表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使すぎる転生幼女は魔族を平和に導きたい!  作者: 由岐
第8章 私と彼の理想の魔王像
57/75

可愛すぎるお菓子

 食堂へ向かう途中、私はディーアさんに手を引かれながら歩いていた。

 その途中で、何度か騎士さんや侍女さん達とすれ違う事があったのだけれど……。

 この王宮には小さな子供は私しか居ないから、遠くからやって来る私を見て気付いた人達が、いつも挨拶をしてくれるのよ。

 ただ、今日は皆の様子が違っていて──


「おや、ルカ王女ではありませんか。こんにち──」


 と、一旦そこで私の顔から視線を上げて、ディーアさんの方を見てしばらくフリーズし。


「──こ、こんにちは。ええと、これから食堂でお茶の時間ですか?」


 その後、何事も無かったかのように私に視線を戻すのである。


 そして次に出会った、いつも優雅な雰囲気の侍女さんに遭遇した時は、こんな感じだった。


「ごきげんよう、ルカ姫様。本日は食堂にて、ナザンタ様がお手製の──」


 と言い掛けたところで言葉が止まり、ディーアさんを見てから私に視線を戻したものの、その後また彼を二度見するという戸惑いっぷりを披露した。


「──お、お手製のお茶菓子をご用意しておりましたわ。それでは私は仕事がありますので、これにて失礼させて頂きます」


 そう言って頭を下げた後、廊下の向こうへと去っていったのだった。

 それを見送ったディーアさんはというと、何とも居心地の悪そうな表情で私を見下ろして言う。


「……なあ、オレが出歩いてるのってそんなにおかしいか?」

「うーん……どうなんでしょう?」


 正直言って、皆がディーアさんを見て驚いているのか、あのディーアさんが私と手を繋いで歩いているから驚いているのか、全然分からないんだよね!

 いやまあ、両方の意味で驚かれてても不思議じゃないんだけれども。

 一応、私が最近時間があるときは図書館に入り浸っているのは侍女さん達なら知っていそうだし、騎士さん達とも治癒魔法の練習の合間の世間話で話した記憶もある。

 それなら自然と管理人のディーアさんと交流が増えるというのも、簡単に推測出来そうな気がするんだけど……。

 けれども私の頭の中で一つだけ、彼にちょっぴり失礼なある可能性が浮かび上がってしまった。


「……もしかしてなんですけど、ディーアさんって王宮に仲の良い人って居なかったりします?」

「クッソ失礼だな、オイ!」


 あ、やっぱり想定していた通りのツッコミをされてしまった。


「……だがまあ、見事に事実なんだよぁ、それが」

「あらまあ……」


 そして更に予想通り、ディーアさんには友達が居なかったようだ。

 そりゃそうよ。彼がお父様と話してる所を見た事があったけど、会話の感じからしてどこからどう見ても仕事上のやり取りでしかなかったし、彼を訪ねて来る人達の目当てはディーアさん自身ではなく、本についての質問や注文だったからね!

 見た目的には二十代前半ぐらいにしか見えない彼だけれど、吸血鬼ってかなり長生きするイメージがあるし、これは相当年季の入ったぼっち君なのかもしれないぞ……?


「……多分、皆ディーアさんが私に構ってくれてるのに驚いてるんだと思いますよ? 現に今だって、こうして一緒にお茶の用意に付き合ってもらってるわけですし!」

「……言われてみりゃ、それもそうか。夜食用に余った菓子をかっぱらって来る事はあったが、昼間に誰かと茶をするなんて機会、何十年も無かったかもしれねぇな」

「吸血鬼のディーアさんが昼間にお茶をするっていうのもそうですし、まだまだ新参者の私と一緒に居るっていうのも、意外すぎたのかもしれないですね〜」

「あー……」


 納得した様子で、何度も頷いているディーアさん。

 すると彼は、ぼそりと呟くような声量でこんな事を口にした。


「茶飲み友達が出来るなんざ、生まれて初めてなんじゃねーかな……」


 まさかの私、記念すべきディーアさんの初茶飲み友達の座を得てしまっていたらしいです!




 *




 大急ぎする理由も無かったので、私の短い脚に合わせてゆっくりと食堂を目指していくと、途中で会った侍女さんの言っていた通り、厨房の奥からお菓子の山を運んで来るナザンタさんの姿が目に入った。


「皆、お待たせ〜! 今日のおやつは、ボク特製の動物クッキーだよ!」


 彼の言葉通り、大皿の上にはこれでもかと茶色の塊が盛られていた。

 どこからかナザンタさんがお菓子を作るという情報を仕入れてきたらしい王宮の甘党の人達が大集合し、テーブルの周りには嬉しそうにクッキーを摘んでいく大人達の笑顔で溢れている。

 ナザンタさんの作るお菓子はどれも本当に美味しいから、彼がおやつを作る日は、こうしていつも食堂が大賑わいになるのだ。

 ……って、こんな所でボーッとしている訳にはいかなかった! 早く私とディーアさんの分を確保しに行かないと!


「す、すみませ〜ん! 私とディーアさんの分、まだ残ってましゅか〜!?」


 キャッキャと賑わう人達を掻き分けて、目当てのクッキーが置かれたテーブルの方へと進む私達。

 それを見かねて私を抱き上げてくれたディーアさんのお陰で、ようやく私はナザンタさんと目線が合った。

 ナザンタさんは私を見付けると、パッと緑色の眼を輝かせる。


「あっ、ルカちゃん! 待ってたよ〜!」

「あの、私達の分は……!」


 私の言葉に反応して、ナザンタさんがディーアさんの方をちらりと見る。


「あれ、もしかしてベルスディーアさん……?」

「……何だよ。オレが来たら悪いってのかよ?」

「ううん、そんな事無いよ! むしろ、キミがこうしてボクのお菓子を食べに来てくれたのが嬉しいんだ!」

「そ、そうかよ」


 真っ直ぐに嬉しさをぶつけるナザンタさんの眩しさに、照れ臭そうに返事をするディーアさん。

 するとナザンタさんが「ちょっと待ってて!」と言って厨房に戻ったかと思うと、すぐに両手に何かを持って戻って来た。

 一つは手のひらサイズの小袋で、もう一つは小皿に盛られたクッキーだ。


「これ、後で訓練に戻ったら兄さんに差し入れしようかなって思ってたんだけど……。最近、ご飯の時によくルカちゃんからベルスディーアさんの話を聞いてたんだ」

「お、オレの話……?」

「うん! 昨日も夕食の時に、『口は悪いけど、本当のお兄ちゃんみたいで頼りになる』って聞いてさ〜」

「ちょ、ちょっとナザンタしゃん!?」

「あ、本人に言っちゃまずかった?」

「ま、まずいっていうか……!」


 私がディーアさんの事をそんな風に言ってたって、わざわざご本人の前で暴露されるとかどんなプレイですか!? 公開羞恥プレイですかね!?

 私が大慌てしているのも構わず、ナザンタさんはニッコニコしながら話を続ける。


「まあそんな訳で、ルカちゃんと仲良くしてもらってるベルスディーアさんに、ボクからのお礼の気持ちを込めて受け取ってほしいなって思って!」

「お、おう……! 貰っといてやらなくも、ないっつーか……?」

「それでね、それからこっちの方はルカちゃんに! これはルカちゃんの為だけに焼いたクッキーが入ってる、特別なやつだよ!」


 そうして差し出されたお皿の上には、ネコちゃんやウサギさんの顔を模した可愛らしいクッキーが並んでおり……。

 その中の一つだけ、他よりも黒い色をしたクッキーが特に目立っていた。


「これって……!」


 黒いクッキーは、とても見覚えのある形──シィダをイメージしているであろう、黒い犬のクッキーが混ざっていたのだ。


「そう! ルカちゃんの分だけ、シィダくんクッキーを用意してみたんだよね。どうかな、気に入ってもらえた?」

「勿論でしゅ! すっごい可愛いれす!!」

「えへへ、喜んでもらえて良かったぁ〜! 味にもこだわってるから、二人に美味しく食べてもらえたら嬉しいなぁ」


 まさかのシィダクッキーに大興奮した私は、せっかく練習した滑舌の全てを手放す勢いで喜んでしまった。

 でもでも、こんなに可愛いクッキーを手作りしてもらったら、喜ばない訳がないじゃない!? だって私、精神年齢が身体に引っ張られてる幼女なんだもの!!


「……良かったな、ちびっ子」

「あい! すっごく嬉しいれす!!」


 想像以上に素晴らしいお菓子を手に入れてしまった私達は、食堂で用意してもらったお茶のセットを手に、ウキウキ気分で地下図書館に戻るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ