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天使すぎる転生幼女は魔族を平和に導きたい!  作者: 由岐
第6章 動き出す世界
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怒りの導火線

 ティズさんを助け出す為に、私とお父様は王宮探索を開始する。

 お父様の掛けてくれた魔法のお陰で、他の人達には私達が話す声は聴こえない。

 ……とは言え、それでもちょっと不安になってしまうのは仕方がないよね。元々暮らしていた日本には魔法なんて無かったから、未だに半信半疑な部分があるっていうかさ。


 不意に、お父様が廊下の曲がり角で脚を止めた。

 後をちょこちょこと着いていた私も立ち止まり、お父様の顔を見上げる。


「ティズを連れて行ったのは、本当にエルヴィスという名の男だったのだな?」

「あ、あい……! 間違いないでしゅ」

「……そうか。ならば、向かうべきは人目に付かない場所であろう」


 そう告げると、お父様は再び歩き始める。

 お父様は階段を見付けると、何の迷いも無く私を抱き上げた。そのまま段差を降り続け、どんどん下の階へと向かっているようだ。

 うわー、お気遣いありがとうございます……! 手脚の短い幼児体型だから、自力で降りようとすると時間が掛かるからね……。

 今は一刻を争う事態だし、されるがままに運んでもらうに限るね。


 そういえば、どうしてお父様はエルヴィスが人目に付かない場所に居るって分かるんだろう?

 ……いやまあ、ちょっぴり心当たりはあるんだけども。



 浅黒い肌に、真っ白な髪。

 炎と氷が入り混じる、強烈な魔力。

 眼帯はしていたけれど、残った片目の色は鮮やかな紅色をしていた。


 ……そんなエルヴィスと全く同じ特徴を持った人が、私達の身近に居る。


 聞いちゃっても……良いのかな?

 お父様ならきっと、私が感じている疑問の答えを知っているはず。

 もしも私の予想が正しいのなら、私はエルヴィスに対してどんな態度を取れば良いのか……。


 ……うん。

 やっぱり、気持ちの整理を早くつけた方が良い気がする。

 エルヴィスが私やお父様──ヴィオレ魔導王国の敵であるのなら、私にとって彼も敵という事になる。だって私は、曲がりなりにもヴィオレの次期魔王という立場なんだから!

 元の世界に戻れるのかは分からないけど、私はまだまだ、この世界で生きていかなくちゃならないんだ!


 これは、単なる私個人のワガママでしかないかもしれない。

 それでも……私は、私を大切に想ってくれている人達の味方でありたいから……!!


「……お父しゃま」

「どうした、ルカ」


 私が声を掛けると、お父様は階段の途中で立ち止まる。


「……何やら、険しい顔をしておるな」


 自分では意識していなかったけれど、どうやら不安が表情に出てしまっていたらしい。


「あのエルヴィスって人……もしかちて、エディしゃんの……」


 自然と声が震え、言葉に詰まってしまう。

 けれどもそのお陰というべきか、お父様は真剣に私の話を聞いてくれた。


「……エディしゃんの、家族なんでしゅか?」


 お父様は少し黙り込んだ後、再び階段を降り始める。

 そして小さく息を吐き出してから、口を開いた。


「……エルヴィスは、同じ血を分けたエディオンの弟だ」


 やっぱり……そう、だったんだ……。

 初めて会った瞬間から、そうなんじゃないかとは思っていたけれど……。


 それからお父様は、淡々と二人の関係を説明してくれた。


「エディオンとエルヴィスは、雪人狼の母と、炎の悪魔の父との間に生まれた子らだ。今は長男であるエディオンが家督を継ぎ、炎の悪魔を総べる貴族としての立場にある」

「二人は、兄弟だったんれすね……」

「昔は仲の良い兄弟であったそうだが……ある日を境に、エルヴィスは人が変わったように凶暴な性格になったのだという。より強い力を求め、実力を示す為ならば、奴は同族に手を掛ける事も厭わなかった」


 それって、同じ悪魔の人達を殺した……って事、だよね……?


 魔族は基本的に長命な種族だっていうし、中でも悪魔族は上級魔族に含まれる。魔族として上の位置付けにある程、寿命が長い。

 そんな悪魔族であるエディさんが家を継いでいるって事は、先代であるエディさんのお父さんは、もう……。


「間も無くしてエルヴィスは故郷を追放され、残ったエディオンが新たな当主となった。それから我が軍で頭角を現し、エルヴィスらしき者の目撃情報があれば、彼奴を止める為に探しに向かっていた。……エルヴィスは故郷から追い出されても、変わらずに殺戮を繰り返していたからだ」

「そんな……!」


 絶対にやばい奴だっていう直感はあったけど、自分の力を試す為だけに他人の命を奪うだなんて……!

 そんな弟を止める為に、エディさんは昔からずっとエルヴィスを追っていたんだね……。

 もしかしたらエディさんが色んな場所に放浪していたのって、旅が趣味なんじゃなくて、エルヴィスを探す為だったのかも。


 すると、階段を降り終えたところで、お父様が私を下ろしてくれた。


「……以前、お前がムウゼとナザンタと共にゼストの町跡へ向かった事があっただろう?」

「あ、あい! お父しゃまに、パーポポの根っこと花びらの採取を頼まれていた時でしゅよね?」

「あの後、ムウゼから異常な魔力反応と殺気を感じたという報告を受けてな。ゼストはヴィオレの最南端……つまり、スカレティアとの国境に近い土地だ。今思えば、その魔力反応は偶然居合わせたエルヴィスのものであったのやもしれぬな」


 そういえばあの時、いきなりとんでもない殺気を感じたんだった……!

 襲われたりする事は無かったけど、もしかしたらあの場で、エルヴィスとムウゼさん達が戦う事になっていたかもしれなかったの……?


 ……それか、もしも一緒に居たのがエディさんだったとしたら、問答無用でバトルが勃発していたかもしれないね。

 エディさんは弟を止めなきゃいけないし、エルヴィスはエディさんに嫌がらせしたくてたまらないみたいだったからさ。

 ある意味、私は命拾いしていたのかも……。



 改めて手を繋ぎ直し、歩き始める私達。

 途中で王宮で働いている侍女さんとすれ違ったり、忙しそうにしている騎士さんを見掛けた。

 お父様の魔法は、本当に効果が出ているらしい。こうして堂々と会話しながら歩いていても、相手にぶつかったりしなければ全く気付かれる様子が無かった。


 お父様が進んで行く方向は、どんどん人通りが少なくなっているようだった。

 残虐な性格をしているエルヴィスが、人目を避けてティズさんを連れて行ったとなると……地下牢とかかな?


 私の予想はまたしても的中していたらしく、お父様が辿り着いたのは、更に地下へと続く階段だった。

 ティズさんに酷い事をしないで、とは言ったけれど……どこまで約束を守ってくれているかも分からない。何しろ相手は、実の親の命を奪うような男なのだから。


 自然と、お父様と繋いだ手に力が入ってしまう。

 そんな私の小さな手を、お父様が改めて握り直してくれる。


「……安心しろ。お前だけは、この父が守り抜く」

「……あい、お父しゃま!」


 互いに頷き合い、更に全身を強力な魔力のヴェールが覆うのを感じた。お父様が、防御の結界魔法を重ね掛けしてくれたのだろう。


「この先から、強い魔力を感じる。何があっても、私から離れてはならぬぞ。良いな、ルカ?」

「あい……!」


 私がそう言うと、お父様は私を片腕で抱えた。

 エディさんやムウゼさんに比べると細身だけれど、ローブの内側から、お父様の腕の筋肉をしっかりと感じ取れる。

 こうしておけば、階段を降りている最中に何かがあったとしても、空いた片手で魔法をコントロール出来るからなのだろう。



 声と姿は魔法で消せても、階段を降りる足音までは消しきれない。

 私を抱えたお父様は、慎重に石段を降りていく。

 幸いにも途中でエルヴィスに勘付かれる事もなく、無事に階下に到着する事が出来た。


 暗い地下には空っぽの牢屋が並んでおり、私達は一番奥の牢屋の前で立ち止まる。

 その中にはやはり、ティズさんが囚われていた。

 彼は両手首が鎖に繋げられており、ぐったりと顔を下げている。

 そしてそこには、白く長い髪の男──エルヴィスの後ろ姿もあった。


 すると、急にエルヴィスが口を開いたではないか。


「……臭う……臭うなァ……?」


 こちらの姿は見えていないはずなのに、振り向いてくるエルヴィス。

 紅い隻眼は愉快そうに細められ、同様に口元にも笑みが浮かんでいた。


「そこに、二人居るだろォ……。一人は知ってる匂い……王子の婚約者ちゃんだ。もう一人は……ああァ……美味そうな魔力の匂いがするなァ……?」


 言いながら、エルヴィスは右手に魔力を集中させ始める。ああして魔力を溜めて、何らかの魔法を発動させようとしているのだろう。

 その声に反応して、ゆっくりとティズさんが顔を上げた。

 ティズさんの首元には、エルヴィスに強く掴まれた際に残ったであろう赤い跡が残っている。彼にもこちらの姿は見えていないから、私を探そうと視線を動かしているのが分かった。


「ひでーなァ……。オレサマちゃんはちゃーんと約束を守ってやろうとしてたってのに、婚約者ちゃんの方から裏切ってくるなんてよォ。悲しくて悲しくて、泣けてきちまうぜェ〜?」


 すると、私達の身体を覆っていた魔力が一つ……いや、二つ無くなる感覚がした。

 それに続いて、お父様が口を開く。


「我が娘は、誰の婚約者でもない。娘は返してもらうぞ。……ついでに、そこの囚われの騎士もな」

「へェ〜……! わざわざヴィオレの魔王サマが、一人でこんな所までノコノコとお迎えに来たのかい?」

「姫様……何故、こんな所へ……!?」


 さっきのあの感覚……。

 あれはお父様が、私達の声と姿を消す魔法を解除した感覚だったのだろう。

 その証拠に、彼らの視線は間違いなく私達に向けられていた。

 エルヴィスからは、お父様に向けられた好奇心が。ティズさんからは、私に向けられた困惑の込められた視線が注がれているようだった。


 私はついさっきお父様に言われた言葉を思い出し、絶対にお父様から離れないようにと、お父様のローブを強く握り締める。


「各地を流れ歩いていた貴様が、知らぬ間にスカレティアの手駒となっておったとはな」

「別に、スカレティアの魔王サマに特別思い入れがあるワケじゃねェよ? 忠誠なんか誓っちゃいねェ……。単なる取引さ」

「ほう……? それが、我が娘を拐った事に関係していると?」

「まあね? ちょいと欲しいモンがあったからさァ〜」


 お父様とエルヴィスの会話は、胃がキリキリするようだった。

 ……というよりも、お父様から感じる圧が凄いのだ。

 エルヴィス個人の思惑のせいで、こうして私が巻き込まれる形になったのが不快なのだと思う。その怒りを間近で感じていると、自分に向けられたものでなかったとしても、緊張感が尋常ではない。

 しかし、それが向けられているエルヴィスはどこ吹く風だ。


「それよりも、さ……。アイツ、ここに向かってきてんだろ?」


 アイツ……というのは、兄であるエディさんの事だ。

 エルヴィスは私を拐ってくる事で、スカレティアの魔王から何かを受け取った。

 そして、私がヴィオレの王女であるせいで、軍師であるエディさんもこの件に無関係ではいられなくなる。

 ……エルヴィスは、エディさんに追われるだけでは満足出来なくなったという事なのだろうか?

 異常者の考える事なんて、いくら私が想像しても理解が追い付かないだろうけれど……。


「オレサマちゃんとしては、そのコが王子サマとどうなろうが、もうどうでも良いんだァ〜。報酬はもう受け取っちゃってるからねェ」

「ならば、今すぐその男の身柄も受け渡せ」

「それはムリな相談だぜ、魔王サマ! 今そのコを返しちまったらさァ……エディオンの野郎に、無様な思いをさせてやれなくなっちまうだろうがよォォッ!!」


 エルヴィスはそう叫ぶと同時に、溜めていた魔力を解き放った。

 その魔力は爆炎となって膨れ上がり、地下牢を丸ごと焼き尽くすかのような炎が巻き上がる。


 けれどもお父様の結界は、その熱を一切通さず遮断した。

 火傷なんて勿論、ほんのり暑さを感じるような事もない。完璧な防御結界だった。

 その結界はいつの間にかティズさんにも張られていたようで、爆発の影響は牢屋の鉄格子や、壁や床を吹き飛ばした程度。


「……っ、鎖が……!」


 どうやらエルヴィスの魔法で鎖が壊れたらしく、両手が自由になったティズさんが急いで牢屋を飛び出して来た。

 まだ彼の手首には手錠が残っていたけれど、今はとにかくここから脱出する事が最優先だ。


「あァ〜あ……。いけねェ、やりすぎちまったかァ……」


 急激に魔力を消費した反動なのか、しばらくその場から動けずにいるエルヴィス。

 そんな彼を置いて、お父様はティズさんに階段を登るように視線で促した。

 ティズさんは頷き、一足先に階段を駆け上がっていく。


 するとお父様は、地下牢から階段へ続く道を塞ぐように、魔法で石の壁を作り出す。


「大した時間稼ぎにはならんだろうが、無いよりは幾分かマシではあろう」


 そう言って私を抱きかかえたまま、お父様はティズさんの後を追っていく。


 階段を登りきったところで、ティズさんが待機していた。

 彼は、お父様に深く頭を下げる。


「ヴィオレ魔王陛下……窮地をお救い頂き、どのように感謝を述べれば良いものか……!」

「礼ならば、無事にこの場から脱した後、気の済むまでいくらでもルカに言えば良い。……それよりも、一刻も早くここから離れるぞ」

「はっ……ごもっともでございます」

「ルカに聞いたが、貴様はスカレティアの騎士であったな。であれば、魔馬車を置いている場所は知っているか?」

「はっ、存じ上げております。俺が先導致します。どうぞこちらへ!」


 そう言うと、ティズさんは急いで走り出した。

 お父様も私を抱えて、彼の後に続く。勿論、今度は三人分の声と姿を感知出来なくさせる魔法を掛け直して。



 しかし、そのすぐ後──



 地下階段があった方角から、大きな爆発音がした。


「この音の規模は……地下ごと爆破し、我らの跡を追って来ているか……?」


 それってもしかして、エルヴィスが一階の床をぶち抜いたって事ですかね……!?

 炎の悪魔の血を引いていると、そんなに強力な爆炎も操れるようになるんですね……。

 しかも、そんな相手に追われてるって事なんだよね……!?


 早く……早く魔馬車に乗って、ここから逃げ出さないと……!!

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