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天使すぎる転生幼女は魔族を平和に導きたい!  作者: 由岐
第8章 私と彼の理想の魔王像
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私達はここに居る

 ディーアさんと一緒に、地下図書館で楽しいお茶会タイムを過ごした日の夜の事。

 夕食もしっかり食べて、お風呂も済ませた私は、自室のベッドの上でシィダと寝転がりながら、ぐだぐだと寛いでいた。


 先日の一件があってから、何だかグッと距離が縮まった気がするディーアさん。

 また気が向いたらお茶に付き合ってくれるとの事だったので、今度は彼にリーシュさんオススメのお茶をご馳走しようかな、と思ったり。クセの強いお茶は私が苦手だから、子供舌でも飲みやすくてスッキリした茶葉を貰っておかなくちゃね!


 そうそう、ナザンタさんが作ってくれたサクサクの動物クッキーを齧りながらディーアさんと話したのは、私が関わる王宮の人達についての事が主だったのよ。

 彼自身の体調の事や、読書が趣味と仕事を兼ねているという事情もあって、長年職場での人付き合いが希薄──というか友人ゼロ──な事から、私から見たお父様達の話を聞いてみたかったらしい。

 とは言っても、私に言えるのは「お父様はいつもクールでカッコ良くて、魔法が凄く上手くて強い!」とか、「エディさんはよく私を抱っこしてくれて、シィダにもオヤツを用意してくれる」とか、「リーシュさんは頼れる先輩で、私もいつかああいう大人のお姉さんになりたいなぁ」とか、「ムウゼさんは真面目で厳しい人だけど、それだけ責任感があって立派な大人で、騎士の鑑みたいな人なんです!」とか、「ナザンタさんは気が付いたら私の好きなフルーツとか好みの甘さを把握していて、ある日完全に好みの味の手作りお菓子を出されちょっとビビった」とか、「ティズさんは絶対に朝寝坊しないで毎朝私を起こしに来てくれるけど、この前はうっかり寝過ごしかけたのか、寝癖が付いてるのに気付いていなかった」なんていう、王宮での日々の中で感じた率直な感想みたいなもので。

 それでもディーアさんは、私のそんな話を真剣に聞いてくれていて、「視点が変わると、こうも印象が違ってくるもんなんだな……」と、興味深そうに紅茶を飲んでいた。

 確かに、皆が自分以外の誰かに見せる一面って、そうそう知れるものじゃないもんね。ディーアさん自身の事だって、今日みたいに私と和やかにティータイムを過ごしているだなんて、私以外には誰も知らない意外な一面であるはずだから。


「……何だか私、流歌だった頃よりも人間関係上手くいってるんじゃないかな?」

「キュ?」

「そうそう、今はシィダまで一緒に居てくれるしね〜!」

「キュッキュ!」


 首を傾げて不思議そうな顔で見上げてきたシィダに、私は思い切り抱き着いた。

 毎日お手入れして、ふっかふかでモッフモフな黒くツヤツヤな毛並みに顔を突っ込みながら、私はニヤニヤとした笑みを浮かべてシィダを堪能する。


 日本で暮らしていた頃には、職場で性格が合わない人が居たり、自分とは働き方のスタイルやスタンスが違ってストレスが溜まったり……。

 勿論、私の方が悪い事だって当然あったはずだし、反対に相手に問題があった部分も少なからず存在していただろう。

 それでも大人なのだからと文句を飲み込んで、職場の空気を悪くしないように愛想笑いをして、どうにか丸く収まるようにやり過ごしたりして。

 そんな日々がこれからもずっと続いていくんだろうな、と漠然と思いながら職場と家を行き来していた日常が、今となっては大きく一変している。


 どこにでも居る平凡なオタク女だった私は、気が付いたら金髪むちむちの美幼女に異世界転生。

 何故だか魔族の国に迷い込んでいた(?)幼女の私は、超イケメンな魔王様に軍の一員として受け入れられ、そんな魔王様の養女になった。

 何かと構ってくれる優しい大人の人達と、私を危機から救ってくれたお父様。

 そして温かいベッドで一緒に眠るのは、可愛いモフモフの愛犬で。


 私に意地悪してくるような人なんてこの王宮には居ないし、万が一にもそんな人が居れば、お父様やエディさんが絶対に許さないだろう。

 ムウゼさん達兄弟をはじめとした近衛騎士団の人達だって私を大切にしてくれているのが伝わるし、食堂の人達も子供の私の為にと食べやすいメニューを用意してくれて、侍女さん達も女の子である私の為にと、髪の毛を可愛らしくアレンジしてくれたり……。

 王都に出来た初めての友達も、週に一度は顔を合わせて話が出来る。

 それに、頻繁に近況報告や自国の文化について教えてくれる文通仲間のエドだって、友情と表現するにしては重すぎるものを感じるけれど、悪い人じゃないもの。


 こんな素敵な人達に囲まれた生活の、一体どこに不満があるだろうか?


 ……藤沢流歌だった頃の生活の全てが不要という訳ではないし、家族に会えないのは寂しい気持ちもある。

 けれども帰り方も、元の身体に戻る方法も分からない今、どうしても今すぐあの頃の生活に戻りたいという熱意は無かった。


 だって私は、今の生活が好きだから。

 ルカとして生きる今が、ルカとして出会った人々との繋がりが、とても尊い素晴らしい出会いだと思っているからだ。


 だから私は、今の人生に不安はあれど、不満は無い。

 またいつ怖い目に遭うか分からないけれど、私はこの世界で一人ぼっちじゃないからね。

 ヴェルカズお父様も、エディさんも、シィダも……王宮の皆が、私の大切な人達だから。


「……だからこそ、ね」


 たまに、怖くなってしまう時がある。


 朝目が覚めたら、私は元の藤沢流歌の生活に戻っているかもしれない──と。

 これまでの全ては私の都合の良い夢や妄想の産物で、現実の私は交通事故か何かで意識不明の重体で、生死の境を彷徨っているだけだったりするんじゃないか……?

 ……なんてね。

 だって、物語としては珍しくもない事だけれど、リアルに異世界転生した人なんて、ネットの掲示板での報告なんかでしか見た事が無いからさ。


「キュウン……?」


 私の不安な気持ちを察してしまったのか、シィダが悲しげな鳴き声をあげた。

 だから私は、この世界は私の夢なんかじゃない──ここに居るシィダは確かに私の目の前に居て、生きている命なのだと感じられるようにと、その身体から伝わる温もりを必死で肌で受け止める。


「……あったかい」


 やっぱりこの子は……シィダは、ちゃんとここで生きている。




 そうやってしばらくそのまま過ごしていると、シィダがハッと扉の方に顔を向けた。

 シィダがこうして部屋の外を向いた時は、誰かがここを訪ねて来た時なのだ。


「……はぁい!」


 なるべく元気にそう応えると、部屋の扉が開けられた。

 私の部屋に入れるのは、扉に魔力を登録している私とお父様、エディさん、初代お世話係のムウゼさんとナザンタさんと、今の専属お世話係兼護衛のティズさんだけだ。


「よう、こんな時間に悪いな」


 そう言いながら入って来たのは、エディさんだった。


「もうすぐ寝るとこだったか? なるべく手短に済ませるつもりだが、お前さんには今すぐにでも伝えておきたい話があったもんでな」

「全然大丈夫です! ね、シィダ?」

「キュウッ!」

「おうおう、シィダも歓迎してくれるとは嬉しいねぇ!」


 と、私の隣から飛び出していったシィダが、嬉しそうにエディさんの足元に飛び付いていく。

 エディさんは人狼の血を引いているから、シィダの言っている事が分かるんだよね。あの子が何を話しているのかが分かるだなんて、ちょっぴり羨ましいなぁ……。

 まあ、言葉が分からなくたって、私達は相性バツグンなんですけどね!


「それでエディさん、私に何のお話ですか? お父様から何か伝言ですか?」

「まあ、そんなようなモンだ。……なあルカ。もうしばらく先の話にはなるんだが、ヴェルカズも交えて旅行に行こうと思うんだ」

「りょ、旅行れすか!?」

「ンッ……!!」


 思わずベッドから身を乗り出しながら彼の話に食い付いてしまい、思わぬ報告に喜びすぎた私を見て、エディさんが口元を押さえた。

 多分、私の庶民すぎるリアクションに呆れてしまい、ヴィオレの王女にあるまじき振る舞いに言葉を失ってしまっているのだろう。……もう少し落ち着いた反応が出来るよう、反省しなければ!


「……そ、そうだ」

「あっ……でも、この前の事件があってから、私は王宮から出ないようにお父様にもエディさんにも言われてたはずじゃありませんか?」

「それに関しては、ヴェルカズとベルスディーアが中心となって、王宮と王都周辺に張った結界の大幅な強化を行なってる。遅くとも夏頃には完成するらしいから、そうしたらこの前みてぇな襲撃事件はそうそう起こらねぇはずだぜ」


 どうやらお父様達が行なっている結界の改良は、お父様レベルの実力を持った魔法使いが死ぬ気で破壊しない限り、絶対に壊れないような強度になるよう調整しているらしい。

 ……死ぬ気で魔法をぶっ放すお父様とか、想像しただけでこの世の終り感があるね??

 そこまで強力な結界なら王都の人達も安心だろうし、王宮の守りも鉄壁になる。

 それに旅行にお父様が同行するなら、どんな事があってもへっちゃらでしかない! 最強の旅行プランじゃないですか!!


「それなら安心ですね! その旅行には、私とお父様とエディさんの他には誰が一緒なんですか?」

「一応、お前さんの護衛役にティズの野郎と、今の所はナザンタとエウラリーシュだな」

「リーシュさんもですか? そうなると、植物園のお世話は……」

「心得がある侍女が、代理で世話をしてくれるらしい。知識だけならベルスディーアも豊富だから、何かあれば奴も知恵を貸してくれるだろうさ」


 あ、そうか……。

 ディーアさんは体調の事もあるし、気軽に旅行なんて出来ないよね……。

 何だか今日、彼と楽しく会話していたせいで錯覚していたけど、ディーアさんは吸血鬼だから行動に制限が出て来るんだよね。

 てっきりディーアさんも一緒に来れるものだとばかり思い込んでいたから、ちょっと地味にショックかも……。


「……それじゃあ、その侍女さんとディーアさんにはお土産を買って行かないとですね! あ、あとムウゼさんもお留守番なんですか?」

「ああ、それなんだがな……。他の騎士団連中は『是非、団長もご旅行を楽しんできて下さい!』って言ってるみてぇなんだが、本人が乗り気じゃなくてなぁ」

「うーん……? どうしてなんでしょう」

「ま、行き先が問題なのかもしれねぇな!」

「行き先?」

「それについては、いざ当日になってからのお楽しみって事で! とりあえず予定が決まったら改めて伝えるから、今度の旅行楽しみにしといてくれよ!」

「はい! すっごく楽しみです! 一緒に旅行するの楽しみだねぇ、シィダ!」

「キュッキュウ!」

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