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天使すぎる転生幼女は魔族を平和に導きたい!  作者: 由岐
第6章 動き出す世界
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炎のように鮮烈な

 私とお父様、そしてエドとリーシュさんを乗せた魔馬車は、激しい炎が巻き上がるそこから逃げ出すように飛び立った。

 エディさんの事は心配だけれど、お父様は何も不安に思っていないらしい。……それなら私も、お父様のように堂々としていようと思う。

 私達の仲間は……エディさんは、エルヴィスなんかに絶対負けないんだから!


 そして魔馬車は王宮を離れ、スカレティアの王都上空を旋回しているようだった。

  遠くの空に、カラスの群れのような黒点が、いくつも浮いているのが見える。しばらくしてその黒点が近付いて来ると、それはヴィオレの旗を掲げた魔馬車だったのが確認出来た。

 同じ方角から見える地上を歩く大勢の人々も、きっとエディさんが率いてきたヴィオレ軍の人達なのだろう。

 彼らは王都を囲む高い壁の前で進軍を止め、様子を窺っているようだ。多分お父様かエディさんが命令すれば、彼らが王都になだれ込んで来るのだろう。


 ……出来る限り、余計な戦闘は回避したい。

 ここで無事にエドとの話し合いを終えて、彼を王宮に返して、私達もヴィオレに帰る……。そうすればきっと、今回の事件が戦争に発展する事は無いと思いたい。

 私はお父様の義理の娘で、未来の魔王。

 お父様の魔界統一の夢は叶えてあげたいけれど、私は可能性な範囲で穏便に統一を目指していきたいのだ。


「それで……姉上。ボクに話というのは、何なんですか?」


 最初に口火を切ったのは、エドだった。

 彼は魔馬車から見えるヴィオレの軍勢を目視すると、先程までより顔色を悪くしていた。

 下手をすれば、自分の国の王都を巻き込んだ戦争が勃発する寸前なのだ。私だって多分、顔が青褪めているはずだもんね。


「エドゥラリーズ……貴方は、どうしてルカがスカレティアに連れて来られたのか、父様から聞いている?」


 父様というのは、エドとリーシュさんの父──このスカレティア連合王国の魔王の事だ。

 ……未だに二人が姉弟だったというのに驚きを隠せないけれど、二人は髪も目の色も同じ。逆にどうして今までこんな特徴に気が付かなかったのかと、自分にツッコミを入れてやりたいぐらいだった。


「……はい。ルカはボクの婚約者になったので、これから一緒に王宮で暮らす事になったと……聞いています」


 それを聞いて、隣に座るお父様の魔力が少し漏れ出したのが分かった。

 これは確実に、今の発言でイラッときた証拠だ……!

 それは魔王の子であるエドにも伝わっていたようで、彼はビクッと肩を跳ねさせていた。

 するとリーシュさんは、深く溜息を吐く。


「やっぱりね……。母様との結婚だって、優秀な子供を残す為だったんだもの。息子にだって同じ事をさせるに決まっているわね」

「で、ですが姉上……。それのどこがいけないんですか? 優秀な子供を産む事は、国の繁栄に繋がります! ボクもルカがとても素晴らしい魔力を持った女の子だというのは理解していますし、こんなに素敵な女の子がボクのお嫁さんになってくれるなんて、夢みたいだなって──」

「それは、相手を誘拐してまで成し遂げなければならないものなの?」

「えっ……ゆう、かい……?」


 言葉を遮ってリーシュさんが放った質問に、エドはその青い瞳をまん丸にして固まった。


「ルカはね……ヴィオレの王宮から、転移魔法でスカレティアに誘拐されたのよ。ルカ本人には勿論、保護者である魔王ヴェルカズにも、婚約の申し入れすらなく、突然ね」

「そ、そんな……事って……」

「……それでも貴方は、ルカとの婚約を本気で喜べるのかしら?」

「…………」

「貴方が少しでも、彼女の事を大切に思っているのなら……。この子の気持ちを、よく考えてみてほしいのよ」

「ルカ……」


 ぽつりと私の名前を呟いて、エドは私の顔を真っ直ぐに見詰めてくる。

 彼は、まだまだ子供だ。

 けれども、中身が大人の私にも負けないぐらい利発な子だと思う。かなり偏った思想の持ち主ではあるけれど、残虐な性格でもないし、根っからの悪人という訳ではないはずだ。


「教えて下さい、ルカ……。ボクの父上は……本当に君を、無理矢理ここに連れて来たんですか……?」


 声を震わせて問い掛けてきた彼に、私はこくんと頷く。

 するとエドはまた目を大きく見開いて、その瞳が潤むのが分かった。


「正確には、わたちを連れて来たのはエルヴィスでしゅけど……。エドのお父しゃんがそう命令したのは、間違いないと思いましゅ」

「……っ、本当に……そう、なんですね……」


 それを聞いて、エドはとうとう俯いてしまった。

 両手を脚の上で固く握り締め、その手の甲に、ぽつぽつと雫がこぼれ落ちていく。

 私はそんな彼の姿を見ていられなくなって、視線を窓の外に移した。


 声を詰まらせて泣くエド。

 私達はしばらく彼をそのままにさせて、時折王宮の方から爆炎が上がるのを見ながら、黙って時を過ごした。




 しばらくして、エドが呟く。


「……ごめんなさい、ルカ。ボクはずっと、とんでもない勘違いをしていたんですね」


 彼に視線を向けると、エドの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。


「優秀な相手と結婚して、子供を残す事……。それはきっと、ルカにとっても幸せな事なんだと思っていました」


 でもそれは、ボクの父上にとっての幸せだったんですね。

 そう、エドは言葉を続けた。


「ルカが転移魔法の事を知りたがったのは、自分の家に帰りたかったから……。ボクがもしルカと同じ立場だったら、ボクもスカレティアに帰りたいと思ったはずです。……母上から離れるのは、寂しいですから」

「エド……分かってくれたんでしゅね」

「はい……。相手の立場になって考える……というのは、国を導いていく魔王に必要な事ですからね……!」


 そう言って、エドは涙を拭いながら笑うのだ。

 やっぱりこの子は、賢くて優しい男の子だったんだね。

 周りの大人が押し付けた価値観のせいでこうなってしまっただけで、エド自身は立派な王様になる素質のある子だったんだ。


「……迷惑を掛けてしまってごめんなさい。それに……そちらの方は、ヴィオレの魔王様……なんですよね?」

「……ああ」

「今回の件について、ボクから父上にきちんと報告を上げます。謝罪の品や、軍をこちらまで動かさせてしまった賠償金も、しっかりとお支払いするよう促します」


 ば、賠償金……!?

 私とそんなに歳が変わらないはずなのに、エドったらそんな事まで勉強してるの!?

 ……わ、私、本当に魔王としてやっていけるようになるのかなぁ。めちゃくちゃ不安になってきたんですけど!


「それから……魔王様に一つ、確認したい事があるんです」

「申してみよ」

「ボク……姉上に言われた事をよく考えて、改めて分かったんです。やっぱりボクは、ルカの事が好きなんだなって!」

「…………は?」


 目を見開くのは、今度は私達の方だった。


「父上に決められた婚約者だったからじゃなく、ボクはボク個人として、ルカという一人の女の子の事が好きになりました」

「ま、待ってよエド! そ、その好きって、どういう意味の好きなんれす!?」

「ふふっ……友達として、じゃありませんよ? ボクの未来のお嫁さんとして、君という女の子が大好きになりました!」


 エドはさっきまで泣き崩れていたのが嘘だったかのように、大輪の花が咲き誇るような笑顔で『大好き』だと告げてきた。

 私はまさかの展開に顔が熱くなり、反対にそれを聞いていたリーシュさんの顔は青くなり……。


 そして、お父様はというと……。


 牛乳を拭いて放置された雑巾でも見付けてしまったかのような苦々しい形相で、エドの事を睨み付けていた。


 それでも構わず、エドは私への愛を語り続ける。


「いつかボクが大人になったら、改めて君に婚約を申込みます! 今よりもっと背が伸びて、父上よりも逞しい男になって、どれだけ献上品を積まれても、ルカ以外の女の子からの婚約なんてぜーんぶお断りしますっ!」


 ……やっぱりこの子、かなり偏った思想をしてますね!?

 一歩でも間違えばヤンデレ監禁ルートに突入しかねない、そんな溺愛っぷりを感じて仕方が無いんですが!!


「ボクにとって、ルカは世界でただ一人の特別な女の子なんです。きっと……いいえ。絶対に今より良い男になって、ルカにもボクを大好きになってもらえるような、最高の魔王になってみせます! だから、ヴィオレの魔王様……その時は是非、ボクとルカの婚約を認めて下さいねっ!」

「……っ、その前に、我が軍が貴様の国を滅ぼしてくれるわ!!」

「あははっ! お義父様ったら、冗談がお上手ですね〜!」

「誰が貴様のお義父様だッッ!!」

「ボクとルカの結婚式には、是非姉上も来て下さいね!」

「もう、エドゥラリーズったら……」


 ……でもまあ、ひとまずエドが元気になってくれたのは良かったのかな?

 また新たな戦争の火種が生まれた気がしなくもないけど……これでエドとはちゃんと仲良くなれたって事で良いんだよね? うん、良いって事にしておこう!

 リーシュさんも何だかんだ幸せそうだし、今回の誘拐事件はハッピーエンドで終わりかな?


 後は……エディさんの事だよね。

 窓の外を見下ろすと、さっきまで騒がしかった爆発音が、いつの間にか止んでいた。

 少し目を離していた隙に、王宮の一部が派手に崩壊している。あれをやったのは、エディさんかエルヴィスか……どちらなんだろう。


 すると、エドと激しく言い争って(一方的にかな?)いたお父様が、


「……エディオンが呼んでいる」


 と呟いた。

 どういう理屈なのかは分からないけれど、エディさんから戦いの終了の報せが届いたらしい。




 *




 ティズさんに魔馬車を元の場所に着地させてもらうと、そこは飛び立つ前と一変していた。

 他の魔馬車は魔馬ごと巻き込まれたらしく、全て焼き尽くされていた。……下手に焼け残ったものが残っていなくて、良かったかもしれない。


「随分と派手にやったようだな」

「おう、ヴェルカズ。待たせたな」


 既にそこには、エルヴィスの姿はなかった。

 騒ぎに駆け付けたスカレティアの王宮兵や騎士達は、私達と仲良さそうに魔馬車を降りて来たエドの姿を見て、動揺しているようだ。

 それもそうだ。ヴィオレとスカレティアは敵国で、ヴィオレ軍がすぐそこまで来ている状況。それなのに、お父様とエドが平然としているのを見て驚かないはずがない。

 ……まあ、お父様は内心苛立(いらだ)っていると思うけどね!


「エルヴィスは……取り逃しちまった。すまねえ」

「彼奴の逃げ足が速いのは、今に始まった事では無かろう。それより、彼奴がスカレティアの魔王に近付いた目的は分かったか?」

「ルカの誘拐を条件に、何かを取引した……ってのは聞き出せたが、それ以上はよく分からなかったぜ」

「ふむ、やはりか……」


 そういえばエルヴィスは、ティズさんを助けに行った地下牢で、スカレティアの魔王と取引をしたって話してたっけ……。

 その報酬は既に受け取ったから、エディさんとも一線交えて満足して逃げていった……って事なのかな?

 それならもう、あんなおっかない人とは二度と会いたくないんですが……!


「……その報酬とやらは気に掛かるが、ルカは無事に保護出来た。こちらでスカレティアの王子とは話を付け、今回はスカレティアからの賠償金を受け取る事で合意した」

「ほ〜う? 俺様はてっきり、お前さんが王都を火の海にしてから帰るもんだとばかり思ってたぜ」

「次代のスカレティア魔王は、今代より扱いやすいようだからな。利用価値があるうちは、生かしておいてやるというだけの事よ」


 ああ……。私が居れば、エドが言いなりになってくれそうって事ですね。分かります。



 そうして私達は、エドに見送られてヴィオレ魔導王国へと帰還した。

 そして何とエドは、未来の婚約者である私を護る為にと、スカレティアの騎士であったティズさんを派遣する事にしたのである。

 ティズさんとしても今回の事件に負い目があったようで、罪滅ぼしとして命を懸けて私を護ってみせると、騎士の誓いを立ててくれた。

 ……うん、やっぱりエドって私への愛がやけに重いね! ティズさんも相当だとは思うけど!!


 ……それにしても、スカレティアの魔王も王妃も姿を見せなかったのは、どうしてなんだろう?

 エドの話だけでしか判断出来ないけど、彼の父親ってかなり好戦的な印象があったんだけどなぁ。


 とにかく、帰ったらシィダをいっぱい甘やかしてあげなくちゃね!

 私の事を護ろうとして怪我してたっていうし、心配してるはずだから……。

 ああ、早く王宮に帰りたいよ〜!




 *




 ルカの乗った魔馬車を見送った後、ボクは今回の件を父上に相談しなければと思い、急いで父上に会いに向かった。


 ……けれど、父上は居なかった。

 王宮のどこにも、父上の姿が無かったのだ。


 その代わりとでも言うように、母上が寝室のベッドに寝そべっていた。

 スカレティアの国旗に描かれた炎のように、真っ赤な血で染まった、物言わぬ母上が。



 ……そうしてその日から、ボクは代理のスカレティア魔王となった。



 それは、父上が見付かるまでの臨時措置。

 補佐には先生がついてくれると言っていたけれど、不安は尽きない。


 どうして父上が居ないのか。

 どうして母上が殺されているのか。

 そして、何も言わずに王宮を出て行ったエルヴィス。


 状況から考えて、怪しいのはエルヴィスだ。

 けれども証拠も無いし、彼がどこに行ってしまったのかも分からない。

 父上がエルヴィスと取引をしていた、というのはヴィオレのお義父様が言っていたけど……。その取引と、両親の事が関係しているのだろうか?


 ……とりあえず、この事はお義父様にも報告しておこう。

 ひとまずルカには伝えないようにしてもらって、ティズにはもっと死ぬ気でルカを護ってもらうようにしないと。

 そうだ……姉上にも、一応母上の事は伝えておいた方が良いのかな? だけど……。


「母上……母上は、どうして殺されなければならなかったんですか……?」


 母上の葬儀の準備に慌ただしくなる王宮で、ボクはルカが帰っていった北の方角を、窓から見詰めていた。


「母上……ボクは、強い男になれるでしょうか……」


 そうしてボクは、ただひたすらに父上の無事を祈った。

 どうか、ボクの家族がこれ以上居なくならないで……と。

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