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天使すぎる転生幼女は魔族を平和に導きたい!  作者: 由岐
第8章 私と彼の理想の魔王像
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日々、魔王軍でキャリアを積んでいます

 早いもので、季節はどんどん移り変わって、我らがヴィオレ魔導王国は初夏の陽気。

 私は相変わらず植物園でのお仕事に励みつつ、お父様から魔法の扱い方を習う日々を送っている。勿論、この世界について気になる事があれば、図書館で調べ物をするのも忘れていない。


 今日のスケジュールは、朝からリーシュさんと一緒に植物のお世話をして、お父様の研究に必要な薬草の採取。

 そして昼食後、必要な薬草をお父様の研究室に運び込み、簡単な傷薬の作り方を横で見学させてもらった。試しに私も少し薬を作らせてもらって、「子供ながらに手際が良いな。流石はルカだ」とお褒めの言葉を頂いてしまった。まあ、中身は大人ですからね! それはそれとして、お父様の大きな掌で頭を撫でてもらった時には、自然とニヤニヤが止まらなかったりする。えへへ〜!

 昨日は戦闘向けの魔法の特訓をしたので、今日は治癒魔法の実践をしてみようという事になり、お父様と一緒に近衛騎士団の訓練場へ。

 ……やっぱりお父様が居ると、いつもより騎士団の皆の表情や動作が引き締まって見える。お父様、黙って立ってるだけでも威圧感が凄いもんね。私に話し掛けてくれる時は比較的に穏やかな雰囲気だけど、それ以外の人達と会話している時は、いかにも魔王様! って感じの冷徹な男性にしか見えないからね……。

 けれどもそんな騎士団の人達の中でも、団長のムウゼさんと副団長のナザンタさん達兄弟は一味違うのだ。良い意味でも、悪い意味でもね。


「ヴェルカズ様、本日のルカの訓練のお時間ですね。お待ちしておりました」

「さっきボクと兄さんとで、皆を相手に組手をしたばかりなんです。なので皆、ルカちゃんの練習相手に丁度良い具合にボロボロになってますよ!」


 笑顔で答えたナザンタさんの言う通り、訓練場を見渡せば、そこかしこにヘロヘロになった騎士さん達が転がっていた。文字通り、その場で大の字になって倒れていたり、壁にもたれかかって休憩しているようだ。顔に怪我があったり、魔法で吹き飛ばされて倒れ込んでいるらしい彼らだけれど、お父様と私が来たのを見て、どうにか立ち上がって挨拶をしてくれている。

 うう……。こういう日々の訓練が大事なのは分かるんだけど、身体がキツいんだったらそのまま座っててくれて大丈夫ですよ〜……って言いたいけど、流石に魔王陛下とその養女相手に、そんな態度は出来ないか。現代日本ではそうそう味わえない身分差を、ひしひしと感じてしまうわ。

 それにしたって、お父様の前でもいつも通り真面目でビシッとしているムウゼさんと、いつも通り自然体でにっこり笑顔のナザンタさん。主君が相手だから言葉遣いには気を遣ってるみたいだけど、そんなナザンタさんを横目でジトッと睨んでいるムウゼさんを見ると、何とも言えない気持ちになっちゃうね……。

 けれども、二対多数での組手を終えたばかりらしいのに、兄弟揃って息が乱れた様子も無いのは驚きだ。他の騎士さん達はほとんど息も絶え絶えだというのに、一体彼ら兄弟はどんなスタミナをしているのだろう。


「全員とまではいかんだろうが、ルカの様子を見ながら治療にあたらせる」


 お父様はそう言うと、こちらを見下ろした。


「今日も普段通り、魔力コントロールをよく意識するのだ。だが、今回は少し手法を変えてみるぞ」

「しゅほー……ですか?」

「フッ……まあ、じきに分かる」


 小さく笑ったお父様の後に続いて行くと、訓練場の近くの個室で、いつものように一人ずつ呼んでの治療が始まる。

 今日は訓練用の木剣ではなく、本物の剣や槍を使用した訓練をしたらしい。最初に部屋に案内されてきた騎士さんは、頬に切り傷があった。既に血は乾き始めて固まってきたようだったけれど、「痛みはどうですか?」と訊ねたら「少し、ピリッと痛みますね……」と返答が。そりゃそうだ、見てるこっちも何だか痛くなってきたような気がするもん!

 少し離れた所で治療を眺めるお父様の視線を感じながら、私は椅子に座っている騎士さんの頬に向かって、両手を掲げた。

 その箇所に向けて、騎士さんの切り傷が治っていく様を頭の中でイメージしながら、掌から魔力が放出されていくように意識を集中させていく。

 魔法というものは本人の実力に大きく左右されるようで、その力の使い方も人によって感覚が違うらしい。私の場合はお父様と同じ感覚派らしく、思い描いた通りに魔法が発動するように強く念じると、何だか上手くいくのだ。

 こういう時、子供の頃からファンタジーに慣れ親しんだオタクで良かったと心底実感するんだよなぁ〜。ありがとう、ファンタジー作品業界で働く大人の皆さん! 貴方達のお陰で、多分沢山の異世界転生者が救われてると思います! ……いやまあ、私以外にどれだけそんな人が居るのか知らないけどさ!


 そんな調子で数人の治療を終えたところで、お父様が怪我人を纏めて部屋に招いてきた。

 彼らの怪我は打撲、風魔法による切り傷など様々で、怪我を負っている箇所もバラバラだった。


「ルカ。お前の治療の精度は、その年齢の子供の中だけでなく、成人した者と比較しても引けを取らない正確性だ。ならば……次の段階に移る」


 お父様は一箇所に集まるように彼らに命じると、続いてこう告げた。


「これからお前には、この騎士達を同時に治療してもらう」

「ど、同時にですか!?」


 その言葉に、私だけでなく騎士さん達も騒ついた。

 対してお父様は冷静に、表情一つ変えずに頷く。


「全員が対象となるよう魔法の効果範囲を広げ、一度のみの魔法行使によって治療が完了すれば合格だ」

「い、一度だけで……?」


 それってつまり、範囲魔法ってやつでは……?

 確かに、存在としてはゲーム知識で知ってるよ? 個別に回復対象を設定する魔法とは違って、回復エリアを決めて発動させる魔法だ。そのエリアの中に居る味方キャラクターなら、全員を一定値だけ回復させるやつだよね。

 とはいえ、それをぶっつけ本番でやれと仰いますか、お父様……!


「……安心しろ、今日だけで身に付けろという話ではない。これから何度かこういった機会を設ける中で、少しずつ成功率を高めていくのだ。これが出来るようになれば、いざという時に役に立つ。……お前もいずれは私の跡を継ぎ、魔王として戦場に立つ日が来るのだ。その時、ルカの力が戦況をがらりと変える事もあろう」


 私が魔王になった時、戦況を変える……。


「……分かり、ました。私、頑張りますっ!」

「うむ、よく言った」


 そうだ。私が守りたいのは、この国の人達……そして、王宮の皆だ。

 私の魔法で敵を蹴散らし、皆の傷を癒す。攻守どちらも完璧な魔王になれたら、何が起きても大切な人達を護れるようになれるんだ……!


 私は改めて気合を入れ直し、具体的にどう魔法を使いたいのかを強くイメージしていく。

 目の前に居る騎士さんの人数は、五人。怪我の種類も場所も皆違うけれど、ざっと見た感じ、一人ひとりの怪我の程度は同じぐらい。そうなると、使う魔力の配分は均等で良いと思う。

 そこから、彼らを囲むように癒しの力が発動するように、中くらいの円形を描くように魔力を広げていって……。

 彼らの怪我を上手く覆えるように魔力が集まっていくのを想像しながら、いつものように傷や痣が綺麗に癒えていくように……強く念じる。

 薄らと開いた目蓋の向こうに、白い光の柱に包み込まれていく騎士さん達の姿が見える。……よし、魔法の効果範囲から外れている人は居ないね。

 このまま……全員一気に纏めて、ドーンと治す!


「……ふんっ!!」


 真っ直ぐ前に伸ばした両腕の先で、光が更にその強さを増した。

 自分でも感じる、強力な魔法の気配。お父様の放つ攻撃魔法とはまた違う、真逆の性質を持った力強さだ。

 その光がスッ……と収まると、狙い通りに騎士さん達それぞれの怪我が治ったかどうか、すかさずお父様のチェックが入る。


「……ど、どうですか?」


 最後の一人の確認を終えると、お父様が「ほう……」と興味深そうに反応を示した。


「結果にムラが出るだろうと想定していたが、どの騎士の怪我も問題無く治療出来ているように見えるな。少なくとも、外見上は完璧だ。……貴様ら、まだ痛みは残るか?」

「いいえ!」

「全く!」

「絶好調です!」

「押しても痛くありません!」

「心なしか、肌ツヤが良くなったような気がします!」

「……そうか」


 最後の感想は確実に気のせいだと思うけど、見た目だけでなく、痛みそのものもすっかり消え失せてしまったようだ。


「……よくやったな、ルカ。まさか一度でこの技術をものにするとは、流石の私も予想外であった。これだけ魔力のコントロールを精密に出来るようになったならば、すぐに攻撃魔法にも活かせるようになるだろう」

「えへへ……上手く出来て良かったです!」

「この調子なら、お前に王宮治癒術師の長を任せる日もそう遠くないかもしれんな?」

「うーん……」

「どうした、治癒術師では不満か?」

「不満というか……植物園のお仕事も楽しいから、それを辞めちゃうのは寂しいなぁって思って……」


 王宮治癒術師の長だなんてお世辞なんだろうけど、それでもリーシュさんと別の所で仕事をするっていうのは、ちょっと寂しくなるよね……。

 何だかんだで、私が植物園管理人補佐になってから、もう半年ぐらいも経つんだもん。育てている植物の名前とか特徴とか、お世話の仕方とか、色々と覚えて慣れてきたところだからねぇ。やれる事が増えてきて楽しくなってきたし、リーシュさんにも頼りにされる補佐役として仕事に向き合ってる真っ最中なのだ。

 けれどもこういう魔法を使う練習も楽しいし、怪我をした人を治すと達成感がある。さっきまで痛そうにしていた人が苦しみから解放されて、元気になっていく様子を目の当たりにすると、「ああ、良かったなぁ」って素直に嬉しくなるんだよ。だから、治療をするのが嫌って訳じゃないんだ。


「……お前はまだ若い。様々な事に挑戦し、身に付けたものの中から道を選んでいけば良い。焦る必要など無いぞ、ルカ」

「……そうですね! 私も魔法だけじゃなくて、エドみたいに武器を使って戦う特訓もしてみたいですし……」

「武器、か……。ふむ、検討してみるとしよう」

「はい、是非お願いします!」


 せっかく異世界に来たんだもん。お父様みたいに魔法薬だって色々作れるようになりたいし、ナザンタさんみたいにお料理上手も目指してみたいし、リーシュさんみたいなオシャレなお姉さんにだってなりたいからね!

 やりたい事、目指したいものはやれるだけ全部やってみて、後悔しない人生を全力疾走したいんだよね、私!




 *




 今日は新しい魔法に挑戦したり、何人も治療したという事もあり、ゆっくりと身体を休めるようにとお父様に言われた。

 早めに自由時間を貰った私は、夕食の前に食堂でジュースを貰い、のんびりと休憩時間を満喫している。

 サッパリとした柑橘系のジュースは、何種類かの果物をブレンドしているのか、それともこの世界特有の柑橘類を使っているのか分からないけれど、とにかく甘酸っぱくて爽やかで美味しい。いくらでも飲めちゃいそうだけれど、お腹がタプタプになるとご飯が入らなくなってしまうので、ほどほどで我慢。またの機会に、この最高の味を楽しもうと思う。

 とはいえ、一気飲みするのはもったいないのでじっくりとジュースを味わっていると、侍女さんが私宛ての手紙を預かってきたらしい。

 手紙の差出人は書かれていなかったけれど、封蝋に刻まれた紋章には見覚えがあった。

 封筒を閉じる赤い蝋が象るのは、炎を連想させるデザイン──スカレティア連合王国の紋章である。つまり、この手紙はスカレティアの王子であるエドからのものなのだ。


「今回は返事が遅かったから、エド忙しかったのかなぁ……?」


 というか、これまでの手紙のペースが早過ぎたのかな?

 エドったら私よりお稽古とか勉強で忙しいみたいだし、むしろもう少し返事を書く頻度を落としても良いと思うんだけど……。エドは私と違って本物の子供なんだし、無茶してほしくないんだよねぇ。


「……ここで読むのも何だし、一旦部屋に戻ろっと」


 少しだけコップに残っていたジュースをぐびりと飲み干してから、食堂を出て自室に戻る。

 部屋に戻るとシィダがすやすやとお昼寝中だったので、邪魔をしないように静かに机に向かった。

 エドからの手紙の内容は、ざっくりとこんな感じだった。




 ────────────




 ボクの愛する未来のお嫁さんへ


 スカレティアは既に本格的な夏に入り、剣術の稽古の後に飲むジュースがとびきり美味しく感じられる季節になりました。

 ヴィオレも少しずつ夏の陽気に包まれてきた頃だと思いますが、ルカも体調には気を付けて、元気に過ごして下さいね。

 そうそう。この前、ある方から嬉しいお誘いを頂いたんです。夏は暑いばかりで嫌な事だらけだと思っていましたが、今年は気分良く乗り越えられそうで何よりです。

 またルカに会える日を、今か今かと楽しみにしています。

 お義父様にも、どうぞよろしくお伝え下さいね。


 君のただ一人の運命の相手より




 ────────────



 ……うん、やっぱりエドは今回も通常運転でした!

 何なの? 私の何が君をそんな風にさせてしまっているんですかね??

 お父様によろしくとか、相変わらず私との結婚を諦めてないんだね! 多分私より可愛い子とか美人な子とか世の中にはいっぱい居るだろうに、(残念ながら中身だけだけど)ルカお姉さん、スカレティアの今後が心配になるよ……!


 考えても答えなんて一生出そうにないけれど、何だかエドが楽しい夏を過ごせるようならそれで良いよ……。

 とにかく、子供は元気が一番だからね!

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このお話が面白かったら、ブックマークやいいね等でも応援よろしくお願い致します!


日々の創作の励みになっています。ありがとうございます!

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