魔族の子供
「ん……うぅん……?」
ものすごい眠気が残る感覚の中、私は少しずつ意識を覚醒させていく。
ええと……私、お昼寝なんてしてたっけ……?
そう思いながら目を開けると、知らない部屋の匂いがした。それに、見知らぬ部屋のベッドに寝かされていたらしい。
「……ここ、王宮じゃない……よね」
正確には、お父様の王宮ではないけれど、高級そうな家具が置かれた部屋に居た。
私、この世界で何回見知らぬ部屋で目覚めれば良いんですかね?
そんな自問自答をしながら、私は眠る前に起きた出来事を思い出していく。
……そうだ。今日は午前中はお休みで、その間はシィダと一緒に王宮を散歩していたんだよね。
その間に調べ物をしようと思い至って、図書館へ行こうとした矢先に──傭兵のティズさんに再会したんだ。
それで、シィダがずっとティズさんに向かって吠えていて、一旦部屋に戻って落ち着こうと思ったら……。
「ティズさんに、眠らされた……」
そうして連れて来られたのが、どうやらこのふかふかベッドの上だったらしいけど……。
……くそぅ、無駄に良い待遇なのが何か悔しい! 誘拐されたっぽいのに! のに!!
……それにしたって、どうしてティズさんが私を眠らせたんだろう?
側にはシィダも居ないし……狙いはやっぱり私だったって事だよね。傭兵の仕事って、人攫いとかも含まれてる事があるの……?
流石に現代日本人には、傭兵の仕事の範囲とか分からないよ……。
うんしょ、うんしょとベッドから降りて、ざっくりと部屋を調べてみる。
部屋には鍵が掛けられているらしく、ドアは開けられない。窓はあるけれど、こちらには鉄格子が嵌められていて、簡単には出られそうにない。
……まあ、魔法でぶっ飛ばしちゃえば開けられるかもしれないけど、何の策も無しに脱走なんてしたら上手くいかないに決まってるね。外に出たとしても、そもそもここがどこなのかも分からないんだからさ。
……とりあえず、今は大人しくしているしかなさそうかなぁ。
私が誘拐された時期を考えて、ティズさんに誘拐の指示を出した人は、私がヴィオレ魔導王国の次期魔王になったのを知ったからだと思う。
それで私を誘拐する事で、お父様に揺さぶりをかけて戦争を有利に運ぼうとしている……。
そして、今のところ私に危害を加える予定は無い……と考えるのが自然かな?
これでも中身は大人ですからね、状況分析ぐらいは出来ますとも!
……ただ、めちゃくちゃ怖いけどね。いきなり誘拐されるだなんて思わないからさ。
「お父しゃま……エディしゃん……シィダ……」
最後まで一緒に居たシィダとすらも離ればなれになってるだなんて……不安にならない訳ないじゃん……!
この世界で初めて出会ったエディさんは優しい人だったから良かったけど、今度だって相手が良い人だなんていう確証は無い。下手をしたら、殺される事だってあるかもしれないんだ……。
それにヴィオレ魔導王国としては、姫が誘拐された事になるんだ。
これだけの部屋……窓から見える限りでは、かなり大きな建物らしい。誘拐を命じた人物が他国の人だとすれば、国際問題に発展するし……そもそも魔界では、どの魔王が統一するかの戦争が起きてるんだよ?
このままだと争いが激化するのは避けられないし、お父様だってエディさんだって、絶対に私を助けようとするはず。ムウゼさんやナザンタさんだって、本気を出して戦うはずだ。
そうなると……。
「私のせいで、傷付く人が増えちゃうな……」
お父様達だけじゃない。
名前も知らない騎士さんや兵士さん、戦火に巻き込まれる人々……。
私がもっとしっかりしていれば、こんな事にはならなかったかもしれないのに……!
「……どうにかしなくちゃ。わたちが……今のわたちが、やれるだけの事を……!」
*
それからしばらくして、お腹が空いてきた。
それもそうだ。お昼ご飯を食べる前に誘拐されてきたんだから。
空腹を自覚して少ししてから、部屋の外に人の気配を感じた。
コンコン、とノックの音がしてから、控え目にドアが開かれる。
「入りますよ〜」
状況に似合わない呑気な声……それも、子供の声だった。
「えっと、初めまして……! ボク、エドゥラリーズって言います。長いからエドって呼んで下さい!」
エドと名乗ったその少年は、私より何歳か上に見える。
彼の髪は綺麗なピンク色をしていて、瞳はキラキラとした青。その組み合わせは、どこかで見た覚えがあるような……?
「あっ、そうだった! お腹空いてませんか? 何が好きか分からなかったから、色々と持って来てみたんですけど……」
そう言って、彼はお盆に乗った色々な料理をテーブルの上に配膳していく。
お肉にお魚、サラダにフルーツ……。食事の水準も悪くない。むしろ王宮で出るものと大差無さそうだ。
どうしてこんなに高待遇で誘拐されるんでしょうね……?
ていうか、捕まえた相手を子供に会わせて大丈夫なんです??
色々と困惑する中で、エドがとびきりの笑顔でこう言った。
「ティズから聞いてます。君の名前、ルカって言うんですよね? 最初は慣れないかと思いますが、これから少しずつここでの暮らしに馴染んでいってくれると嬉しいです。だって君は──
──父上が決めた、ボクの婚約者なんですからね!」
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