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天使すぎる転生幼女は魔族を平和に導きたい!  作者: 由岐
第7章 私、お友達が出来ました!
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戻って来た日常

 肌寒さもほとんど無くなり、植物園の草花も、庭の草木も元気にしているように感じる。

 私の義理のお父様……魔王ヴェルカズが治めるヴィオレ魔導王国で、私が初めて過ごす春がやって来た。


 誘拐事件の後、どうやら本当にスカレティア連合王国から賠償金が送られてきたらしい。

 スカレティア王子のエドがあっちの魔王様にお願いしてくれたようだけど、両国の戦争が回避出来るなら、これで良かった……のかな?

 もしもあのままヴィオレ軍がスカレティアの王都に攻め込んでいたら、一般人だって巻き込まれて、もっと大変な事になっていただろうからね……。

 でも、スカレティアの魔王様の恨みを買っていそうで、私個人としては今後が不安だったりするんだけど……。


 とはいえ、向こうの王子であるエドとの仲は良好だったりするんだよね!

 転生した私は、外見だけは見事な美少女なようなので、どうやらエドの初恋を奪ってしまったらしい。

 そのせいで……というのもアレなんだけど、エドは定期的に私に手紙を送ってくれるのだ。

 内容は子供らしく可愛いものなんだけど、所々に彼の恋心の重さを感じるというか……。




『そういえば、今日もまたどこかの令嬢から婚約の申し込みが来ましたが、勿論お断りしましたよ! ボクにはルカ以外の女の子なんて、皆ゴブリンにしか見えませんからね!』




 ……なんていう、私以外の女の子が全て眼中に無いという、ある意味でお父様よりも残酷な発言が飛び出す始末。

 私、王宮の地下図書館で勉強したんだけど、ゴブリンって魔物の中でもかなり弱い部類なんだよね。しかも見た目は気持ち悪いし、上位種でもなければ奇声を発するだけの知性しかない、凶暴な生き物という……。


 ……あの子、他の女の子が全員そんな風に見えてるってマジですか?

 いやまあ、私なんかを好きになってくれるのは……まあ、うん。お友達としてなら、素直に嬉しいかな……?

 でもエドにとっては、私への想いはガチ恋みたいだからなぁ……。

 大人になったら改めて婚約を申し込むなんて言われちゃったけど、それまでに私よりもっと素敵な女の子に出会ってくれると良いんだけど。

 私にはちょっと……エドの愛は重すぎるので……!


「……あ、そろそろお仕事の時間だ! 行くよ、シィダ!」

「キュウン!」


 私の呼び掛けに応えて、シィダが尻尾を振りながら元気に吠える。

 今日も自慢の黒い毛並みがツヤツヤと輝いていて、シィダの主人として鼻が高い。


「それと……ティズしゃんも!」

「はい、姫様」


 それに続いて、ティズさんが穏やかに微笑みながら返事をしてくれた。

 ……そう。元々スカレティアの騎士だった彼は、エドとお父様、それぞれから許可を得て私の警護にあたってくれる事になったのだ!


 王家に仕える騎士としてそれはどうなの? と思われるかもしれないけれど、エドとしては『ルカはボクの未来のお嫁さんになる相手なんですから、それぐらい当然の事では?』との事でした。

 ……はい、平常運転で重いです。


 とはいえ、ティズさんがいつも側に居てくれるのはありがたい面もあるんだよね。

 ティズさんが来るより前は、ムウゼさんとナザンタさん、それとエディさんの誰かが手が空いている時に身の回りのお世話をしに来てくれていた。

 けれどもムウゼさん達は近衛騎士団の団長と副団長だし、エディさんは軍師としての仕事がある。色々と忙しいであろう彼らの手を借りるのは、以前からちょっと心苦しい所があったんだよね……。


 けれどもティズさんは、初めから私の身辺警護が業務だからね。いつも彼が一緒に居てくれるから、困った事があればいつでも頼りに出来るのだ。

 私専属の護衛であり、お世話係でもある……って感じかな?

 まあ、エディさんとナザンタさんは特にめちゃくちゃ反対してたけど、お父様がそれで良いって言うもんだから、渋々応じてた。


 でも実の所、私の誘拐事件があってから警備の強化をしたり、王宮を出入りする人の検査なんかを厳重にしなくちゃいけなかったりで、彼らが本来の仕事に集中出来ている部分もあるんだよね。

 あんな事件がそう何度も起きるとは思えないけれど、私以外の人が狙われる危険性だって、ゼロじゃないんだもん。なるべく早く対策出来るなら、それに越した事は無いからね!




 食堂で朝食後のお茶を済ませた後、私はシィダとティズさんと一緒に、植物園の方に向かっていく。


 シィダはあの事件の時に、酷い火傷を負ったらしい。

 けれどもお父様が用意していた薬のお陰ですっかり治っていた。

 私は王宮に帰ってから、私は何度も何度もシィダに謝った。私のせいでシィダがエルヴィスに攻撃されてしまったし、シィダがあれだけ必死に威嚇してくれていたのに、エルヴィスの気配に気付けなかったから……。

 もっと私が神経を研ぎ澄ませていれば……もっと私が魔法の訓練に打ち込んでいたら、シィダに痛い思いをさせなくて済んだはずだった。

 それでもシィダは、情けないご主人でごめんね……とボロボロ泣き喚く事しか出来なかった私の頬を、優しく舐めて慰めてくれた。

 こんなに可愛くて健気な仔の為にも、もっと立派なご主人になろう──そう強く決意した瞬間だった。



 あの時私達がエルヴィスに襲われた通路の曲がり角を曲がれば、すぐに植物園が見えてくる。

 すると、ガラスのドームの向こう側に明るいピンク色が見えた。リーシュさんの髪の色だ。


「リーシュしゃん、おはよーごじゃいます!」


 植物園の扉を開けて挨拶をすると、リーシュさんがジョウロを持つ手を止めて、こちらに振り返る。

 その拍子にふわりと軽く揺れるロングスカートが、まるで陽の光を受けて開く花のように美しい。


「おはよう、ルカ。それにシィダと……ナイト君も、おはよう」

「おはようございます、エウラリーシュ様」


 ナイト君……というのは、リーシュさんがいつもティズさんを呼ぶ時のあだ名のようなものだ。

 私に付きっきりで護衛をしているから、ナイト君。うん、シンプルですね!

 しかしリーシュさんは、眉をひそめてこう言った。


「だから……ここではあたしは、ただの植物園の管理人なの。呼び捨てにしてくれて構わないって、何度言わせれば分かってくれるのかしら?」

「……ですが、やはり俺にとって貴方は、スカレティアの王女殿下ですので」


 ティズさんにそう返されると、リーシュさんは小さく溜息をついた。


「……じゃあ、これは王女命令よ。あたしの事は、呼び捨てにしなさい。そうしなければ、貴方は植物園に出入り禁止だから」

「で、出入り禁止ですか……!?」

「そうよ。ルカから離れる訳にはいかないんでしょう? それならどうすれば良いのか……分からない貴方じゃないわよね?」

「くっ……」


 ……リーシュさん、王女様扱いされるのが嫌なんだなぁ。

 私は深く知らないけれど、彼女は元々スカレティアの第一王女だったのに、今はヴィオレの王宮で植物園の管理人をしている。

 スカレティアの魔王様がヤバい人だっていうのはこの前の事件である程度察したけど、王女様であるはずのリーシュさんが逃げ出すような親だったんだよね……。

 王女の立場を捨ててまでここに来たっていうのに、こうしてティズさんに王女として扱われると……そりゃあ、そういう反応になりますよ。


 ティズさんは普段そんなに表情が変わらない人なんだけれど、今はものすごい葛藤しているのが分かるくらい、深刻そうな顔をしている。

 まるで、誰か人質にでも取られているみたいな……。顔色も真っ青だ。


「……承知、しました……」

「じゃあ、今すぐ私を呼び捨てにしてみて」

「…………」

「ほら、早くなさいよ」

「…………………………はい、エウラリーシュ」


 とても長い間を置いて、絞り出すように彼女の名前を口にしたティズさん。

 そんな彼を見て、ようやくリーシュさんは満足そうに頷いた。


「よく出来ました。……あ、そうそう」


 と、一世一代の決断でも下したような大量の汗をかいているティズさんからあっさりと視線を外した彼女。

 私はそれに思わず苦笑するも、何も気にしていない様子のリーシュさんは、私に一枚のメモを差し出してきた。


「この前頼んでおいた本がそろそろ届いている頃だと思うから、今日中にこのタイトルの本を借りて来てもらえないかしら? 図書館の管理人さんにこのメモを見せれば、すぐに渡してくれると思うから。お願い出来る?」

「ディーアしゃんでしゅね? 分かりまちた!」


 ディーアさんというのは、この王宮にある地下図書館の管理人さんだ。

 ちょっと……いや、結構付き合いにくいタイプの人ではあるんだけど、仕事はきっちりやる魔族のお兄さんなんだよね。

 ……ていうか、この王宮の人達ってかなりキャラが濃いのでは? お父様、どういう基準で採用してるんです??


 私はメモを受け取り、しっかりとポシェットに仕舞った。

 そうそう、このポシェットは自分のお給料で買った物なんだよね!

 リゼーア商会に頼んでおいた私の服一式が届いた時、王宮に来ていたアレカさんにおすすめされて買っちゃったのだ!

 手ぶらだと、こういうおつかい……じゃなくて、お仕事を頼まれた時に困っちゃうからね。防水加工もバッチリだから、うっかり水を零しても心配要らず! 幼女にも使いやすくて安心ですね!


 その後はいつも通りに仕事をこなして、お昼前に早めに仕事が片付いた。


「今日はもう、早めに終わりにしましょうか。……でも、お昼にするにはまだ早すぎる時間帯ね」

「それじゃあわたち、ご飯の前に図書館に行ってきましゅ!」

「そう? それならあたしは、その間に魔王様に頼まれていた薬草棚の整理でもしておこうかしらね……」


 薬草棚っていうと、お父様の研究室の隣にある部屋のだよね?

 あそこには乾燥させた様々な種類の薬草が保管してあるらしいから、在庫の管理とかもあるんだろうなぁ……。


「じゃあ、ディーアしゃんから本を借りてきたら、お届けに行きましゅね!」


 ついでに、棚の整理のお手伝いも……私にもやれそうなら、チャレンジしたいし!


「ええ、そうしてもらえるととても助かるわ。……それじゃあシィダとナイト君、ルカの護衛は頼んだわよ?」

「キュ!」

「勿論です、エウラリーシュさ……エウラリーシュ」

「……ギリギリセーフでしゅかね?」

「かなりアウト寄りではあるけれど……。まあ、今日の所は許してあげましょう。それじゃあ、気を付けて行ってらっしゃいね」

「あーい!」


 ティズさんがまだ呼び捨てに慣れてないのはひとまず置いといて……。

 さあ、地下図書館に向かいますか!

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