

 さて、私の同部屋になるのは三人の内、誰になるのだろう?


 私は頭がキーンとして苦しんでいる彼らの悶絶する様子を見つつ、苦笑しながらフルーツジュースを流し込んだ。

 やっぱりあの現象、魔族でも起きるものなんだね! 私は何故かなった事無いんだけどさ。ふっしぎ〜。

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作品タイトルをちょっと変更しました。

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